冒険者たち
みんなが私を暖かく出迎えてくれた。普段は忙しくていない人たちまでリビングに集まって騒いでる。
テーブルにはいっぱい料理が並んである。部屋の壁や窓には飾り付けがされていて、みんなも華やかな服を着てる。その中の1人が私に近づいてきた。
「おめでとう!チェカ!」
「ハイルさん!」
ハイルさんは数少ない女性冒険者の中でもSランクという強いランクまで行ったすごい人だ。鮮やかな黄緑色の髪は軽くウェーブがかかっていて赤とピンクの髪飾りとよく合ってる。手には王冠とティアラが合体したようなものが握られている。
「チェカは今日の主役だもんね!これ、みんなで作ったんだよ!」
「ありがとう…!」
ハイルさんがそれを私にかぶせてくれようとした時、心地良い声が私を呼んだ。
「チェカ、それを被る前においで」
オルガンテが私に優しく手招きをする。椅子を引いてくれたのでそこに座ると、簡単に結われていた私の髪をほどき、結び直してくれた。オルガンテは時々髪を結んでくれる。私が自分で結んでなかったころは毎日のように結んでくれてた。一瞬でさっさと綺麗に結んでくれる。こんなに綺麗に結べる男の人は少ないって前にハイルさんが言ってた。
「ほら、できたぞ」
「どんな感じなの?」
「それは王冠を被ってから鏡で見た方が素敵だと思うぜ」
オルガンテがそう言ったしハイルさんはワクワクとした目で見てくるので、ハイルさんのところに行って王冠をかぶせてもらう。そしてすぐそこにある大きめの鏡の前に立つ。
「わあっ…!」
オルガンテが私の髪を結ぶのにかけた時間はほんのちょっとなのに髪は複雑に編み込まれていて、全体的にふんわりとしている。ハイルさんが被せてくれた王冠は銀色で繊細でいっぱい飾りが付いてる。まるで絵本に出てくる王女様みたい。
「ほら本日の主役!さっさと席に座れよ!!」
後ろを振り向くともうみんなはテーブルの席に座っていた。テーブルの上の料理をもう取ってる人もいる。「なんだ、お前ら祝うよりうまいもん食いたいだけだろ」とオルガンテに笑われている。
テーブルの縦のところにある普段はない一つしかない席に座る。
「チェカ、改めて8歳の誕生日おめでとう!」
「「「おめでとうっ!!!」」」
「ありがとう!」
「オラ飲むぞーー!」「飲み過ぎんなよ、明日依頼があるんだろ」「アタシは明日休みだから一晩中付き合えよ!いや明日の朝まで付き合え!!」「おいおい、無駄に散らかしたりするなよ」
とたんにみんなガヤガヤお酒を飲んだり話始めたりした。この騒がしさは、好き。私の家って感じがして。時々ある程度の人数がいるとみんな夜ご飯でお酒を飲み始める。私が小さい頃からそうだから懐かしい感じがするのかな。酔っ払った人はめんどくさいから嫌いだけど。
美味しいご飯をいっぱい食べて、オルガンテやハイルさん、みんなとお話しして。普段は起きてない時間まで起きてたせいもあって、私はいつの間にか寝てしまった。
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カチ、コチ、カチ、コチ。
「…オルガンテ」
大柄な男が声をかけると寝ているように見えたオルガンテは顔を上げた。
「もう3時だろ。チェカを部屋に戻してやったらどうだ」
「ん…そうだな。ありがとう、ガイアス」
オルガンテに声をかけたのはガイアスというSランク冒険者の男だ。戦闘と食事を非常に好んでおり、チェカに席に着くように促したのもこの男だった。
「あれ〜?オルガンテ、ガイアスゥゥ〜?何話してんの〜??」
のそり、とテーブルの下から這いずって出てきたのはハイル。
「ハイルが途中で起きるなんて珍しいな」
「そうだな、酒飲んでから寝たらなかなか起きねーのに」
ハイルは「2人ともひどーーい!」と言いつつも立ち上がりオルガンテの真正面の席についた。
「はぁ…。チェカももう8歳なのねぇ。時が経つのって早いわねぇ」
「お前の時間が遅いんじゃねぇのか?」
「ふふ、ハイルの時間は人間よりも長いからな」
「まぁね…。やっぱり人間と魔人は感覚のズレがあって微妙に分かり合えないのよねぇ〜。…それで」
ハイルは真面目な顔をしてオルガンテに尋ねた。
「ーー本当にチェカを冒険者にするの?」
「勿論。何か悪いか?逆に冒険者じゃない人の方が少ないぜ。身分証にもなるしあると色々な場所に行けて便利じゃないか」
「それは名前だけの冒険者でしょ。オルガンテは…チェカを本当の意味での冒険者にするつもりなんでしょ。こんな…高位ランク冒険者に囲まれて生活して冒険者になったら、私たちのような冒険者を目指すのは想像に難くないわ」
「チェカが平和に暮らしたい、って言うなら強制はしないさ。ただ俺はチェカに冒険して欲しいんだ」
「ハイルが聞いてんのはもっと根本的な理由だろ?オルガンテはチェカを可愛がってんのに何で危険な道に進ませてーのか…」
「チェカとオルガンテの出会いすら知らない私たちが意見するのはズレてるかもしれないけど、一緒に暮らしてるんだから理由くらい聞いてもいいじゃない。ガイアスは普段滅多に屋敷にいないからその権利もないかもしれないけど」
ガイアスが「なっ!」と絶句したのを尻目に、オルガンテはどのように説明すべきか考えた。
「…約束したんだ。あの子の母親と。あの子の母親は世界を知らなかった。本当に狭い範囲でしか知らなかった。だから…自分の子供には広い世界を見て欲しいんだと」
かなり抽象的な回答だったがハイルは「ふぅん」と満足したようで、「自分の部屋に戻る!」と言って階段に向かっていった。
「…俺もチェカを連れて自分の部屋に戻る。じゃあ、あとは頼んだぞガイアス」
「えっ!俺かよぉ!」
「ふふ、お前以外に誰がいるんだよ。明日依頼があるやつも居るんだから4時、5時くらいには起こしとけよ。じゃあな、もうそんな時間でもないけど…良い夜を」
そう言ってオルガンテはチェカを抱きかかえ床の冒険者達を避けながらガイアスの視界から消えた。
酔い潰れた大量の冒険者達。程度を弁えるものや酔いにくい者はとっくに自室に戻っている。
後には床に転がった冒険者達と絶望した顔のガイアスだけが残った。