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記録者オルガンテ

 ロドはちらり、と横を見た。前まではよく噂を聞いたBランク冒険者、オルガンテだ。ありえないレベルの正確な魔法の狙いによる超遠距離攻撃や、とてつもない種類の魔法の行使、複数の魔法の同時使用や器用な魔法の組み合わせで有名だ。姿も知られているため一目見てすぐにオルガンテだと分かった。この街にいるとは知っていたがかなり大きい街なので、セドはよもや街に来て数日で会うとは思っていなかった。出会いは少しばつの悪いものではあったが。


 彼は割と人気がある。困っていたら自分に利がなくとも助けてくれることも多々あり、他者と壁を作ることもなく、親しまれている。前までは仕事柄か世界各地を旅していたが、ここ10年はずっと拠点のこの街にいる。


 冒険者と言っても様々な職業がある。昔は文字通り冒険する者の総称だったらしいが、今は細分化したというか、幅広くなったというか、薬師や武器職人まで冒険者に含まれるようになった。冒険者カードは特別な技術によって作られているため、街で戦いと無縁の暮らしている者も冒険者カードを身分証として使っている場合も多く、結果として戸籍のような役割も担っている。


「…あのぅ、冒険者カードを見せてもらうことって可能ですか?」


 ロドがそう言うと、オルガンテはローブの内側から冒険者カードを取り、ぽいっとロドに向かって投げた。


「うわっちょっ!…おお!すげえ!赤い!」


 冒険者カードは自身の情報が書かれているため他人に見せたくない人もいる。ロドはダメ元で頼んだのだが、あっさりと渡された高位ランクのカードに興奮した。オルガンテはその様子に少し苦笑しながら聞き返した。


「事前に知っていただろう。そういうロドはどうなんだ」


「いやあ自分はもう20年以上冒険者をやっていますがね、Dランク止まりですよ。セドがガキのうちは今やってることを続けると思いますが、あいつが大人になったら別の職業でも始めますかねぇ」


 話しつつ、ロドはオルガンテのカードを観察した。Bランク冒険者カード特有の映える赤。下部には穴が二つ。オルガンテのカードは至ってシンプルだった。


ランク:B

年齢:

種族:


 空白だらけだ。まぁ、純粋な人間な方が少ないくらいの世の中且つBランクなのだから自分よりも年上なのだろうな、とロドは思った。くるりと裏返しにすると、職業やポジション、資格など別の情報が書いてある。


「本当に職業が記録者なんですねぇ、初めて見ました!」


「ランク制限もあるし、物好きしかやらないからな」


 記録者というのは、Cランク以上しかなれないという珍しい職業だ。その内容は世界中の未知のものを観察して記録したり、時には持ち帰るというものだが、危険な魔物がいたり扱いが難しい植物などもあり、実力と知識の両方が求められる。そのための試験もあるし、収入は高いが割に合わない仕事だ。


「知り、記すのは俺にとって重要なことなんだ。今はその関係で図書館で仕事をしているんだ。別に金はあるんだが、傍目から見れば俺は本の虫、ってやつらしい」


「ほう。…自分には親がいなかったので手っ取り早く稼げる冒険者になったんですよ。最初はもう少し安全な職をやろうとしましたが、詐欺られたりいろいろあって結局信じるのは自分だけでいいこれが一番あってたみたいで」


 少し遠くにいるセドとチェカを見やりながら、ロドは続けた。


「自分はこの生き方しか知らねぇし、嫁は死んじまったし、セドには世界を見て欲しかったんで、まぁ今はゆる〜く旅してますね!ここで貴方にあえてよかったです。貴重な体験が出来ましたよ」


 少し長く喋りすぎたか、とオルガンテを見ると、先ほどまでのロドのようにチェカとセドを眺めていた。


「…アイリーンは、リトがない、と言っていたな」


「え、リト?」


 リト、と言われるとちょっと高い美味しい鳥が思い浮かぶ。奴らは大抵の居場所に生息するくせに取るのが難しい鳥だ。オルガンテは立ち上がってどこからか小さなナイフを取り出した。


「上だ」


 オルガンテに言われてロドが見上げると、空に鳥のシルエットがある。種類はこの距離から全く分からないが、オルガンテが言うならばリトなのだろうか。


「…良いことを聞かせてもらった礼だよ」


 え、とロドが声を上げる間もなくナイフの周りに一瞬で魔法陣が展開された。


 複雑に、正確に、素早く、どこまでも精緻な魔法陣は美しい。オルガンテが予備動作なく、ほのかに光る魔法陣に囲まれたナイフを天に投げる。

ナイフは鳥に刺さり、鳥ごと落ちてきた。鳥は、確かにリトだった。


(すげぇ……あの高さにいる鳥をこうも簡単に…それになんつー魔法陣だ。何人もの魔法使いを見てきたが、こんな綺麗な魔法陣は初めてだ)


 ロドは何故オルガンテが「美しい魔法使い」と称されるのか分かった気がした。美しいは魔法使いにかかっていると言う人もいるが、本当は魔法にかかっていたのだと。いや、両方にかかっているのかもしれない。それほど魔法を使うオルガンテはこの世のものと思えないほど美しく見えた。


「使った魔法はなんですか?自分は簡単な魔法くらいしか使えなくて…」


「まずは武器強化だろ?それに重力無効化、空気抵抗無効化、標的追尾に加速、あとはちょっとした調整魔法だよ」


「ぎ、技術の無駄遣いだ…普通そんなたくさんの魔法を組み合わせられませんよ…」


「さて、ロドはこのリトの処理でもして待っててくれ。チェカとセドのところに行ってくる」


「え?ああはい…」


 いつのまにかセドとチェカの姿は見えなくなっており、オルガンテは森の方に向かって歩き出した。

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