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黒と白と階段  作者: 清泪(せいな)
時と砂と新聞

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「聞かなきゃいけない気がして」

「私、無理強いしてた?」


 クミは足を止めて、タイチの方に向き直す。

 タイチも足を止めて、顔をクミに向ける。

 クミがじっと見ている。

 タイチは首を横に振る。


「違うよ。俺がスッキリしないから」


 そっか、と口癖のように言ってクミは頷いた。


「遠慮してるんだよ、きっと」

「遠慮?」


 タイチは反射的に聞いた。

 おうむ返しのようで何だか恥ずかしかったが、クミの言葉を確かめたかった。


「射場君、質問ばっかり何だかずるい」


 クミが頬を膨らます。

 怒っているというアピールだろうか。

 何だか可愛い。


「見透かせないんだから仕方ないだろ?」

「そういう返しもなんだかずるい」


 クミの頬がさらに膨らむ。

 色白でほっそりとしたクミの顔が、紅潮し真ん丸となった。

 やっぱり可愛い。


「男には狡さも必要だって、フランス映画で教えられたんだ」


 タイチは、何かの映画で聞いたセリフを口にした。


「ホントに?」

「さぁ」


 タイチは、映画のようにすまして返事をしてみせた。


「私さ、アレがあったからなんだか上手く振る舞えなくて」


 アレ。


 それが何を意味しているのか、タイチはすぐに理解した。


 小学四年生の八月。

 高塚クミの父親が死んだ。

 死因は、団地内での階段の踏み外しによる落下事故。

 たった七段の短い階段を後ろ向きに転倒して、踊り場で倒れていたところをクミが見つけて母親が救急車を呼んだ。

 クミの父親は、打ち所が悪く病院につく頃には死んでいた。

 不幸な、事故だった。


 それからクミが周りから浮いていたことを、タイチは知っている。


 半透明な彼女。


 タイチがそう感じたあの時の高塚クミは中学生になって変わったはずだった。

 だけど、変わらないものがあった。

 半透明な彼女が、透明であろうとして気を使っていたこと。

 そして、周りもそんな彼女に気を使っていたこと。

 その根底は変わることなく、今でも遠慮という形で距離を作っている。

 クミも周りもその距離を埋める事はできないのかもしれない。


「でも、高塚は上手くやってるよ」


 え?、とクミはタイチの顔を見つめた。


「皆と仲良くしようとしてるし、自分を変えようともしてる」


 タイチもクミの顔をじっと見つめた。


 ずっと、見てきたんだ。

 自分に出来ること。

 高塚クミに対して射場タイチが出来ること。

 そう思ってずっと彼女を見てきたんだ。


 クミが上手く振る舞えてないなんて、言わせたくない。

 これ以上彼女に彼女自身を否定して欲しくない。


 タイチの言葉に、クミは何も答えなかった。

 お互いが次の言葉を発する事が出来ずに、沈黙が流れた。


 クミは何故、何も言わなくなったのだろうか?

 タイチは自分が話した言葉を頭の中で反芻した。

 なんだか、彼女の事をわかったような言いぐさだ。

 下手をすればストーカーのように取られかねない言葉だ。

 クミはもしかしたら、今怒っているのかもしれない。

 わかったような顔をするな、と。

 それとも、怖がっているのかもしれない。

 同じ係になった同級生がストーカーだなんて最悪な話だ。

 これはクミの言葉を待っているよりも誤解を解かなければいけないのではないだろうか。


 タイチはそう思うと、慌てて口を開いたがそれより早くクミが言葉を発した。


「ありがとう」


 クミはそれだけを言って歩みを再開した。

 タイチはその言葉を把握できずに、立ち尽くしていた。

 タイチが気を取り戻した時には、クミは随分と先を歩いていた。

 タイチは慌てて後を追った。


「なんだか励まされたみたい」


 クミがそう言ったので、タイチは、ああ、と返事した。


「そこで生返事するかなぁ。励ましてくれたのは射場君なんだから、もっと格好良く返事してくれないと」

「格好良く返事って?」


 格好の良い返事とは何だろう?

 歯がキラキラ輝いて親指立てた爽やかな男が、タイチの頭の中に浮かんだ。

 自分がそんなポーズを取ってみたら、さぞかし格好悪いだろう。


「さっきみたいに私を後押ししてくれるような返事」


 クミは足を止め、タイチの方に振り返った。


「嬉しくてつい固まちゃった」


 クミは、笑顔だった。

 夕陽を背中にするクミの笑顔は、影の中でも明るさを損なわずにいた。


「私を見てくれている人がいるんだって、それがすごく嬉しくて」


 ずっと見ていたい笑顔だった。

 半透明だった彼女が失っていた笑顔。

 クミは、それを取り戻したのだ。

 クミは、それを手に入れたのだ。


 タイチは、それが嬉しかった。

 今すぐ手を伸ばして抱きしめたかった。

 ただ、その勇気はタイチには無かった。

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