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第14話 いいじゃん変態になってこいよー

 今、俺は一人で近所のショッピングモールまで来ていた。

 一人とは言っても、傍から観れば一人という意味で。

 隣にはしっかり佐倉が浮いている。


「海行くんならやっぱ水着がいるよねぇ~」

(佐倉には別に必要ないんじゃぁ……)


 幽霊だし。水に濡れたりはしないのではないだろうか。


「え~? 私の水着姿が見たくないと申すか!」


 なんだその口調。

 う~ん、見たいっちゃ見たいけど。

 どうでもいいっちゃどうでもいい……。

 なんて言ったら、半日は佐倉の機嫌を損ねてしまうことうけあいだ。


 逆に言えば、半日くらいしか彼女の不機嫌は持たないのだが。


(あー。うん。見たいミタイ)

「はぁ? 心こもってなーい。ま、いいわ。童貞には刺激の強そうなの選んじゃうからっ。どーせ優人しか見ないんだし」

(……あんま過激なのは着るなよ)


 俺がそう言うと、佐倉がにやにやと笑う。


「はっはーん。やっぱ意識してんじゃーん。このむっつりすけべ~」


 うっざ!

 この野郎……。俺が女慣れしていないと思って馬鹿にしやがって。

 全くもってその通りだからとてもムカつく。


「ちゃーんと、今流行りかつ優人みたいなのが好きそうなの選んだげるから。安心しなって!」


 にゃろう……。

 しかし、そうか。佐倉の水着を見れるのは俺だけなのか。

 そう考えると、なんか得をしたような気分にはなってくる。

 同時に、なんだか憐憫の感情の様なものも湧いて出そうになるが。俺はソレを頭から振り払った。

 彼女自身が気にしている素振りを見せないのに、俺が気にしてどうするというのだ。


 今は、そんなことより佐倉の水着を選びに……。

 って待てよ。それって。


(女物の水着を売っている店に、俺一人で行くのかよ!)

「はぁ? 私もいるじゃん」

(対外的には一人だろうがっ)

「あー、そう言われればそうだね。変態だわ」


 だよなぁ。


(よし、買い物は中止!)

「え~!? いいじゃん変態になってこいよー」

(他人事だと思って好き勝手言うなっ。水着選ぶのは、現地でもできるだろっ。佐倉は速攻で着替えられる様なもんなんだから)


 俺がそう言うと、佐倉は目を丸くしてこちらを見た。


「え? 現地では、店に入ってくれるの?」

(まぁ、遠くの海行けば知り合いに会う確率はほぼないだろ。それなら、多少のリスクは目を瞑るっ)


 本音は超嫌だけどね!


「……そっか。 ん、それで頼むわー。ネット通販とかになっちゃうかと思ったけど、やっぱ現物見ないとはっきりイメージできないからさぁ」


 ケラケラと笑いながら言う佐倉を恨めし気な目で見つつ。

 ネット通販でもいいならそうして欲しいと切実に思った。


 が、佐倉の笑顔を見ていると今更そうしろとも言えない。


 なので、俺が変態野郎になるのは現地までお預けというわけだ。

 あぁ、嫌だなぁ。







 佐倉の水着以外の、諸々の旅行に必要な品を買い込む。


「ねぇねぇ。どこの海に行く気なわけ? 結構ちゃんと旅行の準備してるっぽいけど。遠くに行くの?」


 佐倉が、俺の買った品物のラインナップを見て聞いてくる。


(まぁな。なるべく知り合いに会う確率減らしたいから、遠くに行きたい。それとも佐倉はどっか行きたい所があるのか?)

「んにゃ。ないよー。そんで、どこ行くのさ」

(沖縄だよ)

「お、沖縄?」

(沖縄)


 佐倉は、数舜固まった後。

 文字通り飛び上って叫んだ。


「おきなわー!! すっごーい! 私行ったことないっ! マジで連れってくれんの!?」


 佐倉が空中に飛んで行ってしまったので、体が接触していない俺の心の声が彼女に届かない。

 なので、目で「降りてこい」と佐倉に促す。


「あ、ごめんごめん。ついテンション上がっちゃって」


 面目なさそうな表情で降りてきて、佐倉が俺の肩に触った。


(いや、大丈夫だけど。そんなに驚くようなことか?)


 沖縄といえば観光地としては有名なのはわかるが。

 そうは言っても国内なんだが。


 因みに、俺は国外に出たこともないし。沖縄に行ったこともないけど。

 行きたいと思ったこともなかった。

 今までは。


「いや~だって、沖縄だよ沖縄! やっぱテンション上がるじゃん! でも本当にいいの? なんか飛行機とか色々お金かかるんじゃないの?」

(心配しなくても、それくらいの金はあるよ)


 俺は、趣味もなく。普段親交のある人間も殆どいない。

 つまり、金を使うところが今まで無かったのだ。

 なので、多少は貯金している。

 まぁ、元の給料がたかが知れているから、大した額じゃないけれど。


 それでも、俺一人で夏の休日に沖縄に行くくらいの事は普通に可能だ。


「そっか。ありがとっ優人! 私嬉しいっ」

(あ、あぁ。どういたしまして……)


 まさか、こんなに喜ばれるなんて思いもしなかった。

 なんとなく、彼女と最初に会った時のことを思い出す。


 あの時も、俺があげた景品を佐倉は思ったよりも嬉しそうに受け取ってくれたっけな。


 どういう心の動きなのか、自分自身でも判然としないのだが。


 佐倉に喜ばれるのは、なんだかんだ言って。

 俺も嬉しい。


 自分の行動で、誰かが喜ぶのが嬉しいなんて。

 子供の頃に失って久しい感触だった。


「優人っ。ガイドブック買おうガイドブック! んで、私の代わりにめくって!」

(はいはい、そう興奮するなって)


 そんな事はおくびにも出さずに、俺はテンションの高い佐倉をなだめる。


 なんだか、こいつを見ていると。俺まで楽しみになってくるようだった。

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