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黒と白と階段  作者: 清泪(せいな)
此処と其処と欺瞞

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35/52

 夕方、四時。

 グラウンドをオレンジに染める夕焼け。

 校舎を影に落とし込む夕闇。

 教室の明かりがポツポツと消えていき、廊下に明かりが灯る。

 人影の少なくなった校舎とは対照的にグラウンドでいくつかの部が活動していた。

 土煙を上げ体操着を汚し汗を垂らして走る姿に、タイチは自分とは違う世界だなと見つめていた。

 校舎三階西側、演劇部部室前廊下。

 廊下の窓のサッシに肘を立てて頬杖をつきながらタイチは部活動を眺めていた。

 青春の一ページ。

 持ち合わせているかどうかもわからないそれを羨ましくも思う。

 それでいて、興味がないと捨て置ける気持ちもあった。


 開けた窓から入る風は冷たくて、ウインドブレーカーのチャックを首もとまでしっかりと閉めていた。

 聞こえるのは三階の高さまで届く部活の掛け声と風の音。

 そして、近づいてくる足音。

 タイチが足音の聞こえる方に顔を向けると演劇部部長の里丘センが近づいてきていた。


「こんなところで、何してんの、アンタ?」

「部活見てる」

「暇なら部活入ればいいじゃん」

「卒業四ヶ月前に部活始めるやつなんていないよ」

「知ってる、冗談じゃん」

「わかってるよ、冗談だって」


 タイチは一度里丘にやった視線を再びグラウンドの方に向けた。

 里丘とそれほど話したことが無かったので会話の距離感が掴めずにいた。


「そんなに見てさ、好きな女子でもいるの? 後輩と付き合いなんてあったっけ?」

「いないし、付き合いもないよ。そういうのじゃない」

「それじゃあ、何? いやらしい目で見てるのとかやめてよ、人の部室の前で」

「違うって」


 タイチが首を横に振り、里丘を見ると里丘は笑みを浮かべタイチを見ていた。

 悪戯っぽく笑う少女。

 しっかりした厳格なイメージが一年生の頃──出会った頃からあった同級生のそんな表情を見てタイチはドキッとする。


「いや、あの、もう見れないんだなって思ってさ」

「ん、見れないって?」

「もうすぐ卒業だしさ、その前には冬休みとかもあるだろ。期末テストなんてのもあるし。中学の部活動ってさ、もう数えるほどしか見ることなくなるんだなって、思ってさ」

「センチメンタルなこと言うんだね。アンタってそういうタイプだっけ?」


 タイチは首を横に振る。

 今度は里丘の顔を見ながら。

 悪戯っぽい笑みは消えて、タイチの言葉に何処かしら思うところがあったのか寂しさを憂う表情をしていた。

 一瞬目があって、表情を見られていると察した里丘は恥ずかしそうに視線を外した。

 里丘の視線の先にあったのは、演劇部の部室。


「卒業かー。そんな言われ方したら、ちょっと寂しく感じてきたなー」

「里丘は特にさ、部長としてやってきたしそういう感覚強いのかと思ってたけど?」

「うーん、部活の引退みたいのは夏の終わりにはやってたし、そのあとも部長の心得引き継ぎするためにちょくちょく顔出してたからね。それに文化祭の劇練習で部室には通いつめてたし。どっかそういうの薄れてたっていうか」


 引退というのは形式的な話だ。

 それ以前もそれ以後も部活との関わりに変わりは無くどことなくそういう感覚で里丘はいた。

 きっと今後も後輩たちとはOBとして関わっていくのだろう。

 それは自分もそうやって先輩たちと関わってきたからで、タイチが言うような、はいさよなら、の関係ではなかった。


「うん、やっぱりさ、私が三年間この演劇部にいたこととか、そういうのって卒業しても残るからさ、寂しさってそこまででもないかも」

「ふーん」

「何、その返し。何か不満?」

「いや、うーん、多分羨ましいとかそんな感じ。うまく言葉に出来ないけど、俺には無いなって感覚だし、俺は作れなかったんだなって感覚」


 タイチはまた視線をグラウンドに移した。

 里丘はそれに少しムッとした。


 グラウンドの中央で陸上部がタイムを図っていた。

 グラウンドに轢かれた楕円形のトラック。

 スタートの合図にピストルは使えなかったのか大きな掛け声が響く。

 位置について、用意、スタート!


「位置についてさ、一斉にスタートするのって難しくない?」

「は?」


 タイチの問いに里丘は意表を突かれて冷たく返す。

 タイチはそれを笑う。


「何かの映画でも観たの?」

「俺が映画好きなの知ってたっけ?」

「アンタって言ったら映画好きだって同じクラスの人間なら答える」

「そんなに公言してたっけかなー」

「人に映画薦めるの、もしかして無意識にやってんの?」

「夢遊病みたいにいうなよ」


 口を尖らせるタイチ、それを笑う里丘。


「アンタの薦めてくれた映画、アレさ、演技の参考になったりしたんだ、ありがとね。今さらだけどさ」

「いいよ、礼なんて。こっちこそ、観てくれてありがとうってことで。お互い様じゃん」

「何それ、アンタ、どの立場の人なの? 映画のプロデューサーか何か?」


 タイチが照れ隠しに手を振り笑って見せて、それを里丘は指差し笑う。

 夕焼けに照らされたタイチの頬が赤く染まっていった。

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