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黒と白と階段  作者: 清泪(せいな)
此処と其処と欺瞞

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37/52

「里丘と高塚って、そんなに仲良かったっけ?」

「アレだよ、アレ。打ち合わせの日のあの騒動からさ、なんか気が合うねって話になってだんだん仲良くなった感じかなー。そういう意味ではアンタにもちょっと感謝してる」

「なんでだよ、俺は何もしてないよ」

「うーん、まぁ、何もしてなかった、気もする」


 おちょくってるのか、とタイチが愚痴ると里丘は冗談だと笑う。


「私さ、小学校はアンタたちとは別じゃん。だからクミが小学校の頃、どんな感じの子でどういう扱いされてたか知らないんだよね。で、それがまぁクミ的には話しやすかったんじゃないかな。フラットな感じっていうの?」

「フワッとした感想だけど?」

「うまい返ししたみたいな顔やめた方がいいよ、うまくないし」

「そんな顔してないし、急に鋭利な返しするなよ」


 タイチの言葉に里丘はナイフを持ったジェスチャーをする。

 持つところを両手で掴んでるので、イメージとして結構な大きさのナイフのようだ。

 刃渡り的に銃刀法違反に引っ掛かりそうだ。

 それを里丘はタイチの腹部に向けて動かして、プシューと可愛らしい音を口にした。


「本当に刺してたらとんでもなくグロテスクな絵面だよな」

「見馴れたもんでしょ、ホラー映画好きなら」

「そんな大型ナイフ刺して、プシューなんて血の吹き出し方したらちょっとコメディだけどな」

「え? そんな感じ? 私、小さく吹き出していく方が怖いけど」


 コミカルに描かれる方が怖い。


「俺と里丘だと演出面で意見がすぐぶつかりそうだ」


 タイチは笑って、里丘の架空のナイフを納めさせた。

 里丘はナイフを持っていた手をまじまじと見つめる。

 想像のお芝居の中で返り血は里丘の手を染めたのだろうか。


「ねぇ、高校、どこ行くか決めた?」

「なんだよ、突然?」

「いいから、教えてよ」

「んー、結局復井高校になりそう。近いし」

「そっか」

「里丘は何処の高校に行くんだ?」

「私も復井高校。近いし、先輩もいるしね」

「憧れの先輩とか?」

「そ、演劇部のOB」


 一年生の頃、どの部活に入ろうかと悩んでいた頃に勧誘してくれた当時の演劇部部長。

 里丘にとっては大女優のような扱いで、間近で演技を見れたのは一年間のみだったので、同じ高校に進学してまた彼女の演技を見たかった。

 復井高校の演劇部は、その憧れの先輩が在籍してることもあってか近年色々な賞に輝いていた。


「ねぇ、どうせ同じ高校行くならさ、アンタも演劇部入らない?」

「なんだよ、突然? ってさっきからこればっか言わされてない、俺」


 唐突なんだよ、とタイチは続ける。

 里丘がそれにまた悪戯っぽく笑い返すのかと思ったが、里丘は真剣な表情でタイチを見ていた。


「冗談じゃなくて、突然でもないの」

「いや、無理だよ、俺、演技とか出来ないし。文化祭の劇の演技班もめちゃくちゃ避けたんだぜ」

「役者として演劇部に誘ってるわけじゃないの。期待してないし」

「お前、また鋭利に刺してきてるって。ナイフをしまえ」

「アンタはさ、脚本とか演出とかそういうので演劇部に参加できるんじゃないかって思うんだよね。アンタの映画の話、結構面白いし」

「いつも雑に聞いてるクセに」

「それはアンタの話すスピードが早くて飲みこみが追いついてないだけ。アンタが悪いの」


 グッとタイチは喉をならした。

 好きなことを話すと詰め込みたい内容が多すぎてスピードが早くなることは少し気にしていた部分だった。

 更に言えば、特に滑舌が良いわけでもないので相手には聞き取りにくい部分もあるのではないかとも気にしていた。


「私はさ、アンタが部活に入らずにそうやって眺めてるだけなのは勿体無いと思うんだよね。それに、もっと話したいし」

「え?」

「え、映画の話のことね、映画の話のこと」


 少しずつ沈みつつある夕陽の明かりが廊下に差して、里丘の姿を仄かにオレンジに染めていく。

 染められたオレンジが頬の薄い赤と混ざって見えて綺麗な色をしていた。


「だからさ、あの、その・・・・・・」


 口ごもる里丘。

 グラウンドからは、位置について、とまた陸上部の声が聞こえていた。

 そーれ、とバレー部の掛け声も聞こえる。

 今日は体育館はバスケ部が使用してて、バレー部は走り込みの練習で基礎体力を鍛える日。

 三階まで大勢の足音が重なって聞こえてきていた。


「寂しそうに遠くを見つめるような目は止めなよ。私さ、周りの子からしか聞いたことないから実際見てないんだけどさ、それって噂に聞く昔のクミみたいじゃない? あの子も悲しむよ、そんな目、してちゃさ」


 溜め息を吐き出すように里丘は言葉を並べた。

 本当なら、昔演じた英雄みたいに格好よく手を差し出してやりたかった。

 さぁこの手を掴むんだ。

 凛とした佇まいで、タイチの手を引っ張りあげたかった。

 でも彼は私の手を掴みはしないだろう。

 里丘の諦めは現実のものだと、タイチがぎこちなく笑みを浮かべて立証される。


 ああ、やっぱり、思っていた通り演技が下手だ。

 こんなときに笑うことすらままならないなんて。

 こんなときに笑ってごまかすしかできないなんて。

 ああ、やっぱり──。


 その手は、掴めない。

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