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黒と白と階段  作者: 清泪(せいな)
此処と其処と欺瞞

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32/52

 十一月、第二週、水曜日。


 茨北中学校の校舎はL字状になっていて両端には非常用の螺旋階段がある。

 落下防止にと腰辺りの高さまでは外壁が付いているが、半分は窓もついておらず防寒などあったものではないので冬に向かうこの時期に利用しようなど普段は思わないものだ。


っみぃー、ほら、早く登れってタイチ!」

「はぁはぁ、押すなよ、上牧。はぁはぁ、後ろに倒れて階段落ちることになったら、お前も巻き込むからな」

「お前ね、笑いづらいこというんじゃねぇよ」


 上牧に背中を押されタイチは階段を少し早足で登っていく。

 一階の教室から四階の音楽室へ。

 各階の出入口以外にろくに踊り場の無い螺旋階段を一気に駆け上がるのは運動部ではないタイチにはかなり辛い移動だった。

 息が上がり、持ち上げる足が重たい。

 背中を押して急かす上牧はタイチとは違い、息も上がらずバスケ部で培った体力は健在のようだ。

 外の寒さから学校指定の青いウィンドブレーカーを着込んでいたタイチは、額に流れる汗を手で拭きながらいつウィンドブレイカーを脱ぐかを考えていた。

 荒い呼吸を整える暇もなく階段を登っていく。

 上牧の後ろからの圧もあるが、下の方から足音が聞こえてきているプレッシャーもあった。


「ほら他のヤツも登ってきてっぞ。あと一階、頑張れって」

「はぁはぁ、わかってるよ。そんな急かさなくてもチャイムはまだだろ?」

「だから体育館側の東階段の方がゆっくり登れて楽だって言ったのに」


 非常時に使われるはずの螺旋階段は中学生の体格をして一人半程度の横幅とかなり狭かった。

 追い越しなんて出来ない狭さで、パニック状態の災害時にこの階段に人が駆け込めば雪崩のような事故を起こすだろうとタイチは思っていた。

 いや、タイチ以外もここを利用したことがある者はそう思っているらしく、防災訓練の際には見事に使用禁止にされていた。


「窓も無いから風どころか雨も入ってきて凄い滑るし、どこが非常階段なんだよ。はぁはぁ、非情だよ、まったく」

「お前、たまにわかりづらいボケ方するよね」

「はぁはぁ、ボケてない。文句言ってるだけだ」

「わかったから、登れよ、っみぃんだって」


 上牧がタイチの背中を押す力が増す。

 最早急かすというより支えられているようだった。


 息を荒げながらも四階に辿り着く。

 出入口のドアノブを掴むと冷えていてタイチは少し驚いた。

 タイチたちの前にも誰かが登っていて掴んだであろうはずなのにもう冷えきってるのかと思うと、真冬には使うべきではないなと改めて思い知らされる。

 冬になる頃には音楽室側の階段の封鎖が取り除かれている事を願うばかりだ。


「ようやく到着だよ、ったく。タイチ、お前もちょっとは運動しろよ、受験鈍りとかじゃねぇだろ。体力不足すぎるって、オッサンかよ」

「はぁはぁ、普段はこんなに、はぁはぁ、息切れしないんだって。この非常階段が悪いんだよ」

「はぁ、いつまで続くんだろな、階段の封鎖」

「さぁ。でもまだ二週間しか経ってないじゃないか、まだ調べることがあるんだろ?」

「調べるって、最近もう警察来てないぜ。ただ、封鎖してるだけ」


 ドアを開くと四階廊下に出る。

 開けた先には音楽室に入っていく生徒たちがいて、何人かがじっとタイチたちを見てきたのでタイチは慌ててドアを閉めた。

 非常階段から入る空気が冷たい廊下を更に冷やしていく。

 その冷たい廊下の突き当たり、L字の曲がり角に当たる部分に西階段と呼ばれる階段がある。

 普段なら校内の人間が教室の移動にと利用しているのだが、今は防火シャッターが半分ほど下げられていて下の方には立ち入り禁止と主張する黄色いテープが横に貼られて侵入を妨げている。

 防火シャッターが半分下げられているのは、学校側が生徒たちが事故現場を直視しないようにするための配慮なのだとタイチは聞いていた。

 滅多に見ない防火シャッターに逆に注目してしまうのではないかと、タイチは首をかしげていた。


「この非常階段さ、取り壊されてエレベーターになるらしいぜ」

「はぁはぁ、いつの話?」

「三年後ぐらいだって。創立何年かの記念事業らしくてOBに寄付願ってるらしいよ、兄貴が言ってた」

「卒業後の話か・・・・・・」

「エレベーターなら、まぁ死亡事故(・・・・)なんて起こらないんじゃないか?」

「・・・・・・そうかな? そっちの方が怖そうだけど」

「ホラー映画の観すぎだよ。また観てたのかよ?」

「ああ、そうだ。上牧、オススメの映画があってさ──」

「お前のチョイスはグロいから観ないって言ったろ」


 映画の話になって目を輝かせるタイチを上牧は面倒くさそうにあしらって、音楽室に入っていった。

 タイチは上牧の後ろを追いかけて、映画タイトルを羅列していった。

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