第13話「ガラス細工の姉妹」
鋏の銀色が、夕陽に鈍く光った。
「やめて、結依……!」
咲良が叫ぶその声は、もう姉としての威厳ではなかった。
ただ、一人の人間としての――恐怖だった。
だが、結依の顔に笑みが浮かぶ。
「こわい? ねえ、お姉ちゃん。わたし、こわい?」
ゆっくりと歩み寄ってくる。
手にした鋏は、まだ開かれていない。
だけど、その先端がどこを目指しているかは明白だった。
「加奈を傷つける気なの……?」
「ううん、違うよ」
そう言って、結依はその鋏を自分の髪に当てた。
「お姉ちゃんの手を、あの子に握られたのが、すっごく痛かったから」
一束、切り落とされる。
「胸がぎゅーってなって、ね、だから……」
二束目。髪が床に落ちる。
「この痛みで、おんなじくらいにしておこうって、思ったの」
まるで、祭壇で何かを捧げるような手つきだった。
咲良は、一歩、結依に近づいた。
「結依、それは違うよ。そんなことしても、気持ちは消えない」
「じゃあどうすればいいの? どうすれば、お姉ちゃんはわたしを“見て”くれるの?」
その目には、涙も、理性も、もうなかった。
咲良の手が、結依の手から鋏をそっと奪い取った。
「わたしは……ちゃんと、見てる。見てたよ。ずっと」
そして、抱きしめた。
まだ小さな体。
震える肩。
失った分だけ、取り戻そうとする必死さが、肌越しに伝わってくる。
(この子は、わたしを“壊そう”としてるんじゃない。わたしと“一緒に壊れたがってる”んだ)
結依が、声を漏らした。
「……じゃあ、逃げないでよ。わたしの世界から……絶対に」
咲良は答えられなかった。
ただ、結依の髪に指を差し入れて、そっと撫でた。
その指先に触れた髪の端に――鋏の刃が、わずかに残した赤い線があった。




