第16話「沈黙のSOS」
その夜。
咲良は布団の中でスマートフォンを握りしめていた。
画面には、加奈の連絡先。
何度もタップしかけては、キャンセルを繰り返している。
(返事がない……)
今日一日、学校を休んでいた加奈。
メッセージを送っても既読にならない。電話も通じない。
(まさか、本当に――)
心の奥に、冷たい恐怖が広がっていく。
そんなとき、不意にスマートフォンが震えた。
咲良は反射的に画面を開く。
差出人:非通知番号
件名:「彼女の最後の場所」
添付されたのは、一枚の画像だった。
薄暗い屋上、手すりの前に立つ加奈の後ろ姿。
制服の背中が、強い風に揺れていた。
(これって……学校の、屋上――!?)
咲良は息を詰めた。
時間は、夜の9時13分。
――ほんの数分前に撮られたものだった。
胸が苦しい。
喉の奥に鉛を流し込まれたような感覚。
(今からじゃ、学校には……)
そう思ったとき、もう一通のメッセージが届いた。
差出人:結依
本文:「お姉ちゃんが行くなら、彼女は助かる。行かないなら、知らない」
その言葉に、背筋が凍りついた。
(これは――脅しなんかじゃない。あの子は、本気で……)
咲良は跳ね起きると、部屋を飛び出した。
鍵を閉める音も、足音も気にせずに。
ただ、加奈の元へと――
(間に合って、お願い)
靴ひもを結ぶ時間すら惜しんで、サンダルのまま外へ駆け出した。
風が強い。
夜の空気は、夏の終わりの熱と、何か不穏なものを孕んでいた。
咲良はただ、走る。
呼吸が乱れ、足がもつれても。
脳裏には、加奈の後ろ姿と――あの、結依の無表情な瞳が、ずっと焼きついていた。




