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黒と白と階段  作者: 清泪(せいな)
此処と其処と欺瞞

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34/52

「で、タイチはどうなんだよ?」

「何が?」

「何がって、高塚のことだよ。アレから話したりしてんのか?」


 上牧の質問にタイチは眉をひそめる。

 太陽が照りつけるグラウンドに目をやって、ふーっと深いため息を吐いた。


「話してない」

「何やってんだよ、せっかくのチャンスだったろ」

「うるさいなぁ、掴めなかったんだよ、チャンス」


 ぼやくタイチに上牧は手で顔を覆い天井を見上げる。

 大袈裟なリアクションだと、タイチはそれを見てまたため息を一つ。


「女装の一つでもして笑わしてやったら一発だったのに」

「何だよ、それ」

「あー、アレだよ、脚本係が変更しようとしてたヤツ。実は隠れて準備してたらしいじゃん、女装セット」

「バカ、そんなので高塚の前に出てみろ、怒られる所の話じゃないよ」


 あの時、脚本係のシナリオ変更案を聞いたときのクミの怒りっぷりが思い出される。

 どんな口実を作ったらあの怒りっぷりを見せたクミに対して女装で笑いが取れるのだろうか?


「んじゃあ、アレだ、実はその女装セットが文化祭の日に紛失したって話をしたら笑ってくれるんじゃないか? ざまぁみろ的な」

「高塚がそんな性格の悪い笑い方するかよ。単純に驚くか、ふーんで終わるよ」

「俺は笑ったけどなぁ。アイツら、予算勝手に使ってたんだろ?」

「あの日、高塚と里丘に詰められた事を根に持ってたらしいよ。本番でいきなりぶち込もうとしてたらしい」


 劇のぶち壊し。

 予算管理のクラス委員をどうにか言いくるめてまで進めたその計画は、しかし役者に対しての根回し不足で頓挫することになった。

 それはそうだ、里丘にスパルタ的な演技指導を受けてまで迎えた本番をぶち壊されようとして素直に頷く役者はいない。

 スパルタ指導は辛くても実のあるもので、恨みを抱くようなものではなかったのだろう。

 一回の演技とはいえ努力の結晶を蔑ろにするほど、脚本係の逆恨み計画に魅力は無かった。


「しかもそれを管理不足の上に紛失したんだからな」

「やることなすこと全部ダサいんだよ、アイツらは」


 クミにこの話をしたら一緒に怒ってくれるかもしれない。

 驚いて怒って、悲しむかもしれない。

 自分の意見が他人の意見を殺した故に起きた妬みに、クミは意見を出したことを後悔するかもしれない。

 だからタイチはこの話をクミにしたくはなかった。

 脚本係の愚行は担任の意向によりまだ公にはせず、かん口令が敷かれた。

 知ってるのは関わった生徒と、上牧のように関わった生徒と仲が良い生徒だけだった。


「じゃあさ、どうすんだよ、高塚のこと」


 上牧の問いにタイチは眉をひそめる。

 その質問はもううんざりだと示すように意識して眉をひそめたので眉間に力が入って痛い。

 上牧はタイチのその態度などお構いなしにタイチの答えを待っていた。


「どうすんだもこうすんだもないんだよ」

「何、高塚のこと諦めんの?」

「諦めるとかもないんだよ。今のまま」


 おいおい、と上牧は首を横に振った。


「ちゃんと好きなら好きってアピールしていかなきゃ。高塚ってさ、昔は避けられてたのかもだけど、今は意外とライバル多そうだぞ」

「ああ、何となくわかってるよ。そういう上牧だって、高塚のこと狙ってたんだろ?」

「お、おお。自分と正反対な感じにさ、妙に惹かれたっていうか。あ、この話、カスミの前ですんなよ。前にこの話になったあと、かなり引きずったからな」


 もう揉めるのはうんざりだ、と上牧は肩をすくめる。


「俺もこの話はもううんざりだよ。良いだろ別に、俺が高塚との距離感をどう取ったって」

「いや、まぁ、そこまで言うならそうなんだけどさ」

「俺は多分、高塚のことを見守るぐらいの位置があってるんだよ」

「あしながおじさん、みたいなことか?」

「別に援助しようとかそういうことじゃないよ」

「わかってるよ、そんなこと。騎士ナイト役は諦めるってことか?」

「俺のキャラじゃないよ」

「好きかどうかにキャラを持ち込む話かよ。まぁ、お前らしいっちゃらしいか」


 クミを笑わしてやれるような道化ピエロにもなれず、側で守ってやれる騎士にもなれない。

 自分に出来ることはなんだろうか。

 タイチは封鎖された西階段の方に視線をやって自分に問う。


 満足のいく答えなんて浮かぶわけが無かった。

 見守るぐらいの位置。

 自分で口にしたその言葉もしっくりなんて来ていなかった。

 高塚クミに対しての自分の立ち位置なんてものが本当にあるのだろうか。

 あの日から──文化祭の日からずっと考えては答えが出ないままだった。


 あの日見た女生徒の後ろ姿が目に浮かんで、タイチは頭を横に振った。

 自分には手の届かない後ろ姿だった。

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