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最終話 グッバイ、平穏



 「花びら舞うときに、あなたへ」は、婚約者に捨てられたヒロインが清廉潔白な騎士と出会い、傷ついた心を癒しつつ愛を育んでいく…というラブストーリーだ。

 ヒロインをマリア、清廉潔白な騎士をユセフが演じることになっている。

 夜の帝王がまさかの清廉潔白な騎士役。投票時に「こいつには誰も入れないだろう」と男子たちが思っていたのも頷ける。ミスマッチ感がすごい。


 それでも、ユセフは(安息の地を求めて)真面目に演劇の練習に来ていたし、友人・同士と仲良く準備に取り組んでいた。そのため、チャラ男だから、と色眼鏡で見ていた女性陣も「意外とちゃんとしてる…」と見直す。ヒロイン役のマリアにも下手にアプローチせずに、クラスメイトの距離感を保って接しているのもポイントが高い。

 正直、こんなに真面目に学園祭の準備に取り組むとは思っていなかった。


 なので、ユセフもちゃんと配役に合うよう整えてあげよう、ということになり、服装やら姿勢やら表情やら、清廉潔白な騎士のイメージに合うよう指導した。マリアの完璧な相手役にするのよ!と女性陣は鼻息が荒い。突如始まったスパルタ教育に、ユセフは泣いた。


 一方、マリアはというと、どんどん磨かれていくユセフに胸が高鳴っていくのを感じていた。ユセフの無邪気な笑顔と、優しい感謝の言葉にきゅんとしてから、マリアはチラチラとユセフを観察するようになっていた。

 友達2人は「あいつはチャラ男だから気を付けるのよ」と忠告していたが、「チャラ男とは……?」とその言葉の意味に悩むほど、彼は女遊びもせず真面目に、友人たちとはしゃぎながら日々を過ごしている。また、傷だらけになっていることが多いので、意外とおっちょこちょいなのかもしれない。


 余裕のある表情や雰囲気なのに、意外と子供っぽいところもあるのね、とマリアはさらにユセフに魅力を感じた。


 なお、傷だらけなのは毎日の悪戯のせいだし、女遊びをしていないのは、猛獣たちに目をつけられてしまったユセフに巻き込まれたくない女性陣が彼から離れたせいだ。せっかく関係性を築いた婿入り先の候補が軒並みなくなってしまったので、ユセフは落ち込んでいる。


 そんなこんなで、色んな思惑がありつつ、無事に本番当日を迎えた今日この頃。


 マリアはというと、マリアに見慣れたクラスメイトが意識を飛ばしそうになる出来に仕上がった。

 衣装を着て、メイクをして、綺麗に整えたマリアはこの世のものとは思えなかった。「美しいと可愛いって両立できるんだね」と、鼻血を出してぶっ倒れたクラスメイト(女子)は語る。

 これは、劇本番で天に召される人が続出するのではないか、と心配する面々。劇が始まる前に、注意喚起のアナウンスを流そう、と意見は一致した。

 一方、ユセフはなんとか、「まあ、清廉潔白とはちょっと違うけど、真面目そうな騎士だよね」と言ってもらえそうな見た目に整った。そこそこ整った顔立ちでもあるので、なかなかの騎士ぶりである。


 そうして始まった学園祭。演劇は全校集会が行われるホールで、各クラスが発表していく。マリアを見た他クラスの生徒がぶっ倒れ、保健室へ次々と運び込まれながら、マリアたちのクラス発表が始まった。


 ユセフは演劇中も気を抜けない。アクシデントに見せかけて天井から装飾品が彼めがけて投げられたし、マリアとのちょっとしたラブシーンを演じた後、マリアが舞台袖に引っ込むと、観客席から野次が飛んだ。なんなら、何かモノも投げられた。

 なお、そんなことをした人たちは、即座に警備にとっ捕まえられて、連行されている。「マリアたんを見たいんだ!!!」「ごめんなさいごめんなさい!!」「マリアたーん!!!!」と泣き叫びながらの退場だ。

 最初のラブシーンだけで一気に一般客20人ほどが退場になり、ユセフへのヘイトを貯めていた猛獣たち(鋼の理性で、クラス発表の妨害はしなかった)や一般客として来場していた過激派たちも、マリアの晴れ舞台をしっかりと見るために、自制することを心がけた。


 とはいえ、前半よりも後半の方がラブシーンは多いし、もっと濃くなっていく。必死に働かせていた理性が吹き飛び、妨害行為をして退場する者が相次いだ。


 そうこうして、何とか迎えたクライマックス。小説ではマリアと騎士のキスシーンで終わるが、さすがにそれをしたらユセフが殺されるだろう、と哀れに思った脚本担当により、抱きしめあってから、額をこつんとあてて微笑む、というシーンへ変更された。

 それでも、マリアを抱きしめたときは観客席から悲鳴やら怒声やらが飛んできたけども。


 無事にクラス発表を終えたユセフは、ホッと一息をついた。これでもう、自分は解放される!!!今日は友人と祝杯をあげよう。


 これまでの波乱万丈な毎日を思い、涙が出るユセフ。

 マリアは、涙ぐむユセフを見て、「クラス発表が終わって感動してるんだわ……」と、またきゅんとした。


「ユセフさん」

「ん?なに?」


 最後のカーテンコール中。劇の練習を経てユセフを名前で呼ぶようになったマリアが、こそっとユセフに声をかけた。大歓声の中での小声だったため、よく聞こえずに身体を屈めてマリアの方へ耳を近づける。

 マリアは、そんな気遣いにもきゅんとして、ちょっと大胆な行動をとってしまった。



「とっても楽しかったです。ありがとうございます」



ちゅっ



「え」


 内緒話をするように、手を当てていたので観客には見えなかっただろう。だが、頬に当たったまさかの感触に、ユセフは硬直した。

 頬にキスは、家族とか恋人とか信頼関係を築いている友人とかにするものだ。友人関係が築けたのかーと思いたいが、マリアの表情がそんな逃げを許してくれない。


「今度、一緒にお茶してくださいね」


 頬を赤らめて、そんなことを言うマリア。あまりの可愛さにユセフは「え?あ、うん?」と呆然と返す。


「楽しみです…」





 その表情は、まさに恋する乙女で。




 ユセフはいたるところから刺さる視線に、自分の平穏な日々が本格的に失われたことを悟った。


 頑張れ、ユセフ。





本作をお目通しいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] とっても面白かったです! この勢いのまま、その後のお話が読みたいです 頑張れ、ユセフ~! ※部族長、何気に好きです
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