表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双つ花  作者: 淡雪
18/30

第18話「血より赤い愛」

結依の影が、ゆっくりと近づいてくる。

バールの先端が、夜風にきらりと光った。


咲良は思わず加奈の前に立ちはだかる。


「結依、やめて。加奈は、なにも――」


「なにもしてない?」


結依の声は淡々としていた。

それが返って、狂気を際立たせていた。


「お姉ちゃんの手を握って、泣いて、縋って。そんな“なにも”が、どうしてあんなに優しく見えるの?」


結依は、咲良のすぐ目の前で足を止める。


「わたしじゃ、だめだったんだね」


その目には、もはや怒りも悲しみもなかった。

あるのは――燃え尽きた灰のような、静かな絶望。


「ねぇ、お姉ちゃん。ほんとうに、わたしを“選ばない”の?」


「結依……そんなこと、決めたわけじゃ――」


「なら、今ここで決めて」


バールが地面に“カン”と落とされる。


結依はそれを足元に置き、両手を広げた。


「ここで“わたし”を選ぶなら、あの子を置いて一緒に帰って。そしたら、全部水に流す」


「もし、“あの子”を選ぶなら……」


一拍、間が空く。


「わたし、飛ぶから」


その言葉に、咲良の呼吸が止まる。


「飛ぶ……?」


「このまま、屋上のフェンスから。ね、どっちかにして。もう耐えられないの、わたし」


咲良の視界が揺れる。

心臓が早鐘を打ち、足がすくみそうになる。


「どうして……どうして、そんなことを……!」


「だって、お姉ちゃんの“世界”の中で、わたしが“ひとりぼっち”なのが、一番つらいから」


結依の目に、うっすらと涙が浮かんだ。


その姿は、残酷で、悲しくて、そして――どこまでも純粋だった。


咲良は、言葉を失ったまま立ち尽くす。


(どちらかなんて、選べるはずがないのに)


けれど結依は、たしかに待っていた。


自分だけを、見てくれるその瞬間を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ