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死神さんがくれたもの

作者: 秀の要の誠

その人は突然言ったんだ。あなたはもう時期死ぬと、

謎しか生まないその男性と不可解な謎にぶち当たる。

そんな普通が謎の世界。

それでは死神と槇さんの世界へ行ってらっしゃい。

 「あぁ、死にたい」

 当然のようにそう呟く。

 きっと私だけではない。ここ最近の中高生はあたかも普通に、会話の中でその言葉を発する。

面白くても、つまらなくても、楽しくても、遊びでも、誰でも軽々しくそう呟いてしまう。

最近に関しては教師もそうだった。そんな言葉を使うな〜と軽く注意をしてくることはあるが、ただそこまでであった。


 ……でもきっと、誰も意味なんて理解していない。


 夏も過ぎ、そろそろ寒くなってくる頃であった。

 私、犬上槇(いぬがみまき)は、どこにでもいる、普通の高校二年生だ。

成績は中の上と言ったところかな。運動はそこそこ、部活は一応バスケ部。あとは彼氏がいたら完璧と呼べたかもしれない。

「にゃあ〜今日も疲れたね」

私の横はいつもこの子が占拠している。名前は、水野瑠夏(みずのるか)。高校から同じになって、一、ニ年と同じクラス。今では一番仲がいいと呼べる子であった。

「槇はさ〜彼氏作らないの?」

「え〜作らないというか作れないの」

「そんなことないじゃん。槇可愛いよ?」

「よく言ってくれるよ。彼氏持ちは違うな」

この子と私の圧倒的な違いはそこだった。似たもの同士そして仲良しであっても、瑠夏ちゃんには彼氏がいた。別に今更嫉妬をするような仲でもないけどね。

「でも私知ってるぞ〜?槇好きな人はいるでしょ」

「えぇ、居ないよ。いないいない」

「ここでそんな反応?隠す関係でもないでしょ」

そう言われちゃうと何も言えなくなってしまう。

「いるよ。礼夜(れいや)くん、」

「きゃぁ〜わかった応援するヨォ?」

「いいよ何にもしなくて、このままが一番楽しいし」

「何それ〜死ぬ死ぬ」

「事実だし?」

「もし告られたらどうするの〜?」

「そしたら死んじゃうな〜。おっけいしちゃうかも?」

「どっちだよ」

そういい二人で笑い合う。私はいつもこうして下校していた。そしてこれからもずっと、それは変わらないと、そう思っていた。


 「じゃぁね〜気をつけるんだぞ」

 「は〜い。バイバイ」

 私の家は瑠夏ちゃんの家より少し遠い。だからここからは一人の時間だ。

 私はこの時間も好きだ、放課後というのはなぜか不思議な気持ちになる。人通りがいつもより少なく、青かった空の色は静かな赤色に姿を変える。私を照らす陽の光は、私の影を長く前に伸ばしていく。

この時間が、この日常が続けばいいのにな。


 「こんにちは〜うわぁっとあぶね」


 あれ?声……?

 周囲を見渡しても何も見えない。気のせい…だったのかな?

「上ですよ上。こっちこっち」

言われるがまま空を見上げる。

「改めまして、こんにちは。わたくし死神です」

その唐突なカミングアウトに私の頭の中は、はてなでいっぱいになった。

「あれれ?聞こえてないのかな。人間に見えるようになったはずなんだけどな」

あれれ?と言うように下に降りてくる。

………え?空を飛んでたの?どういうこと?理解が追いついていないことが一瞬でわかってしまった。

「えと〜聞こえてます?」

「あ、あぁすみません。えっとぉ〜」

「はい!死神です!」

「しに、がみ?」

この人が何かを喋るたびに疑問が増えていくだけであった。

「あはは。いきなりこんなこと言われたら困惑しちゃいますよね。わかりますよ」

「えっと、どうしたんですか?」

「そうですね。単刀直入にいうんですけど」

と一拍を起き、死神と名乗るその男は口を開いた。


    ーーあなたには死期が近づいていますーー


「………えっ…………」

 その言葉を言われた瞬間頭が真っ白になるのを感じた。血が抜けたような、そんな気がした。

 いつまでも続くと思っていたこの日常が、終わる。唐突に告げられた死に衝撃を隠せないのは無理もないだろう。

「おっと、大丈夫ですか?」

どうやらふらついてしまったらしい。倒れかけた私を死神さんはそっと支えてくれる。

「言い方が悪かったです。これは予期せぬ死期なのです。」

「……ど、どういうこと、、なんですか?」

「はい。詳しく説明させていただきますね」

と、死神さんは語り始める。


 まず第一に伝えておかないといけないことがあります。

死期、と言うのは本来生まれたその瞬間に決まっている物なのです。


 人間界で言うなれば寿命ですかね。その寿命は、事故であっても病気でも、人が想像する寿命でも、その全てを指し、人の死。人が死ぬまでの時間のことです。


 そしてそれは私たちが認識し、回収しに行かなければなりません。それをするのが死神の仕事というわけです。

ですから、事故が起きる人、病気で寝込んでいる人、そう言った人の近くには私たちが潜んでいるんです。まっ人間の目で認識することはできないんですけどね。


 そして今回、いつものように死期が近づいている人間がいる。と、私たちが住む天界にも報告が来たわけですよ。いつも通り死神が向かおうとしたわけですが、少し天界が荒れる事件があったのです。

本来死ぬはずじゃなかった。寿命がまだ残っているはずのあなたに向けての、報告だったからです。

ですが、寿命がありながらも天界に呼ばれる人はいます。

寿命がまだ残っているのに、天界に呼ばれる原因は大きく分けて二つあります。


 一つは、罪人ですね。この世界の秩序、ルールを守れなかった人間は天界の上層部より呼び出し、言わば死が受け渡されます。人間界ではそれを死刑と呼ぶようですね。死刑囚が時効で逃げ切った、などの場合は呼ばれるほどではないと、私たちが判断した場合です。


 二つ目は自殺です。ですがこっちは少し特殊で、天界に入ることは許されなくなります。自ら命を断つその行為。決して否定するわけではないですが、天界ではタブーと言っても差し支えないでしょう。また寿命を減らす唯一の方法と言っても過言ではないでしょう。


 ですが、ここで問題があるのです。あなたに罪や罰を受ける理由はない。その上自殺をするような人間でもなかったのです。事実私から見てもあなたの寿命は未だ不透明です。


つまりですよ。あなたの予期せぬ死。それを探り阻止するまでが私の仕事というわけです。まだ生きている人間が私たち死神を認識できているこの状況は、かなりイレギュラーと言えるでしょう。もしも、自殺や罪人だった場合それはあなたに蓄積する痛みになるでしょう。



 長々と語ってくれた。

 この人が言っていることはよくわからなかったけど、わかることもある。

 例えば、私は今自殺をするつもりは毛頭ない。それどころかそっとやちょっとのことでは考えることすらなかっただろう。

「理解していただけました?」

心配そうに尋ねてくれた死神さんに私は「はい」と答えることしかできなかった。


 あれから時間も経ち、死神さんは私に思考する時間をくれた。いきなりだった。自分の死を宣言されたと思ったらそれは間違え?自分が生きている世界と違いすぎて、正直話について行くことすらままならなかった。

「はぁ〜どうしたらいいんだろう」

お風呂場で一人そう呟くのだった。



 「おばあちゃん〜今日のご飯なに〜」

 とりあえず考えても仕方がない。また死神さんに会った時に色々聞けばいいよね。そう考え、今日はいつも通り過ごすことにした。いつも通りお風呂から上がれば、自室で少し休む。完全に死神さんのことを忘れることはできなかったけど、心のリラックスにはなった。

明日の宿題、準備もあるし〜片付けもしないとな。そうこうしている間にも時間というものは止まることを知らない。

流れている時間を認識することになったのは、おばあちゃんが私を呼ぶ声であった。

「槇ちゃーん。ご飯ですよ、降りといでぇ」

「はぁーい。ありがと」

 ふと時計を見てみると、すでに十九時を回っていた。何かに集中をすると、私は時間を忘れる。いつもいつのまにか時間が過ぎているのだ。そして、何かに集中をするたびに他のことが頭から抜ける。実際今死神さんのことはほぼ頭に残っていなかった。


 そもそも、あの人が言ってることは本当のことなんだろうか?それすら確証がない。ただ空を飛んでいた、ただ死神のような見た目をしていた。それだけで断定するのは少し弱い気もする。

「槇ちゃーん?」

「あ、はーいごめーん」

とりあえず私はおばあちゃんの元へと急いだ。


「槇ちゃん何してたの?」

「ごめん、ちょっと考え事してたらね」

「全く、自分の世界に入ることがただでさえ多いんだから気をつけなさいよ?」

「はぁーい」

 おばあちゃんは優しい。私はこの家でおばあちゃんと二人で暮らしている。おばあちゃんは年頃の私に優しく、精一杯尽くしてくれる。だから私はおばあちゃんのことが大好きだ。もちろんお父さんもお母さんのことも好き。それを認識するたびに私は幸せなんだと、認識することができる。

 ……でも、両親はいない。私に記憶はないけれどお母さんもお父さんも私が幼い頃に亡くなった。おばあちゃんの家に住むようになったのもそれからだった。

 お母さんは優しかったはずだ。よく覚えてないし、思い出も少ない。………でも、それでも私のお母さんだということに変わりはなかった。お母さんの話をする時のおばあちゃんは本当に楽しそうに話す。その姿だけで、お母さんの人柄は読み取れた。

………もし叶うなら、もう一度会いたいな。


 「どうしたの?嫌なことでもあったのかしら?」

 私の思考を切ったのはおばあちゃんだった。

「うんん。なんでもないよ。お母さんってどんな人だったかまた教えてよ」

「そうね、お母さんは優しかったわね〜」

やっぱりそうなんだ。お母さんは優しくて可愛くて強い。いつもそう聞く。

「あら?槇ちゃんずいぶんお母さんに似てきたわね。ほんとそっくり」

そう言って、私の頬に手を置いてくれた。

「ふふ、ありがと」

おばあちゃんが置いてくれた手に手を重ねて言った。


 いつもはこんなこと考えもしないけど、やっぱ死神さんの存在が少し気がかりになっているのかな?自分でもわからなくなるほど困惑しているのかもしれない。ただいくら考えても答えが出ることはなかった。

今日は切り替えるってさっき決めたんだ。いつも通りにしよう。それをまた認識し、おばあちゃんに声をかけた。

「それよりおばあちゃん聞いて!」

それからいつものような楽しい雑談を繰り広げた。


 食事を終え、雑談をしてから私は自室に戻ってきていた。

……そして、その光景を見て私は動けなくなってしまった。

開いた口が塞がらないとは本当にこの事なんだろうと、そう実感した。

「やぁやぁ。お邪魔してますよ」

「いやいや、お邪魔ってなんですか?てかなんでいるんですか?」

「え?そんな離れられても困りますし」

そんなこと言われたって、え?言葉がうまく出なかった。

「と言うかここ私の部屋ですよ?女の子の部屋に入ってきていいんですか!」

「残念ながら死神に性欲は存在しないんです。はは」

はは、じゃないよ。この死神は常識が通じないの?

「残念ながら死神に人間界の常識はありません」

「えっ心も読めるの?」

「いつも見えているわけではありません。ただ見ようとさえ思っちゃえば?」

死神、なんでもありなんだなぁと思った。ただ少し恥ずかしさも込み上げてくる。焦りと疑問で自分が何者かさえも忘れてしまいそうだった。

「まぁ嘘なんですけどね。はは」

死神は殴っても罪にはならないよね?一発ならいいよね。

「私が見える心と言うのは、その人の想いの強さです」

「え?どう言うこと?」

「そうですね。さっきの常識みたいなやつは相当あなたに衝撃を与えたようですね。心の声ダダ漏れでした」

そう言うことだったんだ。想いの強さ。この人?と会ってからは非現実な事が多過ぎて、頭の混乱がいつまで経っても消えなかった。

「まぁ、この先を言うにはまだ早過ぎすね」

「どう言うことですか?」

意味深なことを言う死神さんから返事はなかった。

「すみません。少し図々しいかも知れないんですが、遊び行きませんか?」

「本当に突然ですね。遊びってもう夜ですよ?何も面白いことなんて…」

そう言えば町民の小さな祭りがやられているかも知れない。人間の文化それを少し体験するぐらいならそれで事足りるか。

「それじゃ小さなお祭りに行きますか?場所もそう遠くないので」

「本当ですか!ぜひ行きましょう。人間界に降りてくること自体仕事ばっかなので、そう言うの初めてですよ!」

ぱぁーん、と死神さんの顔は笑顔になった。この姿だけを見たら弟のように思えてきた。

「そういえば、私死神はあなたの付き添いのようなものなので、敬語は外してもらって大丈夫ですよ」

「と、言われましてもね。初対面に近いので」

「あはは。大丈夫ですよ。天界からは観察させていただいてたので」

「え、なにそれきも」

咄嗟に私はそんなことを発してしまっていた。

「心に来ますね。でもそっちの方が関わりやすくてありがたいです」

「わかった。そこまで言うならタメ語にするね」

「ぜひぜひ。それではお祭りに行きましょ」

ぴょんぴょんと跳ねながらそんなことを言う死神さんは、なんと言うか幼かった。


 「おばあちゃん〜ちょっと近所のお祭り行ってくるね」

おばあちゃんに一言告げて、私は靴を履き替える。

「そうかい。気をつけてくるんだよ」

おばあちゃんは優しい。少し時間が遅い外出だが許してくれた。きっと気分転換だと思っているのだろう。その上玄関まで出てきてくれた。

「あら?」

「どうしたの?おばあちゃん」

「いやぁ〜なんでもないわ。楽しんできてね」

「うん!行ってきます」

「はい。行ってらっしゃい」




 「どうでしょう。私の自慢のおばあちゃん」

家を出て数分後、私は死神さんに話しかけていた。

死神さんはずっと私の隣にいたのにおばあちゃんに話しかけられなかったあたりを見て、本当に見えないのだと認識した。

「なんというか、すごい人ですね」

「すごい?優しいんだよ」

「あぁ、見ててわかりましたよ。子が子なら親も親。よく言えたことですね」

「普通悪い時に使うことなんですけど」

「そうかも知れませんしね」

本当に意味深なことを言う人だな〜と思ったけど、そっと心に留めて置くことにした。

 それから数分私たちはいろんなことを話、前よりかなり仲が良くなったと思う。そして気がついた頃には。

「これがお祭りですか。私が楽しむには値しませんでしたね」

「お面被りながらりんご飴持ってさっきまでチョコバナナ食べてた人が何言ってるの」

そう。気がついた頃には私たちはかなり楽しんでいた。

死神さんも楽しんでくれているようで、ウキウキしている。それどころかすぐ私から離れてしまう。次は次はで祭りに来たのが初めての子供のようだった。

あ、実際に初めてなのか。死神だなんて言われても、こう言うところは人間と変わらないんだな。

って、「あれ?死神さん?」いつのまにか死神さんの姿が見えなくなっていた。いやさっきからいろんな場所に行っていたんだ。しっかり監視しとくべきだったのは私だったな。私が何か考える時、他のものが見えなくなってしまう。時の流れは早いと、常々実感するものだ。

まぁでも、死神さんが姿を消してしまったけど、きっとそう遠くには行っていないはずだ。この町内会の祭りだけ、だとしたら焦って探すこともないだろう。と、そんなことを考えている直後のことだった。


「やぁ、お嬢ちゃん。ちょっと見てかない?」


そう、声をかけられた。さすがは町のお祭りと言うべきか、商品を売るために必死だとわかった。

でもなんだろう。その出店には惹きつけられる何かを感じた。

「………雑貨?」

「そうでございやす。でもね、普通とは少し違う」

「これとか、すごく可愛いですね」

私が手に取ったものは、平べったいお皿だった。焦茶色で歪な形をしている。

「おほほ、お目が高いですなぁ。きっと他のところでそんなもの買おうものなら高い!…いやぁ〜売ってないと思いますね」

「いいですね。こう言う雰囲気、私好きなんですよ。何か不思議な気持ちになるような…。そらこの扇子とか」

「お一ついかがですかい?今ならこのキーホルダーも付けますよ?なんか、<お祈り>の効果が……あるとか、ないとか」

「わかりました。じゃこの扇子ください!」

「へへ、毎度あり……」


 なんか、いい買い物をした気分だなぁ〜。さっき買った扇子も昔を感じさせるような、不思議な雰囲気を感じた。

それに、付けてもらったこのキーホルダー。きっといざって時に役立つ気がした。そんなに高くなかったし、得した気分だった。

「そう言えば」と、さっきのおじさんが言っていたことを思い出した。


 ー普段から身につけていないと効果が出ないかもしれないから気をつけろ。それと人に無闇に見せるんじゃないぞー


どんな意味があるのか、本当に効果があるのかはわからなかったけど、私は人の目に付かないよう普段持ち歩いているポーチにそのキーホルダーをつけるのだった。



 「どこ行ってたんですか!全く焦りましたよ」

死神さんと再開した直後、私はそんなことを言われるのだった。

「いやいや、死神さんが勝手にいなくなったんでしょ」

「人のせいにするんですか」

「人じゃないでしょ?」

「揚げ足を取らないでください。自分の立場わかってます?死期が近いんですよ」

もぉ〜死期が近いって何よ本当に。でもこの死神が出たってことは、そう言うことだと…認めないといけないのかも知れない。それでも、簡単に死というものを理解することはできない。

「ところで、色々装備品が増えてますけど?」

「人間界のお祭りは案外楽しいんですね」

死神さんが持ってるものは増えていた。なぜかお面も二枚着けている。子供だな、とそう思ってしまった。


 それから私たちはお祭りを後にした。

「理由はわからないですけど、やっぱりあなたは死ぬべきではないと思うんですよね」

帰り道、死神さんはそんなことを言い出した。

「そりゃね。私も死にたくなんてないし」

「でも、私知ってますよ?今時の人間はすぐに死にたいだとか、死ぬとか。そう呟くと」

確かに、それはそうだった。誰も意味なんて理解していないのに軽々しくその言葉を呟く。酷い人は、殺すとかそっちの言葉も発する。ただそれは遊びの一環で、誰も本気ではない。

「……確かにそうだけどさ?別に本気じゃないやん」

「人間界の普通というわけですかね。価値観の違いなのでお気になさらず」

ただ、と付け加えて述べる。

「一度死神がこう言っていました。なら死んでみる?と」

どんな理由があって、何を思ってそれを教えてくれたのかはわからない。でも……私にも関係あることだと、そう思った。


 それから数分。家に着くまでの時間私たちの間には静寂が流れていた。何かを話す気分になれなかった。それを理解してくれたのか死神さんも、声をかけてくることはなかった。



 「ただいま〜」

家に着いてからはできるだけ普通にしようと思った。おばあちゃんに気を遣われたくもないし、いつも通りを貫くことにした。

「おかえりなさい。楽しかった?」

おばあちゃんもいつも通り優しい声で出迎えてくれる。

「うん。久しぶりのまつ……」

「ちょっと、槇ちゃん。何かに取り憑かれてるんじゃない」

ハッとした。おばあちゃんが私の言葉を遮ることなんて今まで無かった。それに、おばあちゃんの声に焦りを感じたからだ。

「ほらちょっときなさい」

ペンっと、背中を叩かれた。それを認識した時にはすでに…

「ぐげぇ」

ちょっと死神さん!?

飛んで行った死神さんに心の中でそう叫ぶ。

「まだ、何かある気がするわね。でもさっきよりはマシになったかしら?」

そんなことを言うおばあちゃんに尋ねる。

「どうしたのいきなり」

「ごめんなさいね。ちょっと邪気みたいなのを感じたの。昔も感じたことがあるようなものよ」

「昔?そもそも邪気って?」

おばあちゃんは死神さんが居たことに気づいていたのかな?

おばあちゃんが背中を叩いた時、死神さんは飛んで行った。もしかしておばあちゃんにはそう言う力があるのかも知れない。………いや、考えすぎかな。

「気のせいかもしれないから気にしないでね。念には念を」

「そっか。ありがと」

私の隣に死神さんが居たことは事実だ。おばあちゃんの直感はあながち間違っていないので、素直にそう伝えた。おばあちゃんも「大丈夫ですよ」と優しく言ってくれた。


 それからまた時間も経ち、私は自室に戻ってきていた。さっきお風呂も入ったので、シャワーだけを少し浴びておいた。

「まったく、酷い目に会いましたよ」

「あ、死神さん帰ってきた」

私がベッドの上で寛いでいる時、死神さんが窓から入ってきた。

「魔力でも持ってるんでしょうかね」

「天界には魔力なんてものもあるの?」

「そりゃ、空飛びますし」

「……それだけ?」

「まっ幾つかありますが、使われるのなんてそれぐらいですよ」

思ったより死神というものは人間に近いのかな?

空を飛び、人の命を導くこと以外、私たちの何ら変わらないのかもしれない。

「というか、あの〜ごめんなさいね。おばあちゃんにも悪意があったわけじゃないと思うし…」

「あぁ、大丈夫ですよ。事情は知っていますし、可愛い孫娘のためですから」

「事情?それが私のためじゃないの?」

「あら?ご存知ないんですか?」

またしても意味深なことを言い出した。そしていつも通りそれに答え合わせはない。

「ご存知ないよ。なんのこと?」

「いえいえ、なんでもないですよ。少なくとも死神が言うことじゃないので」

「またそれ?いつ教えてくれるのさ」

「いつでしょうね。死期が来ればわかるかもですよ」

「なにそれ、死んだらってこと」

「さぁ、それもわかりかねますね」

死神さんは何をどこまで知ってるのだろうか。今私が知ってること以上に、知っているのだろうか?死神さんと過ごしているうちにどんどん知りたいことが増えていく。

それでも、その全てを知ることはできないのかな。

「何か悩み込んでいるようなので、一つだけ言わせていただきますね」

「なに………?」

「あなたより、私の方が知ってることは多いかもしれません。それでも知った時、分かるのは、あなたの方だと思いますよ」

「どう言うことよ……それ………」

知ってるのに、分からない。こんなことがこの世界にあるのかな。


 「とりあえず、今日はいいです。私はどこで寝ればよろしいですか?」

「……………………へ?」

「へ?ってなんですか?おかしなこと言いました?」

あっけらかんとそんなことを言う死神さんに私は思わず声を荒げて言った。

「さっきも言ったけど、ここ女の子の部屋よ?しかも年頃の。可愛い女の子がいる部屋に泊まろうって言うの?」

「はは」

「おい何がおかしい」

「いや、可愛いお年頃の女の子というところ。逆センスが高くていいですね」

満面の笑みでそんなことを言ってくる。この無邪気さが逆に腹を立たせる。

「でもそうですね。私にそんな気は一切ありませんが、あなたが嫌だというのなら〜」

と、死神さんは窓からどこかに消えてしまった。死期が近くあまり離せたら行けなかったのかもしれないが、死神さんは私の意見を優先してくれた。

本当に優しいのか、無頓着なのか、よく分からない死神に、

「もう、訳わからない」と、一人になった部屋で呟くのだった。


 私はその日ベッドの中で、死神さんについて考え込んでいた。

 もちろんその疑問や考えはまとまることはない。それでも、考えて、対策しなければ何も始まらないと、そう思った。そもそも、自分の寿命が短くなっている。だなんて、突然言われてもどうすることにもできないんだ。

それに、死神さんは今日たくさんの意味深なことを言っていた。その全てに意味があるのだとしたら、きっとそれは私が知るべき、事実なんだろう。

今日は本当に長かった。午前いつも通り学校に行き、瑠夏ちゃんと帰って、そして……そして、そして。死神さんと出会った。そこから、私の一日は変わった。自分の未来について考えて、死神さんと話して、お母さんの話をおばあちゃんとして、お祭りに行って………案外、死神さんとの一日は楽しいと言えるものだった。明日はどんな一日になるんだろう。


 ぴよぴよぴよ、と。小鳥の囀りが聞こえる。

 気がつき目をこじ開ける。どうやら、考え込んでるうちに寝てしまっていたらしい。何度も言うけど、もちろん答えは出ない。もしかしたら、昨日のこと全て、夢だったのかもしれない。だったら面白い夢だったな。

とりあえず、支度をしよう。一日にイレギュラーが発生しようと、私が学生という事実は変わらないし、学校にも行かなければいけない。別に憂鬱というわけではないけど、朝起きるというのはやっぱり辛いものだ。

一日の始まりのため、私は勢いよくカーテンを開けるのだった。


 バサっ。

「お、やぁやぁ。心地の良い目覚めですね」

一度カーテンを閉める。目を擦り、気を入れ替えてから再びカーテンを開ける。今度はゆっくり静かに開けた。

「いきなりそれは酷いんじゃないですか?てか開けてくださいよ」

「待って、なんでいるの」

「嫌だから、あまり長い間離れることはできないんですよ。それが仕事ですし」

もぉ〜。寝癖だって直してないし、服装もパジャマだ。いくら死神さんとはいえ、見られるのは恥ずかしい。

「ちょっと、待っててぇぇ〜」

恥ずかしさと驚きから、慌てて準備をするのだった。


 「ねぇ、昨日もだけど、突然現れないでくれる?」

「突然と言われましても、まーまー前から居ましたし。窓の外にいただけ褒めてもらいたいものです」

急いで支度をし、少し時間ができたので私は死神さんとそんな話をしていた。死神さんは口を尖らせ、少し拗ねているような感じだった。

「全く〜とりあえず私学校行かないとだから」

「はい!それでは行きましょうか」

「そうだね〜瑠夏ちゃんとかにも紹介しないと」

「ありがたいですけど、他の人間に私は見えませんので」

「そっか〜残念だな〜……………じゃなくて、ついてくるの?!」

「もちろん。ずいぶん長くノリツッコミしましたね。驚きました」

「大体わかってたけどね」

「もう何回もやりましたしね。このノリ」

「じゃ着いてくるのはいいけどさ、学校にいる間話しかけてこないでね?特に人がいる時」

「え〜寂しいじゃないですか」

「死神さんは私にしか見えないんだから変な人だと思われちゃうでしょ?」

「ん〜仕方がないですね。それじゃ遠くから見守ってます」

「ありがと」

なんやかんやで私の意見を優先してくれる死神さんはやっぱり優しいのかもしれない。


それから私は朝食を食べ終え、カバンを持って学校へと向かった。

玄関にお札が貼ってあって少し驚いたけど、きっとおばあちゃんが貼ってくれたのだろう。どうやら死神さんには効果がなかったようだけどね。


 「にゃはは〜おはよ」

「おはよ。瑠夏ちゃん」

朝一瑠夏ちゃんが話しかけてきた。こうして私の日常が始まる。唯一今までと違うことは、後ろに死神さんがついていることかな。

「てかさ〜今日の時間割ゴミすぎないか」

「そうだね。ちょっと大変だよね」

「体育長距離走だよ?男女別じゃないし、死んじゃうよ」

「本当だよね。いやらしい目で見てくる人もいるしね」

「ほんとほんと。あぁいう男子は死んでもいい」

「女子としては嫌だしね」

「しかもさ、今日古典もあるよね」

「あるある」

「あの先生めっちゃきもいよね。なんというか男子と女子の差もすごいし、特に槇は可愛いしやばいんじゃない」

「私は全然だよ。でも嫌な目だなとは思う」

「あんなんが教師っていうのが一番意味わからない!本当に辞めちゃえばいいのに」

そうこう雑談をしているうちに学校に着いた。


 「それじゃまたあとで」

学校に着いてからはそれぞれで準備をし、HRが始まるのを待つ。私たちが先に着いてから数分がチャイムと共に先生が教室に入ってきて、教卓の前に立った。

私たちは挨拶をして、先生の話を聞いた。先生の話もいつもとなんら変わりなかった。今日の授業のこと、下校時間の確認、その他諸々であった。先生の話が終わると入れ替わりで一限目か始まる。私は勉強が苦手というわけではないので、ついていくことは容易なことだった。

「ありゃ〜疲れたね」

瑠夏ちゃんはそう言うわけではないらしく、ヘトヘトになって話しかけてきた。

「まだ一限目だよ?次体育だよ」

「もう帰りたいよ〜もう着替え行っちゃお」

「そうだね。……あ、ちょっと先行っててくれない?」

「ん?どうした?ここで待ってるよ」

「いやお願い。先行っといて」

「珍しいね〜ザボるんじゃないぞ」

そういって、瑠夏ちゃんには先に行ってもらった。理由は単純なことだった。


……………

 「あれ?いいんですか」

「あなたのせいでしょ。更衣室までついてこようとしないで」

「あっ、そう言うことでしたか。なるほど」

「なるほど。じゃなくて、とりあえずここで待ってて!」

「承知しました。仕方ないですね」

もぉ〜。ああ言うところはやっぱり常識がないんだなと思ってしまう。でもそれを言うと、死神には人間界の常識はないので、とか言われるだけだ。そっと心に留めておくことにした。


 「何してたの?」

「ちょっと先生に呼ばれてね。ごめん」

「そかそか〜って、それ買ったの?可愛いー!」

「ん?あぁ、これ?」

瑠夏ちゃんがウキウキして指を刺していたのは、昨日貰った、ポーチについたキーホルダーだった。

「そうなの。昨日お祭り行ってさ、サービスで貰ったんだ」

「え〜お祭りやってたの?しかもサービス?おっとくー」

「そうそう。町民のお祭りでさ。知らない?」

「あ〜なんか知ってるわ。でもサービスか〜」

「いいでしょ〜。扇子についてきたんだ」

「扇子〜?渋いね」

「そうかな〜」

おじさんにはあんま人に見せるなって言われたけど、瑠夏ちゃんぐらいいいよね。瑠夏ちゃんも気に入ってるみたいだし、これぐらいじゃなんともないだろう。

「ちょっと貸してよ」

「いいよ。はい」

「うわぁ〜可愛いな」

「ってほーらー。時間ないよ。次体育だよ」

「そうだね。いそご」

そうして私たちは更衣室を後にした。キーホルダーもしっかり返してもらって、ポーチに付け直した。なんとなく死神さんには見せたくなかったしね。


 それから、その日常は瞬く間に過ぎ去っていった。

私たちはすでに帰路につき、二人で歩いていた。死神さんがいる以外本当に何を変わらない日常だ。ずっと、ずっとずっと、この日常は続いて欲しかった。続くと思ってた。私の死期が近いと、そう言われてもそれまではずっと同じだと思ってた。この普通が好きだった。


 その日の晩。私はあるお店に来ていた。死神さんには家で待機してもらい、私一人で来ていた。

ここのお店は、思い入れがある。ここはあるご夫婦が経営していて、お父さんやお母さんとも仲が良かったらしい。そのおかげで、私がここに来た時いつも歓迎してくれる。

今日は、久しぶりにそのご夫婦の話が聞きたくなって、足を運んでいた。

「こんばんわ。やってます?」

「おぉー槇ちゃんじゃないか。元気してたか?久しぶりじゃないか」

「開いてるよ〜どうぞ」

「ありがとうございます!」

「今日はどうしたの?何食べてく?」

「じゃからお願いします。今日はまたお父さんお母さんのこと聞きたいな〜って」

「そうかそうかー。じゃ座ってけ」

はい!、と。返事をしたのち私は案内された席についた。

「あれ?槇ちゃんなんかやなことあった?」

「へ?そんなことないですけど、いつも通り元気に過ごしてます」

「そお〜なら良かったわ。でもなんか、不幸がついてくるかも」

「おい、今はいいじゃないか。ほら」

と、店主さんが焼き魚を持ってきてくれる。これが特別美味しいんだ。

ここの店主さんはまたにお化けが見えてるかのように、邪気などという。時代の変化はあるけど、ちょっと変だな〜とは思う。優しいからいいんだけどね。それからというもの、たくさんの話をしてもらった。私の両親はここに通っていたので、私が知らないような裏話もしてくれて、とても幸せな時間だった。

本当に死期が近づいているだなんて、全く思ってなかった。

死期がきても勝手に自分が死ぬんだと、そう思っていた。この幸せはずっと続くものだと思っていた。


………こんな日が来ると、思っていなかったから……


 その日は突然やってきたんだ。

その日はいつも通り瑠夏ちゃんと別れた。ばいばいって。

それからは死神さんとたわいもない話をした。

「死神さんっていつも黒スーツだけど、他の服とか持ってないの?」

「そうですね、腐っても今は仕事中ですし」

「いいやん別に真面目ぶらなくて、オシャレとか興味ないの?」

「そうですね。これが一番動きやすいです」

「そっかぁ〜顔はいいのに勿体無いな」

「死神の顔は人間に評判いいんですよ」

「うわぁ、なんかムカつくね」

「理不尽ですね」

本当に死神さんとは仲良くなった。こうやって雑談する時間は私の一日の中でも好きな時間になっていた。

「じゃぁさ、今度服かいい……」


   「槇ちゃん。ちょっと降りてきて!!!」


 私たちの会話を堰き止めたのは、おばあちゃんの焦りに満ちた声であった。

いつも通りの日常に流れたいつもと違う声だった。

「なに〜」

「いいから早くきなさい」

かなり焦っているのか、声を荒げている。何があったかは分からないが、とりあえず急いだ。

おばあちゃんは涙しながら受話器を手に持っている。ただごとではないと、直感で理解した。おばあちゃんから手渡された受話器を恐る恐る耳にやる。……そして、私はその事実を知った。


     ーーー瑠夏が息をしてないのーーー


瞬間、私の頭から血が抜けていくような感覚が身を包んだ。自分の世界の時間だけが、止まって、何も考えられなくなった。私の口からは「えっ、」と、その言葉しか出てこなかった。

「部屋で、倒れてて、、、もう何が何だか分からないけど、魂が抜けたみたいになってるの」

「……」

「ちょっと家来てくれないかしら」

「わかりました。すぐ行きます」

意味がわからない。わかりたくもない。とりあえず急ごう。

「行ってくる」

おばあちゃんからの応答を聞く前に私は走り出していた。

はぁはぁ、急いで急いで急いで。もっと早く、もっと急いで、それなのに家は遠かった。いつもならもうついているのに、今日だけは遠かった。


「あぁ、槇ちゃんが行っちゃった」

「そうですね。何があったんでしょうね」

聞こえるはずもないおばあちゃんに、私は声をかける。

「よくわからないけど、何が見守っていてくれているのだとしたら、槇ちゃんをよろしくお願いします。いい子なんです」

全くいいおばあちゃんだ。本当に、親と子は似る。あなたの教育、きっと間違えはなかったと再認識した。だから私は一言、言葉を置いてその場を後にした。

「任せてください」と。


 私はその場に到着した。そして扉を開ける。

「…瑠夏、、ちゃん…………」

返事はない。瑠夏ちゃんのお母さんはそばで泣き崩れていた。

原因不明の死。突然だった。

なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。

一歩、また一歩と瑠夏ちゃんに近づく。警察や医者も呼んだらしいが、まだ来ていないようだ。ただそんなこと私にとってどうでもいい。

「瑠夏ちゃん」

そうして、手を伸ばす。ただその手は止められてしまった。

「………話してよ」

「いいえ」

死神さんは冷淡に、そう言ってきた。

「見てください。あのマーク」

そうして指を刺す。その先には見慣れない模様のものが瑠夏ちゃんの服についていた。

「………辞めてよ」

でも、私に死神さんの話に落ち着いて言葉を聞けるほど、大人ではなかった。

「辞めてよ!」

気がつけば私は声を荒げていた。瑠夏ちゃんのお母さんも驚いている。そりゃそうだ、死神さんは私にしか見えないのだから。それを理解しても、私の口から言葉は止まらなかった。

「何で……なんで瑠夏ちゃんが死なないといけないの!!私の寿命となんの関係があるの!瑠夏ちゃんとの日常はどうなるの。死神は何してるの!」

「申し訳ないです」

「それだけか!そんなんで、私の幸せを奪われてたまるか」

「少し、外に行ってください」

泣いて叫んでる私をおかしいと思ったのか、今駆けつけた警察の人に外に出された。涙でよく前が見えなかったけど、警察の人はとても怖い顔をしているように見えた。


「…………………なんで、」

「申し訳ないです。ただそれでしかないです」

わかってる。死神さんが悪いんじゃないって。私は行き場のない怒りを死神さんにぶつけているだけだって。でも、止まらないんだ。

「ごめん………なさい」

「いいえ、大丈夫ですよ」

ふと、顔をあげ死神さんを見る。

優しい顔で、自分に寄り添ってくれている死神さんがそこにいた。

「でも、なんでなのよ」

少しずつ落ち着きを取り戻してきた私は、虚しさだけが残った。瑠夏ちゃんがいないという事実を、頭の中で理解してきた。さらに涙が出そうになった。そんな私に死神さんは優しく声をかけてきた。

「驚かずに聞いて欲しいです。瑠夏さんは生き返ります」

「そうだよね。ごめん私のせい……って何!」

「今ふざけてる時間はないので、単刀直入に。私の目にも瑠夏さんの近くに死神はいませんでした。また瑠夏さんの死期はまだまだ先です。瑠夏さんは生き返ります。というより死んでません」

どう、いう。何度もそう尋ねようとしたけど、声が出なかった。

「驚くのも当然でしょう。ただ時間はないですよ。とりあえず家へ帰りましょう」

私はされるがままに、その場を後にした。ずっと謎だけが頭の中を回っていた。


 「もう一度言います。瑠夏さんを生かす方法はあります」

「ごめん。もうちょっと説明して欲しい」

「大したことではないんですけどね」

そう前置きを挟み、死神さんは詳細を教えてくれた。



 「瑠夏さんの死期はまだ先です。あなたみたいに、予期せぬ死期が近づいたわけでもないんです。

よって、瑠夏さんの近くには死神が舞い降りていない。まぁ簡単にいいますと、天界に行っていないんですね。魂はちゃんと生きています。」

魂は生きている。そんなことを言われても実感なんてまるでわかない。でも今はそれに縋るしかないんだ。

「でもさ、それからどうするの。落ち着いてきてわかったけど、なんでそんなことが起きてるの?」

「そこなんですよね。あのマーク覚えてますか?」

死神さんの言うあのマーク。それはきっと、瑠夏ちゃんの服についていたあやなことだろう。

「えぇ、覚えてるけど……」

「あのマークを見て全てがわかりました。瑠夏さんの唐突の死。お婆様の邪気感知。そして、あなたの死期」

「その全てが、あのマークだけでわかったの?」

「はい。あなた、かなりめんどくさい人に目をつけられましたね」

「………どういうこと、?」

はい。と付け加え死神さんはその事実を口にした。


「あなたは天界の負の王、減武(げんぶ)に目をつけられたんです」

「減武……。そっか、それはまずいね。んで、減武って誰?」

「ノリツッコミにツッコんでる暇はないです。

減武、あいつは本当に凶悪です。本来天界には私たちのような死神や天界での案内人。あとは来世を待つ間の人間がいます。そこで、私たちは効率的に仕事をするはずでした。減武は元々天界の生き物でした。立派な死神になれるよう。と、日々努力を続けていたはずでした。

その頃は、減武だなんて言われていませんでした。減武は玄武と呼ばれる天界の世界で有数の地位を持つ、恵まれた家系の子供でした。ですが、優秀な父の息子は優秀ではいけないと、だいぶ厳しい環境で過ごしていたみたいですね。減武に特出した才能はありませんでした。

他人からの期待の目と父からのスパルタで壊れてしまったんでしょうね。天界を壊す方向に力を発揮することになりました。

それからはこれまでが嘘かのように飛躍していきました。減武が天界の政府に逆らうと、それに乗っかり減武を支持する人も増えていきました。その組織は強大で、天界でも隔離された組織になっていました」

「なるほど…。でもそれと、私の死期はどんな関係があるの?」

「えっとですね。減武のやろうはあなたに恋していると言った感じですね。そして、天界に呼びたい。だから死期を縮めた。瑠夏さんが魂を抜かれたのも、見せしめか、誘き寄せる餌でしょうね」

「私を………好きに?」

「はい。まぁ事情もあるんですが、それはのちほどってことになりますね」

「なるほど。減武ってやつと、私の死期はある程度理解できた。でも、じゃどうやって瑠夏ちゃんの魂を取り戻すの?」

「そうですね。できるとしたら、減武の元に行き直接話すしかないですね」

なるほど、と私が理解をしようとした矢先、とても嫌なことを思いついてしまった。

その説が頭に浮かんだ瞬間に血の気が体全体から引いた。

「礼夜くん。………瑠夏ちゃんもなら礼夜くんも、」

「あなたの気になる人ですね。かなり可能性は高いと思います」

「死神さん、急ごう。礼夜くんの元に一回行ってみよう」

「了解です。時間はそんなないですよ」


 「礼夜くん!」

私は礼夜くんの家のドアを勢いよく開けた。

「あちゃ〜状況は落ち着いて読みましょ」

死神さんがそんな言葉をかけてくれたと共に、私は全身で理解した。

「えっと、槇さん?どうしたの」

顔が熱い。沸騰しているような気分だ。

「生きてるの?」

「えっと、一応元気に生きてるよ?大丈夫?夢でも見た?」

あぁぁぁああぁあぁぁあああぁ。恥ずかしい。なんで私はこんなことをしちゃったんだ〜。勢いで行動しすぎたぁぁ〜。

「どうしたのさ。ちょっとゆっくりしていきなよ。お茶ぐらいなら出すよ」

「あべべぁびかねへ」

「ゆっくりしてる時間ないですよ?」

そんなこと言われたって、今断ったらほんとに変な人だよ〜。と心の中で渾身の叫びを入れつつ、私は礼夜くんとお茶をするのだった。


 うぐ、気まずい。

いつもそんなに話すわけでもないし、その上この状況は気まずいよぉ〜。死神さん助けて〜。

って、あれ?死神さん誰かと話してる?ん〜?

「槇さん?落ち着いた?」

「あっあ、あぁ、ごめんなさい。こんなことまでしてもらって。申し訳ないです」

「うんん。大丈夫だよ。そう言うこともたまにあるしね」

優しい。本当に優しい。でも今その優しさは傷口に塩だよ。

「えっと、ありがとうね。そんな長居もできないし、もう行くよ」

「………」

「…?礼夜くん?」

「………聞いたよ。瑠夏さんのこと」

「そっか。私もそれでちょっと気が動転してたのかな」

「槇さんと瑠夏さんは仲も良かったしね。ごめんこんな話切り出して」

……ごめん?いやそれは違うでしょ。私は向き合わないといけないし、私だけは今クヨクヨしてられないんだ。

「大丈夫だよ。私絶対生き返りせるから」

「っへ?」

「ふふ。何その素っ頓狂な声。でもわかる、私もそうだった。でも今はクヨクヨしてられない。変だと思われてもいい。ただ立ち向かわないと、だから」

言い切った。我ながらよくできたことを言ったと思う。

「そっか、よくわからないけど、頑張って。僕も何か協力できないかな?」

「そうね。それじゃこのお茶もう一杯お願い」

「わかった。ちょっと時間かかるから寛いどいて」

その言葉を置き、礼夜くんはその部屋を出て行った。

時間は稼いだ。それじゃ次はこっちだ。そうして、私は死神さんとその人の方に視線を向ける。


 「ふぉふぉふぉ。関係ないね。わしの自由じゃろう」

「こんなところで会えるとは、階級が大きく進歩しそうですよ」

死神さんとそこにいた誰かは喧嘩のようなものをしていた。状況からして、天界の住人だろう。……でも、そんなこと今の私には関係ない。その瞬間、私はその二人の間に割って入った。

「喧嘩しない。死神さんはもっとやるべきことあるでしょ」

「ですが、こいつは」

「こいつね〜死神風情が偉くなったな」

このように、すぐ喧嘩を始める。この言葉のキャッチボールは私から見ても、目に余るものだった。

「ちょっと静かにして、二人とも」

「むぅ、だって」

「だってじゃない。この人の言い分もちゃんと聞くの」

「ふぉふぉ。この子はなかなか偉いじゃないか。私を見てもなお、そんなことを言ってくれるとは、とは……うぁわー」

「ちょっとなんで泣いてるの。辞めてよ」

「へっそう言うやつなんすよ」「死神さん!」

私は間髪入れずにそう言った。

「そこからはもうあなた次第なので任せますよ。でも時間ないですからね」

「うん。ありがと」

こうして、私のその人は会話をすることになった。流石に危ないと、死神さんの監視の元だけどね。


 「お主は優しいな。わしのこの姿を見ても、隔てなく関わってくれるとはな〜」

「そんなことないですよ。それよりこんな姿って?」

「見たらわかる通りわしは貧乏くじばかり引く疫病神なんじゃよ。じゃからわしをみんな毛嫌いするんじゃ」

「うんん。そんなこと関係ないよ。疫病神でも、神様なんでしょ?それなら充分すごいよ」

「疫病ですけどね」「ッ!死神さん!」

「うわぁー。いいこと言ってくれるな」

「泣かないでよ〜。はいハンカチ」

「こんなに、優しくされたのは初めてなんじゃよ。許してくれ」

それから少しして、疫病神さんは落ち着いてくれた。

「疫病神さん。一つ質問いいですか?」

「なんじゃ?神でもいい効果は与えられないと思うぞ?」

「うんん。大丈夫。聞きたいことは一つです」

そう一拍を置いて、告げる。

「ここに、減武の連中が来ませんでしたか?」

「あぁ、来たぞ。それで?」

「え?それだけ。なんかどうなったとかなかったんですか?」

「ないない。わしを見てすぐ逃げ出したわ。それだけか?」

「……それだけ、、ですが。へ?」

「なじゃよその反応は」

「一応その人、上級の神ですし、減武の部下ぐらいなら裸足で逃げ出しますよ」

「そんなすごい人だったんだ。握手してもらえません?」

「辞めとけ辞めとけ。わしなんかと握手したら運気全部吸い取られてしまうぞ」

「いえ、いいんですよ。疫病神様はすごい!本当にすごいんです!ありがとうございます。礼夜くんを守ってくれて、ありがとうございます」

「そう、なのか?」

「そうですよ。本当にありがとうございました」

「いいんじゃ。こうやって役に立てるって言うのは久しくてな。感謝しても仕切れんよ」

「私たちには時間もないらしいので、もう行きますね。本当にありがとうございました。死神さん行くよ」

「はぁ。了解です。全く人がいいですね。ほんと、子は親に似るもんで、」

その言葉を聞き終えら前に、私はもうその部屋を後にしていた。礼夜くんのことは、完全に忘れていた。

「一応私からも。あの子の大切な人守ってくれてありがとうございました。今回は見逃します」

「見逃しますね。あんたがあの娘にそこまでするのは何故じゃ?」

「はっ、少し昔の記憶が邪魔をしているようで、」

「懐かしいな。それはお主が死神になる原因になった頃の話か?」

「さぁね。もう遠い話で忘れちゃいました」

「そうかい」


 はぁはぁ、また勢いのまま出てきちゃったけど、どうしようか、やるべきことも行く場所もわかっていなかった。

「ちょっと待ってくださいよ」

と、そんな時死神さんが私に追いついてきた。

「ねぇ。死神さん。その、どうやって天界に行くの?」

「はぁ〜」と、本当に呆れたようにため息をつく死神さんに私は言った。

「仕方ないでしょ。今頼れるのは死神さんだけだもん」

「普通に考えてください。天界は魂の住まう場所。実態が行けるわけないんです」

「………。つまり、詰みじゃん。終わったーどうしよう。ねー死神さん」

「ええ、終わりに違いないでしょう」

「えぇ、辛辣。それだけか」

「あなたが普通の実態だとするならね」

「ふぇ?」

「人の話を最後まで聞いてくださいよ。あなたは減武からあの世界に呼び出されたその時点で、すでに魂のような存在に近づいているんです。その上、さっき疫病神の手を握っている時点で、ほぼ幽体離脱のようなものは完成しています」

「じゃ、もう行けるの?」

「まだですね。最後の一押し、完全な魂化がないと無理ですね。時間があればなんとかなりそうでしたが、瑠夏さんの件もありますし」

「てかさ、さっきから時間ない時間ないって言ってるけどさ、どのレベルなの?」

「あぁ、それは、瑠夏さんが焼かれるまでです。と言うか、人間の身体として生きている内ですね。長くて二日・48時間が限界です」

「……まずいじゃんっ!」

「だからそうと言っているでしょう」

今その事実を知り、さらに焦りが生まれてきた。瑠夏ちゃんが息をしていないと発見されてから48時間だとしたら、もうすでに2.3時間は経過している。待ち合わなかったら全てが水の泡だ。

「どうする?」

猫の手にも縋る勢いで、死神さんにそう尋ねた。

「そうですね。鷹野きのこ、があればなんとかなるかもしれないです」

「鷹野きのこ……?なにそれ」

「鷹野きのこ。別名幽体きのことも言われるんですが、食べればハッピー。快感を感じながら、完全なる魂化することができます。元に戻る確証はありませんが」

「何その毒キノコに催涙スプレーかけたみたいな食べ物は」

「実際、この世界では毒キノコとして扱われてますしね。ですから、そう見つからないでしょうね〜」

そっか。行くのも、戻ってくるのも簡単じゃないんだ。でもそれはそうか。

「じゃ、探そう。そのきのこ」

「そう言うと思いましたよ。心当たりとかないんですか?ないなら遠くにくれますが」

「一箇所だけ、直感がそこを示してる」

そうだ。私の両親と仲が良く、行きつけだったあのお店なら。

「では、急ぎましょう。残り時間にして約45時間もありませんから」


 「ここだよ。ここの焼き魚本当美味しいんだよ。生きてたら食べさせてあげたかったな」

「あやや。美味しそうなお店ですこと。ここならありそうですね」

「急ごう」

ここは私の両親も通っていたお店だ。そして、私の相談をよく聞いてくれる。きっとここなら天界へのチャンスを手にすることができる。と、そう思った。

よし、と勢いをつけてその扉を大きく開けた。

「すみません。営業時間はもう…って、槇ちゃん?どうしたの」

「ちょっと同じがあって……」

「どうした。とりあえず座れ」

「すみません。失礼します」

「それで、話って何かしら?」

どこまで言っていいかわからなかった。死神さんのことも多分この人たちには知られたくないだろう。だからこその質問。

「鷹野きのこはここにありますか!」

「へ」

「へ」

「アホですね〜」

へ?何このみんなの反応。私何かやっちゃいました?

「ちょちょちょ。うちで自殺は辞めてよ」

「どうした。相談なら乗るぞ」

あぁ〜ぁああ。そう言うことか。そっか、この世界では鷹野きのこは毒キノコとして知られてるし、こうなるのも無理ないか。ならどうしよう、どうやって説明したらいいんだろう。ん〜。

「心の声。漏れてますよ。大丈夫です。この人たちになら全部話しちゃって」

刹那。私の肩を温かい何かが触れた。そして優しい声音でそう伝えてきた。

自分の立場を危うくしてまでも、死神さんはそう言ってくれた。自分がバレる可能性があるのに、自分の未来より私の気持ちを優先してくれた。

だから、これ以上はぐらかすわけにはいかなかった。


それから私は全てを語った。死神さんのこと、減武のとこ。そして………瑠夏ちゃんのこと。その全てを知った後でも、店主さんたちは私を肯定してくれた。

「なるほど。事情はわかった」

「槇ちゃん。よく頑張ったね」

そう言って私を抱きしめてくれる。きっとお父さんとお母さんもこうやって優しくされたんだろうな。

「よぉし。ちょっと準備するか」

「ちょっと待っててね」

こうして、二人とも台所の奥へと姿を消した。

お父さんお母さんならどうしているんだろう。答えの出ない問いを、思い浮かべるのだった。

「あの人達、優しいですね」

そう、静寂を切り裂いたのは死神さんの一言であった。

「でしょ。きっと私の親もこうやって優しくされたんだと思うんだ」

「なら、その想い。踏み躙ることはできませんね」

そんな死神さんの言葉に私は、「もちろん」と、返すのだった。


 「持ってきたぞ。全在庫で三つ。この三つで魂化を成功させ、無事戻ってくることを約束するんだ」

「わかりました」

「槇ちゃん。困ったらいつでも戻っておいでね。ここならいつでも歓迎するから」

「ありがとうございます」

「よし。まずは実験だ。一個食べてみろ」

そう言われ、私は一つきのこを口にした。

「ウッッ」

一切れ口に入れた瞬間のことだった。

身体の血液が全部沸騰する感覚が、全身を襲った。

視界が歪んで、頭が揺れる。

「あ、がぁ」

言葉にならない声が発せられる。

みるみるうちに、視線が落ち、足に力が入らなくなる。

「アッ」

「戻ってこいっ」

パッーン。と、私は店主さんに背中を叩かれた。

「はぁはぁ、今のは…?」

「失敗だ」

失敗……。チャンスはあと二回、私にこのチャンスを与えることができるだろうか。……いや。掴まないといけないんだ。

「もう一回。お願いします」

「よし」

「槇ちゃん。食べる時は一気に魂まで流し込むイメージで、味わったりする時間はないほうがいいよ」

「なるほど。了解しました」

「じゃ次はこれで試してみろ」

そう言って店主さんは、アレンジをしてキノコを持ってきてくれた。

「よし。いただきます」

そうしてまた一口、口に含む。

「ぁぁ」

さっきより身体の変化は少なく、落ち着けている。

はぁはぁ、大丈夫だ。身体から意識だけが遠のいていく感覚が身を包んだ。足元から感覚がなくなる。

「あ、ぁぁ」

「どう?できた?」

「ふぇへへへへへ。元気ですヨォ」

「成功だ。意識はちゃんとしてるか?」

「へぇもちろんですとも。ふっぷ」

「よし。それじゃ行ってこい」

「ちょちょちょ。全然良くないよ。てか普通じゃないでしょ」

「普通ですぉ。おほほほはは」

「ほら、普通じゃないか」

「どこが!もう槇ちゃん。1+1=?」

「んぉ〜無限大!あはは。無限大!」

「ほら!」

「本当だな。少しおかしい」

「少し!何言ってるの。ほら戻すよ」

パッーン。と、再び店主さんに背中を叩かれ、私は意識を取り戻した。

「はぁ、大変………ですね」

私の身体はもうヘトヘトであった。

一度魂を抜くと言うのはかなり体力を消費するらしい。

「少し休憩するか?」

こうやって疲れてる私に優しく声をかけてくれる。

そんな店主さんに私は言う。

「大丈夫です。できるだけ急ぎたいので、」

時計目をやるとすでに23時を回っている。タイムリミットは44時間と言ったところだろう。遊んでる暇はないんだ。

「そうか。じゃ次はこれだ」

「ありがとうございます」

店主さんが最後に持ってきてくれたものは……魚焼き?

「槇はこれ好きだろ。ここにキノコを混ぜてみた。値段はいい」

「槇ちゃんのためなら仕方ないよね」

「本当に、本当にありがとうございます」

魚焼きのキノコ。よし、と私は一思いにそれを口に含んだ。

う、ぐぁ。さっきより明確に身体が熱くなるのを実感していた。足から頭まで、肉と他の何かが、分裂するような不思議な感覚が身を襲う。

気がついた頃には視線の先にさっきまでの景色はない。あるのは脳裏に焼き付けられた瑠夏ちゃんとの日常だけであった。

抜かれる魂に負けるわけにはいかない。瑠夏ちゃんとの日常を取り戻さないといけない。だから、今は耐えないといけない。

あぁぁあぁぁあああぁああ

脳が焼けるような感覚に陥る。力が抜ける。でも、負けない!

「はぁはぁ、どう、、ですか?……」

「槇ちゃん、意識はある?」

「はぁ、な、なんとか」

「槇、1+1=」

「に、、です」

それを言ったその瞬間、店主さん二人の顔はぱぁーと笑顔になり、私を称えてくれた。

「槇、本当によくやった。えらいぞ」

「本当に本当にすごいよ、槇ちゃん。わかる?今魂の状態なんだよ」

はっ。と、それを言われた瞬間、自分の身体に異常があるのだと分かった。

「……す………透けてるぅぅぅ!」

「おぉ、いい反応だな。本当にお前は今魂だ。魂化成功だ」

すごい。ただただ感想はそれだけであった。途中、自分じゃできないんじゃないかって本気でそう思った。でも今離れている自分の身体と意識を見て、自覚する。私は成功したんだ。と。

「ちょっと外出てもいいですか」

「おう。外の風に当たってこい」

私は外に来ていた。理由は単純なことであった。


 「死神さん」

そう。紛れもなく死神さんであった。お店の中だと、色々辻褄が合わなくなると、そう思ったので死神さんを連れてそのに出ていた。

「なんでしょう。と言うよりおめでとうございます。さすがですね」

「ええ、ありがとう」

「それで?どんな話で呼び出したのです?」

理由は単純なことだ。

「……あのさ。……魂にはなれたけど、、、どうやって天界に行くの?」

単純な質問を死神さんに切り出したのだが、

「あはは」と、笑われてしまった。

え?私恥ずかしいことした?

「いや〜何かと思いましたよ。あんな真剣な顔で今それを言われるとは、ちょっと焦りました」

「焦るって何よ。結構深刻よ?時間ないんでしょ」

「そうですね。さらに今の時刻は23:20ぐらいですか」

「そうよ?それがどうしたの」

「魂になってもいつも通りですね。はぁ。そうですね」

「なによそれ。笑ってないで教えて」

「はいはい。落ち着いて聞いてくださいね。絶対焦るんで」

「大丈夫よ。今更でしょ?この生涯魂になることなんて思っても見なかったんだから、それをした私に驚かすことなんてないわ」

「まぁ驚くと言うより焦るなんですが、魂が天界に行くには零時零零分、ムーンライトステーションから出る月の電車に乗らないと行かないんですよ。明日も出ますが、どうします?」

……………は?

あと四十分しかないじゃない。え?

「ここから遠いの?」

「まぁ、三十分あれば」

「ギリじゃない。急ぐわよ。早く」

「やっぱりそうなりますよね。最後まで付き合います」


 「店主さん!ちょっと私急ぐから。本当にありがとうございました」

「おう。だと思ったから大丈夫だ」

「身体は責任を持って、私たちが預かっておくわ」

「ありがとうございます。ちょっと行ってきます」

そうして、私はその場を後にする。

魂となったからか、足取りは速く、いつもより身軽に感じた。風を切る感覚がなぜか、心地よく感じた。


 「全く。やっぱり走り出しちゃうんですね、あの人は」

私は唐突に走り出した少女の背中を見ながらそう呟いた。そんな直後であった。

 「ほら、あんたも行かないとだろ」

店主さんと呼ばれていた人は私にそんな声をかけてきた。普通の人間に私の姿を見ることはできない。でも、私はそれを驚かなかった。

「あら、やっぱり見えてたんですね」

「また似たようなことやってるね。死神さんだなんて、立派に呼ばれてるじゃない」

「ふふ。あなたたちが今もなお優しくてよかったですよ。あの子もしっかり送り返しますから」

「あの子って、未練たらたら?それじゃダメよ」

「そうですね。切り替えていこうと思いましたよ。ですが、どうしても重なっちゃうんですよ」

「言ってないんだろ」

どうも言葉に詰まってしまう。でも、言えるわけないだろう。

「言ってません。というか、言えてませんね」

「そこからは、お前さんの考えだ。否定はしないが後悔はしないことだな。あの日の出来事。忘れたわけじゃないだろう」

「ですね。ありがとうございます」

そうして、私も槇さんの後を追うのだった。


 私は走り続けていた。駅に行けば、電車が来ると思っていた。でも冷静になろう。ムーライトステーションだっけ?そんな駅見たことも無いのに、辿り着けるのだろうか?

走りながらも悩んでいるその時であった。

「一思いに走り出さないでくださいよ、全く」

「はっ、死神さん!来てくれると思ったよ、どうやって行くの」

「そうですね、行き先は浜辺の方です。運良く方向は合ってますよ」

「よっし。急ぐよ」

「それはいいんですけど、あなた今魂ですよ?限界を感じないでください」

「ど、どう言うこと?」

「手本は、こうっ!」

そうして死神さんは高く飛んだ。

そっか。あまりにも人間らしい死神さんを見ていて忘れかけていたけど、出会った時も窓から眺めていた時も死神さんがやっていたことが一つだけあった。

そう、死神さんは空を飛んでいたんだ。

「ほら、早く来てください」

そう、手招きをされる。

私は飛んだことも無いし、チャレンジしたことも無い。それでも今ならできる気がした。死神さんの顔が私を安心させてくれる。だから私は思いっ切り、地を蹴るのだった。

 「目を開けてください。しっかり飛べてます」

死神さんの声がして、ゆっくり目を開ける。

そこで私の目に映っていたものは生涯忘れないものだろう。

さっきまで触れていた地面に足はもうなく、感じるのは空気の流れだけであった。

「飛んでる。飛んでるよ!」

「そう言ってるでしょう。ここで重大告知です。駅までは三十分。ですがそれは人間の足ででございます。それが魂や私のように死神なら?」

「…もっと速い」

「正解です。ほらスピード上げますよ」

こうして私たちは一目散に海辺を目指した。

これまで、後ろについてくれていた死神さんが今では横に、そして前に立ってくれているように感じる。

下を見れば、淡い蛍の輝きのように光っている家々が連なっている。きっと、この一つ一つに家族がいて、思い出・思い入れがあるのだろう。私や瑠夏ちゃんと同じように。


 それからどのぐらいの時間が経過しただろうか。連なっていた家は少しずつ数を減らしていき、潮風が吹いてくる。

そう。海に近づいていた。

「死神さん。時間、大丈夫?」

飛行にもだいぶ慣れ死神さんと辛うじて会話もできるようになった。

「まだ余裕あります。ここら辺から歩きますか」

「わかった」と。潮を含んだ風が私たちに強く打ち付ける。

耳を澄ませば、水が流れる音が聞こえ、引き潮の音が響き渡る。

周りに明かりは少なくなり、空を見上げれば満点の星空が広がっている。

泡沫に呑まれ消えて行く、戻ることのない失った日々を私は取り戻しに一歩また一歩と歩を進める。

「槇さん。あなたのご両親について、電車の中でお話がしたいです」

「ん?どうしたの?改まって。……と言うか槇さんなんて初めて」

「そうですね。ちょっと自分でも乗り越えなければいけないので」

「どう言うことよ。そんな暗くなっちゃって」

「槇さんは変わりませんね。そんなところも本当()()()()()()()。」

「お母さん似…?」

「私死神。まだ死神になって、日が浅いんです。まぁなかなかに優等生で昇格は早かったんですがね」

死神さんの口にいつものような活発さや楽しんでいる感じはしなかった。

今まで死神さんが残した数々の意味深な発言。その全てを死神さんは今ここで語る。灰色に色味がかった死神さんの過去を。


 「駅に着くまで少し私の話をさせてください」

うん。と、返事をする間もなく死神さんは話し出す。

「少しだけ昔の話です。あなたが生まれて間もない頃、あなたのお母様は減武に狙われました。まぁあなたの似ているので、無理もないですね。その頃の減武は今より容赦がなく、目的のために手段を厭わない人でありました。そんな減武にお母様は無理やり魂を抜かれてしまった。

ですから、私はこの要件でここに来るのは二回目なんですね。より、お婆様も私に敏感になってるようで、

もともと、お母様は霊感、と言われるものが強く発達していまして、やりやすかったのでしょうね。疫病神もお母様には見えていました。

お母様は減武に捕らえられたなお、勇敢でした。愛する夫と娘のために。ですが、減武の力というのは強大でしたね、ほぼ無理やりの婚約に導かれたわけです。ある人が来るまでは。

そこでお母様を助けに来たのがお父様です。お父様は勇敢で強かったです。イメージの中の天界で、減武と対等に戦える唯一の人物でした。お父様は減武に打ち勝ちお母様を助けることに成功した。

ですが、遅かった。身体がなくなった魂は現実に戻ることはできない。減武はお母様の身体を殺してしまっていたんです。戻れるのはお父様だけ。

私が、私がもっとしっかりしていれば、どちらも戻ることができたのに」

死神さんの声音は震えていた。歯を食いしばって自分のミスを悔やんでいた。

「勇敢かご夫婦の足を引っ張っていたのは紛れもない私で、槇さん、あなたに見せれる顔も持っていないのです。ですから、何度も諦めたかった。死期だけをずらしたかった。またミスをしたら私にまで優しかったお父様に合わせる顔がありません」

そう、強く言い切った。私の命について一番に考えてくれていたのは私でも礼夜くんでもなく、死神さんだと今理解した。

そんな死神さんの頭に私は手を置く。

死神さんがここまで連れてきてくれたように、私も死神さんの助けになるように。

「ねぇ、死神さん。大丈夫。私は生きて帰るから」

今はただそれだけだった。それだけでよかった。

「死神さんがここまで連れてきてくれたんだよ。ちょっとは期待してくれてたんでしょ?お父さんもお母さんもきっと死神さんには感謝してるよ。だから大丈夫だよ。もう後戻りもできないもん。

死神さんが無駄だったなんて言わせない。死神さんがやってくれたことが無駄だったなんて言わせない。死神さんはれっきとした死神さんだよ」

死神さんの目元からなにか光輝くものが落ちていた気がするが、今は知らぬふりをした。きっとそれが二人にとって一番いい選択だろうから。


 「槇さん、ありがとうございました。ですがもう切り替えないとですよ」

気がついた頃には死神さんはいつも通りに戻っていた。

「大丈夫、もう気合いしかない」

「さすがです。お父様に似てますよ本当」

そうこうしている時だった。

ポォーーっと大きな音と共に辺りが少し明るくなった。

それはまさに電車の汽笛のようであった。

「槇さん」

死神さんの口元がいつも通りのニヤニヤに戻って伝えてくる。

「着きました。ここがムーライトステーションです!」

死神さんがそう言葉をこぼした瞬間のことだった。

三味線や琴、和太鼓の音共にその電車は姿を現した。

どこからともなく線路も伸びてくる。

「死神さん乗ろう。速く」

「もちろんです。この電車、死神が居ないと乗ることすらできないんですよ?」

「そう。ありがと」

「また適当に流す〜泣きますよ」

「ごめんごめん」

これはこれで日常にしたいものだな。とそんなことを思うのだった。


 それから私たちは電車に乗り込んでいた。何人か魂状態の人や死神が居たけれど、そんな関わるようなことはなかった。

「槇さん。生きている人間が魂となり、天界に行った事例は一つしかありません」

静かな電車に響くのは死神さんの声であった。

「それがお父さんでしょ。乗ってから言うのってどうなの」

「乗る前に行ってもここでの会話が変わるだけでしょう」

「そうね。それで?」

「はい。戻ってきた事例はありません。さて大丈夫ですか」

「だから乗ってからそう言うこと言わないでよ。死神さんらしいなもう」

もうすでに電車は発車している。その上、この電車は空を飛んでいる。今更降りると言うことができないんだ。

下を見るとさっきまで居たであろう場所が遠くなっていく。

「ここになるみなさんはここで見る景色が、この世界で最後の開始なんですけどね。槇さんには関係ありませんでした」

「そうよ。その感覚は次乗る時に感じるわ」

「辞めてください。縁起悪いな」

今だけはリラックスできた。時間制限も近づいている。ただ今焦ってもなんの意味もない。それなら休むべきだろう。

「槇さん、着いたらまずご両親に会いにいきましょう。私も久しぶりです」

「時間ないんじゃなかったの?」

「まだ一日ほどありますから」

「変わったね、死神さん」

「あなたは変わりませんね、槇さん」

私たちは向き合って笑った。

他の人とは完全に孤立していたけど、そんなことを気にせず私たちは話し続けた。


 気がついた頃にはすでに街々の光は見えなくなっていて、外を見ると、、。

「うわぁ〜すごい景色。これが…………天界」

そこに広がる景色は私たちの現実からあまりにも違っていた。

渓谷のように連なる崖に多くの家のようなものが支えられながら建っている。

ふと、横を見ると水が流れ、その先には滝があった。

「うわぁ〜ねね死神さん。あの滝ってどこに繋がってるの?ここって現実の世界の上なんでしょ」

「まぁそうですね。あなたたちの世界でも雨って降るでしょ?それですよ」

「え〜こんなんが雨だったんだ」

「こんなんって失礼ですね〜」

外を眺めてるだけで飽きる気がしなかった。まさに冒険。見たこともなくて行ったこともないような、イメージができないこの世界に、はじめて降り立ったんだ。

「心の声、見えてます。観光じゃないんですよ」

「プライバシーの侵害です」

と、そうこうしている間に降りる駅に着いた。

「槇さん。準備してください。降りてからはまたそんなに時間ありませんからね」

「了解。引き続き案内よろしくお願いします」

「はい。それじゃ行きましょう」

そうして、私たちは電車を降りた。

死神さんからここでは飛べないと言われていたけど、どうやらそれは本当らしい。天界では魂が人間のように暮らしている。だから死神さんも飛べてないし、心も読むこともできないだろう。

とりあえずものは試しだ。死神さんが心を読むには相手の想いの強さが肝心になる。だから私はすごく強く想いを込めて心の中で呟く。

(ばぁーーーか)

「あはは。心は読めてますよ出しすぎないように注意してください」

「ごめんなさい」

残念。どうやら心は読めるようだ。天界についても少し理解しないといけないな。

「それでは、ご両親に会いに行きましょう。こっちです」

そう先導する死神さんの後を私は追うのだった。


 道中見たこともないようなもので溢れていた。

まず、この家がどういった意味で渓谷のようなものの中にあるのか、そして、どうやってこの世界は浮いているのか。

そうだ。もしこれを見ているような人がいるなら想像してみて欲しい。今君に見える天界はどうなっている?言葉で表せないこの天界は君達で考えて欲しいな。

「槇さん。天界はね、イメージなんですよ」

「イメージ?どう言うこと」

「今きっと私が見ている天界とあなたの目に映る天界は違います。あなたの想像や心に眠るものが天界となるわけです。共通して認識できるのはあの滝だけ、いわばシンボルと言えるでしょう」

「どう言うこと?ちょっとイメージが湧かないな」

「あなたが見ている天界。そのイメージ。又、想像は創造として、この世界を彩っているわけです」

謎々でも言われている気分だった。

とどのつまり、私の見ている天界は私の想像の中の世界というわけだろうか?

話の飛躍が高すぎて、理解ができないレベルであった。

「あ、あとあそこに見えるあれ。あれもみんな同じように見えているはずです」

そう指を刺した先にはここの雰囲気に合わない禍々しい建物があった。

そこだけは渓谷にあるわけではなく、湖の真ん中。大きくひらけた場所に建っている。

「あれは?」

「はい。あれが、減武の拠点です。基本近寄ることも禁止な領域です」

「…なる、ほど」

「ですから、私は入り口までしか入ることができません。そこから先は槇さん。あなたがしなければいけないんです」

「あぁ、なんだそんなこと。おっけー大丈夫だよ」

元よりそのつもりであった。

ここまでたくさんのことをしてくれた死神さんにこれ以上危険な目にあって欲しくなかったし、きっと減武は私にしか興味がない。死神さんを連れて行ったら殺されてしまう可能性もあるからだ。

「全く人がいいですね。ほんとに親御さんそっくりです」

「なんどもそれ言うわね。今まではずっとおばあちゃんと私が似てるもんだと思ってた」

「そりゃさっきまでお母様に会ったこと言ってませんでしたしね」

「困った死神さんね」

「そうですか。そんなことよりもう着きますよ」

そうして私は案内された。


 少し見覚えがある古びた建物。ここに、お母さんとお父さんがいるんだ。物心がついてからはあまりあったことが無かったので、少し不安が残った。

(大丈夫かな。私のことわかってくれるかな。こんな成長した私を見たら誰かわからないよね。怖い、せっかく会えるのに怖い)

「大丈夫です。あなたのご両親は命をかけてあなたを守ったんです。今でも大切な娘に違いありません」

私がそんなことを考えてる矢先、暖かい手が私の頬に触れた。

落ち着いた。

死神さんは死神さんなりに気を遣ってくれているのだろう。

死神さんもお父さんとかと会うのは少し気まずいだろうに、ここまでしてくれる。だったら私も普通にしなきゃね。

「ありがと、死神さん。じゃあ、開けるね」

「はい。お願いします」

こうして私はドアノブに手を掛けた。

そこで一度深呼吸をし、一思いに扉をこじ開けた。

バン

いきなり空いたドアにそこにいた二人は目を丸くしてこちらを見ている。

そして、その人は言葉を紡いだ。

「槇、、槇か。大きくなったな。何しにきた、もう魂なのか」

「槇?どうしてもうここにきたの」

「お父さん…お母さん…」

まだ声も出してないのに、この二人は私を私だと認識してくれた。

なぜだろう。止めようとしても我慢しようとしても目から流れる雫は止まらなかった。

「ちょっとお父さん、ティッシュ」

「おーはいはい」

「ありがと〜〜。会えて嬉しいよ〜」

人にこんなに甘えるのは久しぶりで、自分を制御することができなかった。

お父さんとお母さんが亡くなっておばあちゃんと暮らすようになり、私は甘えることが少なくなった。同級生は当たり前のように両親を頼り両親に縋る。時に怒られたり、一緒に遊んだり、それは高校生になっても変わらぬ関係だった。

でも私は違う。幼い頃に両親を失った私はこれ以上人に迷惑をかけまいと必死に生きていた。そんな私におばあちゃんは優しくしてくれたけど、やっぱり自分を出すと言うことが得意ではなかった。

そんな私の前に今お父さんが居る。お母さんが居る。

私にはそれだけがどんなことよりも幸せに感じた。

「ほら槇。どう死んだ?もしかしてもう死んだのか」

「うんん。違うよ、死神さんが連れてきてくれたの」

「え?死神?もう死んでるじゃない」

「ところで、その死神さんは?父さんとして、お礼を言わなきゃな」

「うん。ね〜死神さん。来てよ」

「もう、私はいいですよ。家族水入らずでしょう。私が入る隙なんてどこにも」

「って、お前か」「懐かしいわね〜」

「そっか、二人とも面識あったんだね」

「ちょっと待て、じゃお前が連れてきたのか。もっと生かせよ」

「そんな無理言わないでくださいよ。変わってませんね」

「そんなこと言っちゃって、私のこと助けられなくて娘さんは任せて〜って」

「ちょっとやめてください!ほんとに」

お母さんの言葉を焦って遮る死神さん。顔はいつもより赤みがかっていた。

「と言うか、槇さんはまだ死んでませんよ?魂化成功しただけです」

「はぁ?魂化?なんでまたそんなことを」

「お母様と同じだからですよ」

死神さんがそう言葉をついた瞬間、その場の空気が変わった。その少しの変化に私の身体は硬直してしまった。

「同じ?また減武か」

「そうです。あのやろうか懲りないようで」

「でもあいつはもう現実世界に関与できないんじゃ?」

「そうなんです。ですから、あいつがどうやってこうなったのか、死期を近づけらたとしても、この槇さんの友達を殺したりすることはできないはずです」

「じゃあなんで」

「ですから、それは分かりません。あいつの魔力が入っている何かを持っていたらそれは別ですが」

魔力が入っている何か。ん〜と少し考えたら心当たりが見たかった。

そう、お祭りの時に貰ったあのキーホルダーだ。あれは瑠夏ちゃんと礼夜くんにだけ見せた。だから狙われた?

え、私のせいじゃん。まずいじゃん。

「槇、なんか心当たりあるのか?」

「私にもそう見えます」

「す〜〜えっとね。これかな」

そうして私は自分のポーチを見せた。

その瞬間お父さんは苦笑を浮かべ、お母さんは笑い、死神さんは呆れているような表情をした。

「槇さんだとは思ってましたが、まさかこれですか」

「減武もセンスがないよね」

「あぁ、お前もだけどな」

「え?なになに」、この三人だけで話が進んでしまい、訳がさらにわからなくなる。

「あのね」と、お母さんが言葉を続けた。

「それはきっと減武の部下が送ったもの。きっとそれのせいで周りにも不幸が降り注いだのね」

「省くなよ。槇、それなお母さんも同じの貰ってこうなったんだ」

「似すぎです」

そうだったんだ。これのせいで。

「じゃ早くこれはずそ。少しはマシになるんじゃない」

「そうですね。外しちゃいましょう」

そうして、そのキーホルダーを外そうとする。

………あれ?

簡単に付けれたのに、外れない。

なんでぇ〜。

「外れないんですか?協力します」

「お願い」

「ふんぬー」

「あんたら仲良しだな。でなんでまだは外れてないんだ」

「ちょっとお父さんも手伝ってよ。これはずれないぃぃ!」

結果から言おう。ここにいる全員で協力したけどそれが外れることはなかった。

「これを外さないときっとまだ不幸は続きます。どうしましょう」

「もう無理だよ〜」

「母さんの時はどうやってっけ?」

「なんか自然と外れたわ」

この人はマイペースだな〜。でもそりゃそうか、私のお母さんだもん。


 「とりあえずいいわ。お父さん、お母さん。会えてよかった。話せてよかった。でも私友達救わないとだから、ちょっと行くね」

そう言って私はその場を後にしようとしたのだが。

「ちょっと待て槇」と、呼び止められてしまった。

「何?」

「俺は一回減武に勝っている。この世界がイメージの世界だからだ。これはヒントだが減武に恐るな、イメージをして勝つんだ」

どう言うことだろう。よくわからなかったけど肝には銘じておくことにした。

「それと後一つ、約束してくれ」

「ん?」

「これは父さんだけじゃない。俺たち二人からだ」

一拍を置き、お父さんは言った。

「まだここには来るな」

普通に聞けば見捨てられた子供のようなんだろう。

ただ今の私には聞こえ方が違った。

「…もちろん。生きるよしっかり」

「頼んだ」

その言葉を背に受け、私はその場を後にした。


 それから少し時間が経ち、私たちは減武の拠点の下にまで足を運んでいた。

ここから始まるのは最後の戦い。生と死を賭けた膨大な戦いであった。

「槇さん。私はここまでです」

入り口付近、死神さんはそう言葉を溢した。

「もう少し力になりたいんですが、私たちはこの門を潜ることはできません。ですから申し訳ないんで、」

「うんん。大丈夫。ここまで本当にありがとう、帰るまでしっかりここで待っててね」

私は死神さんの言葉を遮ってそう言った。遮った理由はもうそれを私が言われる必要はないとそう思ったからだ。それを汲み取ったのか死神さんの顔は晴れ、いつもの笑顔でこう言った。

「行ってらっしゃい」


 それから私は歩き続けた。減武がいるであろうその場所まで。

そうして私が扉の前に立ち、一度大きく深呼吸をする。

「すう〜はぁ〜」

よし。と決意を固めその扉を大きく開けた。

「呼び出しといて出迎えもなしかしら?」

「ぐぅわっはは。よく来たな、あの死神もいい仕事をしてくれた。誘き寄せるのに使えるやつだ」

「なに?愚痴を共有したくて読んだの?だったらもう帰りたいんだけど」

「なんだ、その態度は。横暴だな」

すっと、圧を感じた。

「似てるさ、お前の母親と。」

「やめて、あなたがお母さんを語らないで、」

「おい、ちょっと調子に乗りすぎじゃないか?口の利き方は考えろよ」

その瞬間であった。その雰囲気は大きくなり異質な雰囲気を醸し出す。

「教えてやる、この牙はお前の父親に斬られた。ただお前の父親が俺に与えた攻撃はこれだけだ。泣く泣く逃げたあいつらの娘が調子に乗るな」

「じゃ。じゃ逃げられたあなたはなんなのよ!私がそんなんでビビると思ってるの!早く要件を話してよ」

「ぐぁー!調子に乗るな」

減武がそう叫んだ瞬間のことだった。

私の身体は糸も容易く投げ出されその部屋から飛ばされていた。

なんとか下を見る。

「水!!」

そこで私は自分の死を、自分の最後を理解した。このまま落ちて死ぬ。あぁ、私は助けに来たのにな。

礼夜くん。店主さん。おばあちゃん。瑠夏ちゃん。お父さん、お母さん。………そして、死神さん。

              ーーありがとうーー




瞬間の出来事だった。私の身体に聞こえるはずのない声が響く。お父さんからの助言を思い出したのだ。

   「恐るなイメージしろ」

イメージ?私は今落ちている?ならここに足場があればいいんだ。ただここに足場なんて運よくあるわけじゃない。

だから、だから。イメージで想像して創造するんだ。

私は叫んだ。今までにないぐらい大きな声で。そして、想像した。イメージした。

落ち着いて考えてみれば、あの体格差でお父さんが減武に傷をつけれたこと自体おかしいんだ。そう、普通に考えたら。

ここは普通じゃない。だから私のイメージは、理想は現実になる!

思い浮かべたのはいつもの日常。瑠夏ちゃんと登下校していた道であった。それを想像した直後、そこにはあるはずのない道が開けた。眩い光に包まれながらその道はできる。

「はぁ、なんとか生きてる」

それを認識した矢先、減武が私の作った道を進みこちらへと近づいてくる。私に減武を倒せるだけの力はない。でも瑠夏ちゃんを助けないといけない。

私はその不安定な道の上を走った。途中イメージで減武に攻撃をしたけど、そのイメージは弱かったのか、減武にダメージは入らない。

「瑠夏という女はもう死ぬ。これ以上不幸を起こしたくないのなら俺の元に来い。今なら許してやる」

「いやだ!嫌だ嫌だ」

足がもつれても、息が切れても走る。私が生きることを諦めたら、これまでの全てが報われないから私は走る。

「じゃもう死ね!!!!」


 目を見張った。それは減武が飛んできたからではない。死を感じたからではない。ここで勝つイメージが湧いてきたから。

「きっと、きっとお父さんならこうするよ」

そうして私はイメージをした。

ここにくるまでに乗っていた電車のように、私の道にだけ線路があれば私は立てる。

「無くなっちゃ」

私がそう言った途端、私以外の道は綺麗になくなり減武は湖へと落ちていく。

私は減武に勝ったんだ。

消えゆく街並みのように、減武は姿を消した。

「はっ、瑠夏ちゃん」

私は瑠夏ちゃんの魂を見つけるため減武の拠点へと足速に戻った。

時間制限もあるのだ。急いで探さないといけない。

ゴゴゴ。

「なに!」

拠点全体が大きく揺れる。

なんで、もう減武は居ないのに。

私は走った。一度門の外まで出てきていた。そこには死神さんが待っていたと言わんばかりに立っている。

「槇さん!さすがです。減武の霊力は底をつきましたよ。あなたはこの世界のヒーローです」

「ちょっと死神さん。今はそんなこといいの。ここなんでこんな揺れてるの」

「それは後ほど今は逃げますよ。この橋も時期崩れます」

「待って!瑠夏ちゃんの魂がまだ見つかってないの」

私の魂からの叫びに死神さんは振り返りながら言った。


「私が何もせずここに突っ立てるだけだと思いました?」


「え?どういう」

ふと死神さんの手元を見てみるとそこには蒼く輝く宝石のようなものがしっかりと握られていた。

「逃げますよ」

ただもう遅い。橋の先の方からすでに足場は無くなっていた。

「死神さん、一回拠点の方に逃げよう。そっちはもう危ない」

「わかりました」


「ちょっと死神さん速い」

「槇さんいつもなら追い付くでしょ」

そうだ。なのになぜだか今はもう体力もすぐ尽きる。

「なんで、さっきまで普通だったのに」

もうこの拠点も長くないだろう。でも、逃げる道がもう…。

「ちょっとすみません。担ぎます」

「え、ちょ」

「へへ、死神さんに常識ないので」

「………ありがと」


 死神さんに担がれながら私はその拠点の屋上に着いていた。

「さてさて、ここからどうしますか?もうここも長くないですよ」

「わかってる。まって今道をイメージするから」

さっきみたいに道を作って、駅まで行ければ助かる。

なのに、なのに

「なんで出ないの!」

もっと想像して、もっとイメージして、普段の日常を思い出さないと、私も帰らないと。

「ちょっと落ち着いてください」

「落ち着けって、できるわけないじゃない。もう死ぬかもしれないんだよ。それなのにイメージもできないし、走れないし」

「だから落ち着いてください。槇さんが詰め込む必要はないんですよ」

「でも、じゃどうやって」

私のその問いに死神さんはふふ、と笑みをこぼし、優しい声音で言う。


「私があなたを向こう岸まで飛ばします。向こうの死神にでも、助けてもらってください」


え、

「そもそも、あなたの魂か。もうすでにそんな時間はありません、もう走るのも辛いんでしょう」

「そう、、だけど」

「それにね、ここで魂化が解けるのは死とイコールで繋がります。ここがそう言う場所であるから」

「………」

「ですから、生きてください。私が飛ばしますから」

「………」

「ほらあなたに死なれたらお父様方に合わせる顔がないんですよ」

「………」

「だから飛ばさせてください」

死神さんは真剣な眼差しで、そう言う。

切実すぎるそのお願いを私は「はいそうですね」と返事することはできなかった。

「頼みますよ」

「でも、それじゃ」

「はい。私はここまでですね」

「寂しく……ないの…」

「さぁ、それはわかりません。死神という身、死が何を表すのかわからないんです」

「………」

こんなに芯がある声なのに、とても優しく聞こえた。

「頼みますよ。私の最後ぐらい笑顔で別れましょ」

「………やだよ…」

「槇さん。あなたはそのキーホルダーがついている限り不幸や嫌なことが続くかもしれません。ですが、生きてください。それが消えることを願ってます」

「………なん、、で。」

私の目からは涙が止まらなかった。

こんな結果ってあんまりだもん。

ここまで力を尽くしてくれた死神さんと、こんな別れ方なんて絶対嫌だよ。

最初は最悪な出会いで、驚いて、仲良くなれるなんて思ってもなかったのに、今じゃ死神さんがいなかったらここにくることもできなかった。楽しく過ごすこともできなかった。

それなのに、なんで不幸な目に遭わないといけないの。

なんで死神さんが消えないといけないの。

こんなに優しくて、頼りになる死神さんが苦しまないといけないの。

そう、思えば思うほどに私の涙は止まらなくなる。

「槇さん、心の声漏れてますよ。そんな風に思われてただなんて、光栄です」

「…だったら、だったら二人で逃げようよ。私も頑張るから……さ」

「無理なんですよ。もう泣かないでくださいよ。こっちの我慢も出来なくなるじゃないですか」

死神さんにも焦りが見えてきたのだろうか。

「頼みますよ。きっと次出る電車に乗らないと、あなたは二度と戻れなくなります。それはダメなんです。未来あるあなたは生きないといけないんです」

「…」

「、もう、飛ばしますからね」

やだ、やだやだやだやだ。

それでも、私からその言葉は出なかった。

死神さんの迷惑になるから。

この死神さんの決意を、踏み躙ることになるから。

「それじゃ、生きてくださいね。」


 そうして、私は投げ出された。

全部全部、自分の弱さだ。

「うっ。」

私は壁のようなものに押し付けられた。

「え?」

まだ向こう岸に着くには早すぎるだろう。

せっかく死神さんが助けてくれたのに、また私は不幸に見舞われる。

「槇さん!!」

しに、がみ…さん?

「槇さん!!」

何よ。またなんかあるの。

「槇さん!!」

いつも通り、私のぐだぐだに付き合ってくれるのかな。

「だから槇さん!!これ槇さんですか」

幻聴じゃない?明確に話しかけられた。

恐る恐る顔を上げた。

「死神さん……?」

「そうですよ。なんでこの世界で浮けているんですか」

「どういう?」

そして私は理解する。

今の私たちはなにか、小さな船のようなものに乗り、空を飛んでいた。

「これもイメージの一環なんですか!どういうことですか」

「わからないよ。何これ」

「ちょっと我慢するんじゃ。あと少し耐えれば駅じゃ」

「え?疫病神様」

「なんであんたがここに」

「死神、お主を助けにきたんじゃないわ。わしの魔力使ってキーホルダー作ってる奴らがいてな、取っ捕まえようってきたのにこんなことなって」

「助けてくれたんですか」

「お主には優しくしてもらったからな。ついでじゃほい」

そう疫病神様が言った刹那、私のポーチについていたキーホルダーはパキッンと切れた。

「その亡骸はあんたらにやる。好きに使え〜」

「どうする?死神さん」

「ちょっと私にやらせてもらっても?」

「もちろん」

そうしてその壊れたキーホルダーを死神さんは…。

「トウッ!」

遠くに放り投げた。

「子供に戻った気分です」

「安心して、死神さんは結構子供だよ?」

「ではそう言うことにしておきます」

顔を見合わせて、あははと笑った。


 「駅じゃ。わしはもう少し観光していくよ」

そう言って疫病神様は方向を変えた。

そんな疫病神様の背中に私は大きく叫ぶ。

「ありがとうーーーございましたーー。さすが、神様ーーーー」

「ありがとうか。疫病神もたまには役に立つんですね」

「こら〜ちゃんと感謝して」

「でも、でも今回の活躍は最高です!」

そっか。死神さんもしっかり感謝してるんだ。

「それでは、槇さん。電車が来ますよ」

「うん」

「死神さんはどこまでついてきてくれるの?」

「そうですね、ムーンライトステーションできっと店主さんたちが待ってくれているはずなので、そこでお別れですかね」

「じゃこの電車が最後の時間か〜」

「もう泣かないでくださいね、頼みますから」

「それはわからないや」


「あんたら電車なんないんですか。出発させますよ」

「あっ乗ります乗ります。ほら槇さん早くなってください」

そう、急かされたので私は電車に乗り込んだ。


 「死神さん。私たちもう会えないのかな」

電車の中で言葉を切り出したのは私からだった。

「さぁ〜槇さんが本当の意味で死期を迎えた時次第ですかね」

「いつも通り適当だな〜」

周囲を見渡す。ただその電車の中には私たちしか乗っていなかった。

「ねね、なんでこんなに人少ないの?」

「まず天界から出る電車には私たち死神しか乗りません。その上今は死期が近い人がいないんでしょう」

「そっか〜それはいいことだね」

「はい」

いつもならどうでもいい話でいくらでも話が続いたのに、今はそうじゃなかった。

終始無言の時間が流れる。

ただこの静寂は私にとってうるさいものではなかった。

そりゃそうだと言われたらそこまでだけど、この空間は私にとって心地の良いものだった。

「眠い」

「寝たら死にますよ。意識を持ってください」

「本当に死ぬの?」

「死にません。嘘に決まってるじゃないですか」

なんともまぁ死神さんらしい。


「もう、着きますね」

死神さんのその言葉で気がついた。外を見ると辺りは暗く蛍のように輝く家が顔を表した。

「夜…?」

「朝です。長く過ごしていたかのように感じる天界での時間も、少しだったんですよ」

「そっ、か〜」

思い返せば本当にいろんなことがあった。

死期が宣告されて、祭りに行って、瑠夏ちゃんが息しなくて、礼夜くんの家に走って、毒キノコ食べて、、、電車に、乗って、……お父さんたちと会って………減武と戦って、、………疫病神様に助けられて。、、…

死神さんにも助けられて、、死神さんと遊んで……死神さんとここにきていて、死神さんと話して。

「別れなんて、やだよ」

「泣かない約束でしょう。私にも思うこと色々あるんですよ」

「でもぉ〜死神さんはいろんなこと私にしてくれたのに、私は〜」

「いろんなことしてくれましたって、ほら涙拭いて」

「うわー」

「拭いてって言ってるのになんで涙が増えるんですか!」

「死神さんは、いつも通りだね」

「私も耐えてるんです。こんな楽しかった日々は久しぶりでしたし、あんな命を張ったのも初です」

「じゃ、じゃ人間としてここで暮らそ。家に部屋は残ってるよ」

「あはは、嬉しいお誘いですが、それをする権利は私にはないので、ごめんなさい」

「じゃじゃ、」

「大丈夫ですよ。天界からしっかり槇さんを見守っておきます。まぁ姿は見えなくなるんですがね」

「そんなの、やだよ」

「大丈夫です。あ、あと」

とそう付け足し言葉を紡ぐ。

「お父様とも約束していましたが、わたしとも約束してください。もう当分こっちには来ないでください」

「うん、うん。来ないよ、頑張って生きるよ。もう負けないよ」

「はい。それでは行ってらっしゃい」

その電車はすでに駅えとついていた。

そして扉が開く、それが私たちの別れだとそう言われているような気がした。

その扉が私たちを遮るような気がして、ここから出たくなかった。

でも、それは叶わなくて、夢で、あぁ、どうしたら。

そんな私の頭に暖かい手が乗せられた。

「こんなことをするのも何回目でしょうね。でも、これが今は最後です。あなたの勇敢な行動を私は生涯忘れません。もしあなたに正式に死期が来て、天界に行く時。その時はまた私が担当しますし、生まれ変わったらどちらも人間になりましょう。記憶は失われるかもしれませんが、私たちならきっと上手くやれます。ですから忘れないでくださいね」

今そんな優しい言葉を掛けないでよ。

私は涙を流しながらもその電車から降りた。

「それではさよなら、とはちょっと違う気もするので、ここではまたねと言わせてもらいます」


「槇さん。またね」

「死神さん絶対だよ」

何気に死神さんから私を離れるのは初めてかもしれない。

いや、そんなこともないか。

祭りの日は死神さんが見張ってくれてなかったからこんなキーホルダー貰っちゃったし、瑠夏ちゃんに触らせたのも死神さんのいない所であった。少なからず責任を感じているんだろうな。

思い返せば返すだけ、この数日。少ない日数での思い出は募っていた。もう、振り返るつもりはなかったんだけどな。

たくさんの出来方を思い出すたびに私は居ても立っても居られなくなり、振り返っていた。いや、走り出していた。

そして、死神さんに飛びついた。

「ありがとう。ありがとうね死神さん。

「だから、そんなのずるいですよ。私だって、、堪えていたのに」

「いいじゃん。今ぐらい泣いちゃっても」

こうして私たちは笑顔で泣いたんだ。この数日を振り返るように。


 電車から降りた私は店主さんたちに拾われて、身体と魂を合体させた。

溢れ出る疲労に耐えながら私はその電車を見送るのだった。

きっといつまで経っても忘れない、死神さんが最後に私に残してくれた言葉。

「約束は守ってくださいね」

私だからわかる。その重みを汲み取って、できる限りの笑顔で手を振るのだった。



 それから数日、私はいつも通りの朝を迎えていた。

「おばあちゃん〜行ってきます」と言葉を残し私は登校経路に向かう。

数日前が嘘かのように最近は普通の日常が続いていた。

私の目には死神さんは見えないし、店主さんたちも見ていないという。邪気や魔力を感じなくなったからか、玄関先のお札もいつのまにか姿を消していた。

そうして、またこれからいつもの朝が始まる。

私を待っているであろうその子に私は声をかける。

「おはよ。瑠夏ちゃん。待った?」

「待ってないよ〜今でもお母さんに死んでたよ?とか言われても困っちゃう」

「あはは、寝てただけなのにね」

「本当だよ」

あれから無事に瑠夏ちゃんに魂を戻すことにも成功し、今はいつも通り登校している。一つ違うことがあるとしたら、死神さんが後ろに付いていないことかな。

いや、それが普通なのか。

「〜でさ〜。もう死んじゃうよ」

普通にそんな言葉をつく瑠夏ちゃんに私はニヤニヤと笑みを浮かべて告げる。

           「じゃ一回死んでみる?」


 心なしかどこかで見ている死神さんが微笑んだ気がした。

これはそれから少し後のお話。

「〜でさ〜。本当死んじゃうよ」

「じぁ死んでみる?」

そんなことを言っている少女を私は見ていた。

世間ではそういうのはよくないだの盗撮だのたくさん言われるのかもしれないが、私に常識はないので仕方がない。

そう、仕方がないんです。

そんなことを考えている間にも、その少女が言ったその一言に笑みをこぼしてしまう私は少し、常識を持った方がいいのかも、しれませんね。

「ふふ。元気に生きてほしいですね」

そう、ぼそっと呟いたつもりだったのに、その少女は少しこっちを見て微笑んだように感じた。

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