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チェカの望み

「ある魔獣の特徴を持っている、魔法に対する親和性が高い、老化が遅い・寿命が長い、などの特徴を持つ人を魔人と言う。かつて魔人は様々な種族に分かれており、同族で特定の地域に住んでいることが多かったが、現在はその多くが混じり合い、ひとまとめに魔人とされていることが多い。今でも種族として独立しているのはーーーなんだこれ」


 そう言ってセドは分厚い本を机の上に投げ出した。


「基本社会まとめの4巻だよ。このシリーズ結構有名だと思うんだけど、知らないの?」


「これ自体は知ってっけど…4巻読んでるやつなんて同い年くらいのやつに全然いねーよ。だいたいこんなん勉強して役に立つのかよ」


「将来役に立つかもしれないでしょ。それに『教養』があるのは大事だってオルガンテが言ってたもん」


「…チェカはそればっかりだな。ここ数日だけでオルガンテ、オルガンテが言ったからって何回言ってるんだよ」


「も〜!なんなの、そんなこと言うならなんで着いてきたの!勉強の邪魔しないでよ!」


 ダンっと音を立てて立ち上がって鞄にバサバサと荷物を入れる。


「あっどこ行くんだよ!」


 聞いてくるセドの声にピシャリと答える。


「ご・は・ん!もう午後の一時じゃん!」


「俺もいく」


「…来ないでよ!友達とご飯食べる約束してるから!」


 そのままセドを置いて部屋を出て、中庭に向かう。あの日から2日後、いつも通り、教会に行って勉強しようと思ったらひょっこりとセドが現れて「この街案内してくれよ」って言ってきた。教会に勉強しにいくって言ったらわざわざ着いてきた。


 教会は20ミリア払えば好きに本を読んでいいし勉強も見てくれる。大体の子供は教会に通ってて、学校なんてお金持ちの人しか通わない。今日セドだって20ミリア払ってるはずなのに、真面目に勉強しない。


「珍しく怒ってる?」


 目の前に急に顔が出てきた。私より高い背に長いサラサラのうすい金髪。ちょっと特徴的な服。


「えっあ、サラハちゃん」


 サラハちゃんは私より一歳年上の友達だ。冒険者になる前から狩に慣れてたらしい。


「私がいること気づいてなかったの?ツカツカ歩いてるしわかりやすいよ、何があったの?ご飯食べながら話聞くよ」


 よっこらせ、とサラハちゃんが石段に座ってパンを出した。私もその隣に座ってご飯を広げた。


「…や、この前知り合った男の子がねーー」


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


 私の話を聞いて、サラハちゃんはピアスをいじりながら答えた。


「まぁ、チェカの気持ちはわかるよ。勉強は大事なのに邪魔されたんじゃ、たまったもんじゃない。でも一回注意して相手の返答を聞いたら?その子をその場に置いてきちゃったわけでしょ?」


「うん…まだ教会にいるかもしれないからこの後戻ってみる。それに今日会えなくっても依頼のことでまた会えるだろうし」


 ご飯の片付けをして立ち上がる。ちょっと話してたら落ち着いたし、セドに謝ろう。サラハちゃんにじゃあね、と言って教会の中に戻る。


 重い扉を開けて中を覗くと、セドが座ってるのが見えた。静か本を読んでる。


「…セド」


「おっチェカ」


 少し、いつも通りのセドの返事にホッとして隣の椅子に座った。


「何読んでるの?」


「何って、役に立つやつだよ!」


 本を覗き込んでみると、『初心者向け!~冒険者の鉄則~』って書いてあった。


「堅苦しい本ばっかなのかと思ったらいいもん置いてあるじゃんか」


 …セドは別に勉強を無駄だと思ってるんじゃなくて、私と「勉強」が違うだけなんだ。


「…さっきは、ごめん。酷いこと言ったかも」


「うぇ?なんのことだよ?」


「えっと、着いてこないで言ったり…」


「あ〜、あれ?気にしてねーから!俺こんな性格だしよくテキトーに扱われてっけど慣れてっから」


 ちょっとそれも良くない気がするけど、セドが気にしてなくって良かった。パタン、と本を閉じてセドはこっちを見た。


「俺は、親父を超えたいんだ。だからこーやって強くなるために頑張ってんだ。チェカは俺とは全然ちげー本読んでるから、将来そういう知識を使うやつになりてーのかなって。んで聞いたんだよ。そしたらチェカは『オルガンテが言うから』以外言わねーし。チェカ自身は何になりてーんだよ。一体どうしてーんだよ」


 ハッとして、思わずセドから目を逸らす。


「…自分の…なりたい…もの…」


 考えたことなかった。ただ、オルガンテが言うから、だけで今までやってきたのかもしれない。セドみたいにオルガンテを超えたい?ううん、きっと無理。ハイルさんやガイアスさんに憧れたことが無いわけじゃないけど、誰よりも強くなりたいとか思ったことないもん。こんな思いじゃBランクやAランクになれるわけがない。私は何になりたいんだろう。


「……たしは、何になりたい、とか、考えたことがなくって」


 考えがまとまらないまま、ポツポツと言葉を出す。セドは私をじっと見つめたまま何も言わない。


「ただ、オルガンテに迷惑かけたくなくって、期待に応えたいから言われたこと全部やってたんだと思う。教会に通ったらどうだ、って言われたら通って、冒険者になろう、って言われたらなって」


 私、自分でやりたいと思ったことをしたことはほとんど無いかもしれない。


「わかると思うけど、オルガンテは私の親じゃない。面倒は見てくれてるけど、義理の親ですらない。親代わりに育ててくれるとも言ってない」


 だから、ギルドで冒険者登録する時もオルガンテに聞いた。「オルガンテは私の保護者だよね?」って。オルガンテも「そうなんじゃないか?」としか答えなかった。


「そんなことない、って分かってるんだけど、心のどこかでちょっと怖いんだと思う。私を育ててくれる理由なんてオルガンテにはないし、いつか、ふとしたきっかけで、捨てられちゃうんじゃないかなって…。それは、多分これからも変わらないと思う」


「ふーん…。じゃ、チェカが今やりたいことは?言われたこと以外ならちっせーことでもいいぜ?」


 やりたいこと…そうだ、この前、悔しかった。自分で受けた依頼が自分で達成できなくって。


「私、ヴァッケ草の依頼、自分でやりたいな」


 私は今度はしっかりとセドを見て応えることができた。


「ぐーぜんだな、俺も!じゃあ出来なかった競争しようぜ!野犬に負けねーくらい強くなって親父とオルガンテの依頼についてってやろう!」


 セドがにっと笑った。なんだか私にはないセドの明るさが、強さが羨ましかった。

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