冒険者登録
ピピピピピピピピ……!
…この音は好きじゃない。毎日のように私を起こす音だ。だんだん意識がはっきりしてくる。でも、そうだ、今日はーー
「冒険者になる日だっ!!」
バッと起き上がる。隣のベッドは綺麗に片付けられてる。いつもよりも早めに目覚まし時計を設定してたけどやっぱりオルガンテは私より早く起きてた。
バシャバシャと顔を洗い、簡単に髪をとかす。寝巻きからとりあえず部屋着に着替えて一階に駆け降りる。
「やぁ、おはようチェカ。元気なのは良いけど怪我をしないように気をつけてな」
一階ではオルガンテがいくつかの目玉焼きとベーコンを焼いていた。リビングを覗くと2人の冒険者がテレビを見たり新聞を読んだりしてるのが見えた。いつもよりも人数が少ない。時間が早いからなのかもしれないけど大体私より早起きの人もいない。昨日の夜はあんなに騒がしかったのに今日の朝は変わってとっても静かだ。
「いつもこの時間に起きてる連中もまだ寝てるよ。こいつらはいつも通り起きてるけどな」
オルガンテはいつも私の考えてることが分かるみたいだ。よく疑問に思ったことを聞かなくても答えてくれる。
「僕はゲコであんまり飲まなかったから普段とほぼ変わらないし、シャスエルは几帳面で生活習慣がしっかりしてるからね」
そう言ってテレビを見ている冒険者、メルケキは笑った。シャスエルはじーっと新聞を見てるままだ。
「いつも思ってたんだけど、ゲコって何?」
「お酒が飲めない人のことだよ。苦手っていうのかなぁ…うーん。結構困るんだよね。付き合いとかの問題もあって」
チン!とトーストができた音がした。
「悪いな、いつもより簡単で」
「人数少ないし今日は君も用事あるでしょ、気にしないで」
4人でテーブルにつく。シャスエルはようやく新聞を置いて黙々とパンを食べ始めた。
「…メルケキ、リモコンよこせ」
「え〜?どうせ君ニュース見るだろ?つまらないよ〜」
「お前はいつもダラダラとテレビを見ているだろう。ならば有意義に使わせろ」
「みんなのテレビだからオルガンテとチェカに聞けば〜?僕はニュースやだよ。今見てる番組よりもつまらなくなるじゃん」
今ついている番組はよくある大喜利番組だ。私はどっちが好きとかないけど…。
「ニュースにしよう。朝はニュースの方がいいよ」
「ちぇっ、オルガンテ、君もかい?」
「俺はなんでもいいぜ。だけど…メルケキとチェカならチェカの意見に賛成する」
「卑怯だ!オルガンテはチェカに甘々だ!僕に勝ち目ないじゃないかっ…!」
「一テレビ番組くらいで大袈裟に反応するなよ…」
そうオルガンテとメルケキが話している間にシャスエルはいつのまにかリモコンを手に持って番組を変えてた。
「ーーーそれでは今日の天気と魔獣警戒地域の時間です」
テレビにパッと地図が映し出される。
「今日はほとんどの地域でよく晴れるでしょう。ただ、イェンガでは雲が出てくるかも。雨が降る確率は低いです。レイガの森では牙狼が頻繁に目撃されています。普段以上に警戒するのが良いでしょう。アラフの森ですがーーー」
冒険者になったらこういう情報聞いとかなきゃだな。今日から少しづつ変えていこう。やがて食べ終わって私は自分の部屋に戻った。歯磨きをしているとオルガンテも戻ってきた。クローゼットを開けて、考える。
「オルガンテ、どんな服がいいと思う?」
動きやすそうな服を3着選んでベッドの上に並べる。オルガンテは服を全く見ないで
「赤とか派手な色はやめた方がいい。冒険者の中にいると悪目立ちする。茶色、黒あたりが無難だな。まぁ茶色でいいんじゃないか?黒い服は熱を溜めやすくて熱い」
と答えた。
結局茶色のTシャツに暗い緑のハーフパンツを着て、鞄の中に水筒と上着を入れる。それからちょっとしたお菓子やお財布も。
一階に行くといつのまにかオルガンテが玄関にいた。
「準備できたか?」
オルガンテは壁にかかってるボードの外出中のところに私とオルガンテの名前を書いた。
「うん」
「じゃ、ギルドに行くぞ」
ガチャリと自分でドアを開ける。いつもは、オルガンテが開けてくれてるけど自分でこれから開けよう。普通のお家からしたらちょっと…いや、かなり距離のある庭?を通って門を開ける。
これから、私は冒険者になれるんだーーー!
◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆
「それではこちらの用紙に記入をお願いします。代筆は…必要ないですよね」
「はい。ありがとうございますレタカさん」
受付嬢のレタカさんからペンを貰って紙に書く。書くことはちょっとしかないけど。名前といろんな同意書?ってやつとかだけ。私はまだ子供だから、いれば保護者の名前を書くらしい。
「オルガンテは私の保護者、だよね?」
「…そうなんじゃないか?まぁ俺の名前なんて悪いことに使わなければ何にでも使っていいぞ」
「ありがと」
オルガンテの名前を書いて、一回ちゃんと全部書けてるか確認してレタカさんに渡す。
「ご記入ありがとうございます。冒険者証を発行するのでしばらくお待ちください」
そう言ってレタカさんは見えないところに行っちゃった。はじめての依頼、て言ったら薬草採取ってイメージがある。普段から薬草の本は読んでるし、取れそうな薬草の依頼を探してこよう、と思って依頼の紙がたくさん貼ってあるボードに向かう。時々見てるから見方は分かる。左側の下が一番簡単なやつ。
「ルージョ草…10本1束で50メル…」
「何見てるんだ?」
ひょっこりとオルガンテがのぞいてきた。
「や、どれ受けたらいいのかなって」
「気が早いな。まぁ先に決めといて損はほぼ無いけど」
「…気が…早い?そうかな?」
「ああ、だって今日は依頼受けないだろ?」
「…ええええーーーっっ!」
びっくりし過ぎて叫んじゃった。オルガンテに口を押さえられる。
「いくら冒険者ギルドで人が少ない時間帯だからといってうるさくしてはいけないぞ」
「や…ごめんびっくりして…今日は受けられないの?」
「装備がないからな。ピクニックとは違う」
「でも服ちゃんとしてるしオルガンテが選んでくれたし、水筒とかもお金もあるし…」
「装備がないのを分かってない。まず知ることからだ。服は…そうだな、冒険者になるってのに冒険者らしくない格好は良くないだろ?少しでも冒険者らしい格好の方がいいじゃないか」
「…言ってくれたらよかったのに…」
「はは、悪い悪い。さて、そろそろカードが出来るだろ。一番下のランクはカードと言うほどでもない」
カウンターを見ればレタカさんが戻ってきててこっちを見てた。
「わ、すみません」
「…どうぞ」
渡してくれたカードを見る。普通の紙が簡単に壊れないように加工されてる。
ランク:G
年齢:8
種族:人間
裏側には職業欄らその他の欄があるけどそれは空白だ。
「…あんまり冒険者って感じしないな…屋敷のみんなはカッコいいデザインだもん」
「初めはそんなもんさ。強くなければ其れ相応になる」
「……」
「まだ依頼すら受けてないんだぜ。今日は受けられないけど武器とかを買うんだ。そんな肩透かし食らったみたいな顔すんなよ…」
「うん。じゃ、レタカさん、ありがとうございました。これからよろしくお願いします」
「…チェカさん、人が少ない時間帯且つ冒険者登録なので今回は私が対応させて頂きましたが、私は普段高ランクの依頼受付などを行なっております。普段オルガンテ様とお話をさせて頂いておりますがそれはオルガンテ様がBランクという極めて高いランクを所持して居られるからです。貴方様一人では私が対応させて頂くことはないかと思われます」
「え…はい」
受付嬢の中では割と知ってるレタカさんに色々してもらいたかったけど、これもしょうがない、のか。
「それでは、私が貴方様の対応をさせて頂く日を心待ちにしております」
レタカさんはそう言って頭を下げた。
「ありがとうございます。頑張ります」
軽く手を振りながらギルドを出た。