恋の決戦槍も降る
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
灯に群がる蛾の群れよ
私の大事なあの人は
見目よく品よく才長けて
気は優しくて力持ち
何よ、今まで誰一人
見向きだにさえしなかったのに
私と心を通わせて
身だしなみにも華が出た
地味なあなたも好きだけど
私のために頑張って
かっこよくなるあなたも好きよ
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
灯に群がる蛾の群れよ
お淑やか
彼女は手弱女
男女を問わず人気があって
気配り手習抜かりなく
いざとなったら薙刀構えて
恋のラスボス張れるほど
良い子なのかも知れないけれど
あの子を守る兵たちが
私を貶め投げてくる
石礫
割れ瓦
槍の雨
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
灯に群がる蛾の群れよ
彼女なら納得
あの女を倒せ
かっこよくなったあの人に
急に群がってきたくせに
ラスボス乙女が現れた途端
自分のワンチャン投げ打って
さらに激しく私を謗る
二人のお昼時
割り込んでくる女ども
優しく笑って受け入れないで
二人のティータイム
乙女の兵には男も加わり
女のお尻で押し出されて
男に腕を掴まれ立たされて
そこに立たれると邪魔だから帰れば?なんて
困り顔で何も言わないあなたも何なの
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
灯に群がる蛾の群れよ
一人の帰り道
見せつけてるの?
あの人の側で
彼女が淑やかに笑う
あなたは辛そうに
私の無神経を訴える
あなたが好きだと言ったはずの
私のガサツを批判する
それから
私のありもしない浮気を語る
親衛隊の男女が
巧妙に仕掛けた罠で
見せられたのね
幼馴染の友達の
誕生日会があった時
2人で楽しく歩くのを
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
灯に群がる蛾の群れよ
家が隣よ 当たり前
解散した後一緒に帰る
不審ならば聞いてよね
なんで私に聞かないの
なんで2人に聞かないの
幼馴染とあなたと私
恋した後に紹介したわよ?
一緒に遊んでたのになんでまた?
いつのまにやらラスボス乙女が
私よりも誰よりも
近くに隣になっている
あなたは笑わなくなった
私の前でいつも戸惑う
あなたはすぐに電話を切るし
メッセージはいつもこちらから
全部が逆になっちゃった
初めて恋というものを
教えてくれたあなたから
初めて裏切りと言うものを
知らされる羽目に陥るとはね
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
幼馴染のあの子
素敵な笑顔が曇ったのはいつ
地味で真面目な彼氏が出来て
幸せそうな乙女になった
僕はとっても嬉しくて
2人の恋を応援したよ
恋の細道 迷い道
あいつはどんどん輝いた
恋した人に愛されるため
全ての才が花開く
幼馴染の自慢の恋人
いつしか毒蛾を寄せ集め
幼馴染は痩せてゆく
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
走れ今
誤解するのもおかしいが
恋する男は臆病だよな
だけど誰から見せられた?
そのときお前は誰といた?
どうせ僕など足軽雑兵
槍を一本引っ担ぎ
オンボロ陣笠 足袋裸足
鬢もおどろにほつれるままに
走れ今
恋の細道 迷い道
あの人を守れ
群がる強敵から
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
親衛隊が呼び出したんだ
乙女とあいつを守るようにして
たった一人で
あの子が囲まれている
呼ばれたから 行くね
負けないよ
一人で
たった一人で
明るいけど よく泣いて
笑って怒って短気なお前
恋人だったら勘弁な
凄く素敵な友達だけど
あいつはお前の
そこがいいって寄ってきた
なのにどうだ?
正反対の奴らの姫に
べったりご奉仕してるじゃないか
よく見れば
それすらまやかし
初めからか
いつからか
そんなの知らねえや
恋の細道 迷い道
大事な大事な親友を守れ
恋の荒海 崖っぷち
幾重にも松の生い茂る
逃げ場所のない崖端で
長槍大槍突きつけられて
囲まれて
震える脚を踏み締めて
閻魔の顔で仁王立
あの人と共に立ち向かえ
群がる強敵に
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
そうさ お前はそう言う奴だ
待ってろすぐに駆けつける
オンボロ槍を背中に背負って
荒海渡って来たからな
投げつけられた
矢の雨 礫 槍時雨
溢れて流れて降ってくる
頭の上から突き出した
オンボロ槍は
身体をひねれば良い得物
首を肩から振り回し
背負った槍のはみ出た先で
降りしきる必殺の雨を弾いて飛ばす
登り切って手をかけて
トンボを切って飛び出せば
途端に勝ち誇る敵どもは
浮気だ不義だと悪口雑言
あの人と共に立ち向かえ
群がる強敵に
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
手を出すな
巻き込んでごめん
来ないでいいよ
後ろ手に きりりと構える長槍は
姫の薙刀よりも気高くて
天に真っ直ぐ向かう穂先は
雨霰と降る敵の礫や槍先を
閃きくるり
ものともせず
何とまあ
お前は
美しい
女だったのだな
一の槍
松の影から卑怯なひと突き
彼がちょっと優しくしたからって
モテると勘違いしたんだねー
へなちょこめ
かるくいなして跳ね除ける
ニの槍
枝から飛び降り大仰なひと突き
彼はみんなに優しいの
なに調子にのってるんだか
片腹痛し
向かう槍の柄を軽々巻き取り
押し返す勢いで後ろの雑魚もバタバタ倒れる
勢いに乗り
お前は老松の地を這う幹に駆け上り
飛び上がり
松に隠れた卑劣な雑魚を
輝く穂先で切り裂いてゆく
あの人と共に立ち向かえ
群がる強敵に
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
恋の細道 迷い道
手出しはしないさ
流れ弾だけ
卑怯な奴らの罠だけな
お前はひとりで切り抜ける
気高く清く美しく
お前はホントにいい女
恋人なんかにゃしねぇけど
並び立ちたい強さだぜ
三の槍
つきまとわれて彼も迷惑してるんだよ
いい加減気づけよバーカ
効かぬわ
交わして踏み込み突き出す槍は
後ろに連なる者をも貫く
そのまま振って
横様に薙ぎ倒された親衛隊は
屍の山と成り果てる
四の槍を待たず
屍の山の上に立ち
槍先に刺さる毒蛾どもに足をかけ
引き抜く槍に上がる血飛沫
それはお前の心が流す血か
松の木に生える苔のまだらを
赤く熱く染め替えてゆく
屍を蹴り
乱立する幹の間に突き込む槍は
過たず敵を討つ
松葉を踏む乾いた音が
砕ける波の音に紛れて
惨烈な響きを撒き散らす
あの人と共に立ち向かえ
群がる強敵に
やつらは毒蛾
奴は灯火 みな焼けて死ぬ
恋の細道 迷い道
欺き嗤うあいつらを
駆け巡り飛び退り
枝葉の陰に潜んでは顕れ
舞うように翻弄する
鬼出電入とはこのことか
曲がった枝を掻い潜り
僅かな隙間を見逃さず
見事な縦の回転で
上下前後を薙ぎ払う
ごうと唸る槍の小気味よさ
そのまま飛び降り膝を曲げ
後ろの足には力をかけて
弾みをつけたら一直線に
あの人を見守れ
群がる強敵に
やつらは毒蛾
奴は灯火
燈心を切り飛ばせ
薙刀乙女を庇い立ち
丸腰男が正義面
貴様
涙も出ぬわ
優男を押し退けて
前に出る薙刀乙女
芯の強い大和撫子
優男は頬を染め
小石を握って投げてくる
柄を打ち絡めて斜めにいなし
峰と穂先が火花を散らす
やるなラスボス
おだまり売女
言うか毒婦が
なにさ醜女
終わりは呆気なく
幼馴染の血だらけの穂先が
真っ直ぐ妖婦の喉を裂く
獲るなら独りで狩りに来い
手足の雑魚に守られて
一人をなぶる浅ましさ
ああ、僕の武神はここにいた
その返り血も乾かぬうちに
毒婦と並ぶ男の喉元に
ひたと狙いは定まった
それが恋なら
私はいらぬ
初めから
あなたはそういう人だった
私の好みになるわけでなし
自慢の彼氏になってゆき
自慢してよと横目で催促
自慢の彼女を飾るでもなく
二人で歩む時は消え失せ
ひと突き
ふた突き
喉を突き
腹を突き
腿を突き
そいつはな
並ぶ時など無かったのさ
そいつの恋は陽炎の中
自分の作る灯火の
ゆらめく熱の向こう側
馬鹿な男よ
毒蛾の王よ
化かし合い
出し抜き合い
踏みつけて生きる物
あんたら
お似合いさ
僕はこいつを貰ってゆくよ
こいつの潔白
僕は知ってる
用意された浮気相手が
幼馴染の僕でなくても
僕は知ってる
こいつは気高く強く
苛烈に燃える
僕の武神だ
そこに倒れる優男
まだ薄笑いでこちらを見るか
浮気相手など用意せずとも
誘い寄せ付け
あるいは熱を送り出し
灯りに群がる物を焼く
そんな男はお呼びじゃないよ
私の隣に幼馴染が
私を武神と称えに来たから
照れ臭いやら嬉しいやら
あんたのくれた恋の睦言
それは私を焼いたけど
油注いだ女狐が
燃え上がらせた大火事で
あんたも芯が燃え尽きたなら
ただの燃え滓
影絵芝居は幕引きだ
私はそうね
槍を捨て
花でも抱えて行きますか
必要ならばまたいつか
武神の本性見せますが
血煙けぶる松林
夕陽が海を血に染める
私と並んで2人だけ
幼馴染の友達が
燃える闘気を内に秘め
血染めの私に微笑んだ
帰ろうぜ
帰ろうね
2人は親友だったけど
知らない顔を互いに見つけた
誰よりも
気高く強く逞しく
愛しく共に生きるもの
松林の枝がおどろに鳴って
屍踏み分け遠く遥かに
愛の山家を見つけに行こう
お読みくださりありがとうございます