雷のとどろく夜
昼間から、高度電脳帝国は、警戒態勢に入っていた。
大きな雷雲が通過するため、電源が不安定になりやすいためだ。
高度電脳帝国は、大きな発電所というものはなく、10軒から数10軒単位で、発電を行い、それを共有している。主力の発電は、太陽光、風力などの発電設備で、それらを、蓄電池に蓄えて、使う。基本は、直流5Vと直流12Vである。
政府の中央コンピュータは、大量の電力を消費するため、大規模発電所があり、そこから供給される。大規模発電所が、どのように発電しているのかは、不明である。数百年間にわたり安定した電気を作り出しているのをみると、地底熱のようなものを利用しているのかもしれない。
高度電脳帝国には、近距離移動には、馬のような、ロバのような、犬のような、大きさの乗り物があり、それらは、必要に応じて、自由に呼び寄せ、行きたい場所を指示すると、自動で、連れていってくれる。どのように空中を移動しているのかは、不明だが、たぶん、道路には、磁石のようなものが埋められており、磁気反発を使っているのかもしれない。もしくは、空気の力をうまく使っているのかもしれない。もしかすると、4本または、6本足を、人間の認識を超えたスピードで動かすことによって、空中に浮かんでいるように見えているのかもしれない。
階段も自由に登ったり、降りたりすることもできるので、ちょっとした買い物にいくには便利である。スーパーマーケットにいくと、みんなこの乗り物にのったまま買い物をしている。
トガリ山では、自分の足で、どこへでも行っていた。どんな険しい坂道も荷物を背負って上ったものだ。
ケイタ「おい、これを見ろ。スポーツ大会をやるってよ。」
コータ「ほんとだあ。僕たちが出たら、とびっきりの優勝だな。」
ケイタ「このポスターみると、みんな、なにか、器具をつけているぞ。たぶん、筋肉サポートをしているんだな。」
コータ「それって、インチキじゃないですか?」
ケイタ「でも、高度電脳帝国の伝統なんじゃないかな。長年の伝統の中で、いろいろ進化したんじゃないかな。速く走れる靴、よくあたる弓、グローブ、ボール、バットなど、スポーツにはいろいろな道具が必要なように、いろんなスポーツは、いろんな道具が発展してきた。」
コータ「でも、僕たちなら、絶対、優勝できるじゃないかな。」
ケイタ「できるかもしれないが、我々の存在が目立ってしまうじゃないか。すると、なにが、おきる?」
コータ「有名人になって、大金持ちになる。」
ケイタ「ブーブー、ハズレだな。このスポーツ大会を目指して、日々特訓をしている人たちを、外国からやってきたよそ者が、あれよあれよと、賞金、名誉を横取りしてみろ、殺されるぞ。殺されないまでも、ものすごい、嫌がらせにあうぞ。」
コータ「まさか。高度電脳帝国の人は、理性的で、知的な人たちだよ。」
ケイタ「それは、高度電脳帝国が、秩序を保って、平和であるかぎりな。僕たちが、スポーツ大会に僕たちが出るということは、その秩序や平和が、破れるということなんだぞ。」
コータ「秩序や平和が破れると、どうなる?」
ケイタ「理性的で、知的な人間も、何をしだすか予想がつかないということだ。」
コータ「そうかもしれないなあ。」
雷鳴が轟き、落雷が発生しているようだ。建物さえ、揺れているかもしれない。
高度電脳帝国は、十分な安全体制が出来ているはずで、こんな雷、暴風程度で、びくともしない。しかし、安心は禁物だ。雷の電気は、瞬間的には、数十万ボルト、数百万ボルトというとんでもない電気が、空間を走りぬけているのだ。
高度電脳帝国、および、すべての電脳板は、警戒態勢をとっていた。
すべてを知り尽くし、すべてを記録している電脳板にも、この夜のケイタとコータの会話のデータが存在しない。
電脳板にとって、記憶のない夜となった。