第10話「それでも、守りたい」
翌朝、咲良は自分の部屋の窓から、校門に向かう学生たちをぼんやりと見下ろしていた。
制服の袖の中には、まだ薄く痛みが残っていた。
それは昨日、結依に刻まれた“もう一つの名前”――加奈の頭文字だった。
「“私が消せばいい”って、そう言ってたよね……結依」
寝起きの頭でぼんやり思い出すと、胃の奥がひりついた。
“消せばいい”――冗談じゃないと信じたい。
でも、昨日、倉庫の扉が閉まった後の結依の目は、本気だった。
(結依は……加奈の存在を、消そうとしてる)
制服を着る手が止まる。
(でも、加奈はなにも知らないわけじゃない。あのときの目……わたしの袖を見たとき、確信してた)
わたしは、加奈の優しさに甘え続けていた。
黙って、すがって、何も言わずに“妹に支配される自分”を隠して。
(あの子は、わたしを助けようとしてくれたのに)
咲良は思い切って、スマートフォンを取り出す。
加奈の連絡先を開く。
指が震える。
(いま、この手で――)
メッセージを打ち始める。
「加奈ちゃん。話したいことがある。今日の放課後、図書室に来てほしい」
送信ボタンを押すと、胸がぎゅっと締めつけられた。
(わたしが守らなきゃ。あの子を――加奈を、結依から)
たとえ、自分が壊れても。




