第12話「壊れゆく視線」
「やっぱり、お姉ちゃんは加奈さんを選ぶんだ」
その一言を最後に、結依はゆっくりと図書室へ足を踏み入れた。
スカートの裾が揺れるたび、床に硬質な音が落ちる。
咲良の手の中で、加奈の指先が小さく震えた。
(逃げなきゃ――)
そう思って立ち上がろうとしたとき。
ガシャンッ!!
結依の手から、何かが床に叩きつけられた。
それは、陶器の小さな箱――かつて咲良が誕生日にあげた、音符模様のアクセサリーケースだった。
「返すよ、お姉ちゃん。これも、記憶も、気持ちも、全部いらないってことだもんね?」
結依の声は、笑っていた。
でもその目は、笑っていなかった。
「加奈さん。……ねぇ、あなた、なにをしたの?」
「わたしは……っ、咲良ちゃんを守りたいだけ……!」
「違う。あなたは、“盗んだ”んだよ。わたしから、お姉ちゃんを」
机の上の本が、一冊ずつ床に叩き落とされていく。
無言で、淡々と。
けれどその所作の一つ一つが、尋常ではなかった。
「じゃあ、返して」
結依が、加奈に近づく。
「返してよ……お姉ちゃんを……返してよッ!!」
その叫びと同時に、結依の手が加奈の髪を掴んだ。
「やめて!!」
咲良が叫び、ふたりの間に割って入る。
加奈がよろけて尻もちをつく。
結依は、呆然と咲良を見た。
「……なんで、あの子を庇うの……? わたしが、どれだけ、お姉ちゃんのこと……」
そのまま結依は、その場に崩れ落ちた。
床に膝をつき、両手で頭を抱えながら、嗚咽のような笑い声を漏らす。
「ははっ、あはっ、ねえ……お姉ちゃん……」
彼女の目に、理性はもう残っていなかった。
「これで終わり、なんて思わないでね。まだ、ぜんぜん足りてないから」
そして――結依は静かに立ち上がり、
図書室の棚の奥に手を伸ばした。
そこには、鋏があった。




