野犬
木の下でひたすらヴァッケ草を見つけて、採る。
(あ、あっちにもある…しかも、ちょっと大きい)
…少し森に入ったところにあるヴァッケ草、ちょっとくらいなら大丈夫かな。少し離れたところにはセドがいるし、向こうにはオルガンテとロドさんもいる。
一歩森に入った瞬間に温度が下がった気がした。
(涼しい…)
いろんな音が聞こえてくる。鳥の音、葉っぱの音、風の音。地面に生えてるヴァッケ草をどんどん採っていく。ふと顔を上げたら、小さな泉があった。水は透明で、光にあたってキラキラしてる。周りには大きめのヴァッケ草がいっぱい生えてた。
この量をきっと採ったら依頼を達成できる。夢中になって採ってると、サク、と草を踏む音が聞こえたから、
「この辺りにいっぱいヴァッケ草が生えてるからセドも手伝って」
と言った。でも、しばらくしても返事が返ってこない。代わりに聞こえてきたのは、グルルルルゥゥ、という低いうなり声だった。
「えっ!?」
「チェカッ!」
声が聞こえたと同時にセドが私と獣の間に割り込んで来た。そしてナイフを取り出して獣に向ける。
「来るなよ!このケダモノ!」
ブンブンとナイフを振り回すけど獣は気にせずジリジリと近づいてくる。あと数歩のところで止まり、グッと身を低くした。
(飛びかかってくる…!!)
ぎゅっと目をつぶる。セドが、前にいるのに、オルガンテにもらったナイフがあるのに、どこにも怪我してないのに…怖くて体が動かない。
(助けて…オルガンテ!!)
ーーチャリ。
「助けに来たぞ」
ふわり、と布で包み込まれた感覚がした。上を見ると見慣れた、安心できる顔。
「オルガンテ!!」
「やぁチェカ、セド」
「うぇっ!?いつのまにか俺木の上に!?てか…えーと…オルガンテ、さん?」
「オルガンテでいいぞ」
下を見ると獣は私たちの場所が分かってないのかウロウロしてる。
「ただの野犬だ。脅かせばすぐに逃げる」
オルガンテの手に握られたナイフの周りに綺麗な魔法陣が広がる。シュッと投げられたナイフは野犬の目の前の地面に刺さった瞬間、ボッと炎を出した。
野犬はびっくりして反対側に逃げていった。
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「ーーってことがあったんだよ親父!…ってなんだよその鳥」
「あ、いやこれはオルガンテさんに頼まれて」
草原の上で待ってたロドさんの手にはなんでか鳥が握られていた。あのあと、オルガンテが私とセドを木から降ろしてくれて、3人一緒にロドさんのところに戻ってきた。セドがロドさんにさっきあったことを話してるのをオルガンテと私は一緒に見てた。
(…あれ、オルガンテ、笑い方が…)
さっきまでよくそこら辺の人と話してる時の表情だったのに、今はアパートの人と話してる時みたいな表情。
「まさか森のそんな浅いとこに野犬が出るのかぁ」
「この森はレイガの森という狼系の魔獣が多く居る森に繋がっている。最近は牙狼が活発になっているというニュースを聞いた。その影響かもな」
「牙狼ですか…1匹くらいならなんとかなるでしょうが群れると逃げるしかないですねぇ。いや、オルガンテさんなら大丈夫でしょうが…」
「まぁ、そろそろ何かしらの対策が出るだろう。ルージョ草の依頼達成の時に今回のことも報告しておくか。ここらは魔獣である牙狼よりも弱い野犬にすら対処できないGランクやFランクの冒険者も来る。ギルドは怪我人・死者なんて出したくないだろうしな」
「えっ俺達の受けた依頼はどうなるんだよ!!」
オルガンテとロドさんが話にセドが口を挟んだ。
「常にある薬草採取系の依頼は大抵二週間まで有効だ。今日は戻ってまた出直すしかねぇな。依頼を複数人で受けた場合は代表者が依頼完了を証明すりゃあいいからロドとチェカちゃんには待ってもらうか。それでいいですか、オルガンテさん」
「依頼遂行は基本的にはそれでいいが、依頼完了の手続き自体はやらせたい。ああそうだ、一つ提案があるんだが……」
…私が受けた初めての依頼、自分で出来ないの?ちゃんとルージョ草とヴァッケ草の依頼、終わらせたかった。悔しい。私が野犬を追い払えるくらい強くなったらいいのかな。
ルージョ草の依頼達成の報告をしてセドとロドさんと別れて、家に帰ってきた。いつもは夜ご飯の時間になるまで本を読んだり勉強したりするけど、ベッドにぼすんと飛び込んで、オルガンテが呼びにくるまでそのままでいた。




