②
そんな恐ろしい台詞を吐いた瞬間。
眼前の空気はまるで絶対零度に染まった様に、酷く冷たく凍り付いたんだっけか。
「……え?」
同時に、レイナの眼に鬼が宿ったのを目視して更に声を失ったのを鮮明に覚えている。雰囲気は突如変化し、優しい顔を見せていた勇者も─────。
その時になって私はやっと、やべっ失言したと気が付いた。
勇者は鬼のような形相でコチラを正視。
「おい、お前……何様だよ」
「え? あっ、ーーっゅふ。……失言、し、た」
「失言した、じゃねぇよ。ふざけんなテメェ、俺のレイナに何言ってやがる。……まじ殺すぞ?」
ひ、ひえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?!?
確か、帯刀していた剣を抜いてコチラにそう言ってきた。
恐怖。まさに圧倒的恐怖っ! ……これは既に大人になっていた私でも、流石に失禁してしまいそうだった。
怖かったのだ。
だから冷や汗をかきながら……。
「じょじょじょじょじょ……」
「ジョジョ?」
「冗談ですよー、ブラックジョークていうか? いやぁ、あーはっはっはっはっはっ!」
「そうか……? 俺は許さないが」
ビクっと体が揺れる。
なんだコイツ、と思いながらも……ヤバイと直感的に理解した。オワタ。とまではいかないかもしれないけれど、ダメだと思ったのだ。
「おーほっほっほっほっ」
悪役令嬢のように気高く、そして苦笑をかます。
─────まずい。
相手の顔は普通にマジで、まじで怖かった。
「い、いったんごめんんんんんん!!!!!!!!」
だから私はその瞬間、取り敢えず逃げようと家から逃げ出したのだ。うおおおおと叫びながら、まるで空を舞う大鳥の様に。
背後を確認して、追ってきている勇者を見て一安心。
……どうやら、私の人生はここで終わったらしい!
あーはっはっはっはっは。
「だ、誰か追われてるぞ⁉」
「勇者様だ! 勇者様が本気だっ!」
「怖いぃ!?!?!?!?」
街を走っていると、様々な聴衆の声が交聞こえてくる。
ーー助けてほしいんだけど、まじで。誰も叫んでいるだけで、助けてくれやしない。絶望のひと時。
だがそんな時─────私の逃亡に手助けしてくれた商人がいた。
馬車の荷台に乗っていた青年が「これに乗って!」と手を差し伸べてくれたのだ。……そしてなんとかその手を掴み、逃げ切る? 事に成功した私は引っ越しという名目で村に来たワケである。
◇◇◇
「どう? ちゃんと理解出来たか?」
「う、うーん? 取り敢えず、メリッサが愚かな事をして勇者を怒らせて……殺されそうになったから、実はここに逃げてきたってコト?」
「うぐ、まぁ。そうだけどさ……でも言っとくが、日本人の勇者さんはやはり評判が悪いんだぞ?」
過去の嫌な思い出を話し終え、少々苦い後味が残りつつも目の前の少年を見据えた。でも彼は対して理解出来てない感じだったが。
それと……。
結局、なんとなく噂で聞いた程度ではあるがレイナはあのまま勇者に結婚したが、勇者さんは実は超横暴で……家事とかは全てレイナや、雇ったメイドに任せっきりだったとかなんだとか、らしい。
「でさでさ、そのメリッサを助けてくれた青年て誰なの?」
「ああ、あれはな……聞いて驚くなよ? ありゃ、お前の父さんだ。そしてこの村に居候させてもらってからは、お前の兄。サイに色々とこの村の事を教わったんだぞ?」
「そりゃあ、メリッサはメリッサで大変だったんだねっ」
「そうなんだよ……。六歳児に言われると、少し溜息食らうがな」
腕を組み、私は言う。
聞かれたとは言え、つまらない過去話を六歳児にしてしまった事は更につまらないものがあるのだ。。
全く、最悪というかなんというか。
…………でも、私は未だ自分の意見は変わっていない。
日本人の転生勇者はクソだと、理解している。
私はとっくに知っていたのだから。
「さて、と。これで……お話は終わりだ」
「えぇーっ⁉」
「もう私が嫌な思い出に狩られるのは嫌だからな。ケロット、お前は家に帰ってアイツにでも遊んでもらえ」
「えー、楽しくないよぉ……」
そして私は洗濯物を干し終わり、ケロットと別れて家に入った。
◇◇◇
「ぷはぁっ!」
酒を飲みつつ、私は家で安らぐ。
あんな若かりし頃の黒歴史を今思い返してみると、あまり自身の心境に変化がない事に気付く。
やはり自分は自分なのだ。
人はそんな易々と変わる事が出来ない。
それは私が三十二年生きてきて思い知った事である。
……未だに自分はそう思っているのだ。あんな命の危機にあったというのに、いや……あんな危機にあったからこそ。私はそう思っているのだろう。
殺されかけたからこそ言える。
『結婚相手に転生勇者を選ぶのは地雷だ』と。
……特に日本人。アイツらはダメだ。なんかめちゃくちゃ強い神様のご加護を受けている上に、なんでかめちゃくちゃモテる。
私もそれぐらいモテたいってのによぉ。
羨ましい限りです、はい。まぁモテなくたっていいよ、別に。金輪際、一生独身だって構わない。
独身とは言わば、孤高にして己という自我を強く貫き通す英霊の名だ。
「つまり、そういう事だ……っ」
だから私は、これから一生独身でも構わない。
─────酒の入った瓶をぐびと飲み、シャブ漬けにされている気分を味わう。ああ、独身とは自由だ。
本当に心地よい。
だからこそ─────。
ああ……。
『普通の人と、結婚したいなぁ』
最近、短編小説を書いたり読んだりするのにハマっていたりします。
拙い作品ですが、もし少しでも面白いと思ってくれたならばはぜひブックマークや広告下から『★★★★★』を頂けると幸いです。
長編小説で「きっと俺の求めている青春は、此処にも無い。〜清楚系美少女は、なんだか陰キャの俺にだけ刺々しい〜」という小説も書いています。
もし良ければ、読んでみて下さい。