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いざない

 いつも薬草をとっている広場より少し先に茂みがたくさんある場所に来た。お姉ちゃんは荷物の中からスコップを取り出して穴を掘り始めた。そして穴の上に板を置き、土をかぶせる。


「あとはこれを上に置いて、待つだけ!」


 そう言ってフィッツィお姉ちゃんは美味しそうなフルーツをおいた。


「…兎に対しては罠がいいと思うんだけど、罠はダメなの?」


 サラハちゃんは兎も狩ったことがあるって言ってたから不思議なんだろう。


 「ルドピーは縄くらい千切っちゃうからねー。多少は拘束できるけど足止めにしか何ないのよ。奴ら自分が強いと思ってウサギの警戒心ないからダイジョーブダイジョーブ」


「じゃあ、縄はなに使うの?」


「足止めと合図よ。縄に鈴つけて置いたらすぐわかるもの。近くで見張っときましょ」


 人数分の仕掛けを作って、あとはひたすら木の影から待った。私はフィッツィお姉ちゃんと。それはもうのーんびりと。お菓子を食べちゃうくらい。


 チリンチリン


「来たね」


 慌てて立ち上がれば確かに大きな白いウサギがいた。縄が邪魔だから地面に逃げようとしてるけど、下は板になってるから穴が掘れてない。


「相変わらずバカなウサギ」


 隣を見ればもうフィッツィお姉ちゃんはいなくなっていた。


「ほーら捕まえた」


 地面はモコモコになっているのに、お姉ちゃんは靴もなしに動けている。


 チリンチリン


「あっ向こうもいる!チェカの番だよ!」


 急いで音が鳴った方に走る。ええと、ええと、どうしよう。考えがまとまらないままルドピーを抱き抱えようと飛び込む。


「あう」


 顔に思いっきりキックをくらってしまった。おまけに地面がふかふかなせいで体がはまってうまく動けない。かろうじて掴んでいた耳もするりと手から抜けてしまう。


「あー惜しいねぇ」


 目の前が明るくなった。私が捕まえようとしてたルドピーはフィッツィお姉ちゃんの手の中でジタバタとしていた。


「ま、せっかくだし自分で血抜き処理やってみ」


 「キッ」と声を上げるといっしゅんでルドピーは動かなくなった。何度も本で読んだことはあるけど、やるの初めて。ナイフを持って、ゆっくりと突きさす。


「そうそう、で、逆さまにして…うん、こんなもんっしょ!しばらく待ったら終わりだよー」


 …ナイフを入れた時の感触が、まだ手に残ってる。


「…手、洗ってくるね」


 近くにある川でいつもよりずっと、ずっと長く手を洗った。バシャバシャ。バシャバシャ。


「チェカー?みんなも戻ってきたよー」


 フィッツィお姉ちゃんの呼び声が聞こえて、しばらく手を見ずにつけた後にようやく戻った。私が殺したわけじゃないし、別に今までも屋敷に出た虫とか殺したことあるのに…。心の中にふわふわとした重いものが広がって消えないみたい。


「さーて、キレイに5匹取れたね。薬草採取よりずっとお金が稼げるよー」


 サラハちゃんたちとロドさんのルドピーは綺麗だけど、セドのルドピーはなんだか毛がおかしいところがあるし、血がついてる。きっと取っ組み合いをしたんだろうな…。そのあとルドピーは逆さまにしたままみんなでご飯を食べた。みんなと話しながら食べてるとだんだんもにゃもにゃは消えていった。食べ終わったお姉ちゃんは立ち上がってみんなを見渡してこう言った。


「あっそうだ!報酬金だけど、私以外の四人で割っていいよ」


「え、いんですかい?企画したのはフィッツィさんで、餌とかももってもらってますが…」


「いーのいーの!これくらいほら、私はBランクだから」


 フィッツィお姉ちゃんは首から下げてるまぶしい赤色のカードを見せた。しばらくロドさん(とサラハちゃん)はお金について話し合ってたけど、フィッツィお姉ちゃんに結局押し切られてしまった。


「よし、じゃあこれを四人で分けてねー。夏季休業期間中は大体こっちにいるから、困ったらいつでも呼んでね」


 セドとロドさんはいつのまにかもらったお金を手にぽかんとしたまま、「お、おう…」と返事をした。サラハちゃんは小さくため息をついて、「じゃ、私帰ります。今日はありがとうございました」というとギルドを後にした。


「俺たちも帰るか…Dランクっすけど、人手が足りない時とかあったら行くんで」


「ありがとうございやした」「あざっす」と、二人もギルドの扉を開けて帰って行った。フィッツィお姉ちゃんは二人に向けて手をひらひら振っていたが、姿が見えなくなるとくるりと私の方を向いてにやっと笑う。


「…チェカ、私はもう一つ依頼を受けようと思ってるんだけど、連れて行ってあげようか」


「オルガンテに言ってない。きっと心配する」


「だいじょーぶだいじょーぶ!そんな時間がかからないやつを選ぶから!これも経験!近くの依頼なんてちょちょいのちょいだよ」


「うーん、じゃあギルドで待ってようかな」


 ギルドでもあんまり一人になるなって言われてるけど、冒険者になってから知り合いも増えたし、大体の人はオルガンテのことを知ってる。時間もかからないならフィッツィお姉ちゃんを待って一緒に帰ろう。


「えー、せっかくの機会だよ?オルガンテは慎重すぎるよ!だって…


チェカは人間でしょ?」


 …。


「魔人のオルガンテはゆっくりチェカを育てるつもりなんだろうけど、オルガンテの一年とチェカの一年は違う…。彼はきっと、安全な依頼しか受けさせない。ね、みんなみたいな冒険者に少しでも近づきたいなら、これは絶好の機会だよ。安全に依頼を見学できるんだよ?」


「…どんな依頼なの?」


 フィッツィお姉ちゃんは肩に下げてるポーチから依頼票を取り出した。


「これ!森の調査依頼。魔物と会っても戦闘は多分ないよ。見たことを報告して帰ってくるだけ!」


「じゃあ、じゃあ…ついていこうかな」


 小さな声でそういうと、フィッツィお姉ちゃんは笑顔で「受付してくるねっ!」と言った。今日は高ランクの方にレタカさんがいる。レタカさんはたぶんレベル差が大きいからちょっと変な顔をしたけど、いつも通り「健闘を祈っております」と頭を下げた。


「さて、いっちょやりますか」


「この森の調査って何をするの?」


 フィッツィお姉ちゃんはひらりと依頼票を裏返した。


「ギルドから、Cランクの依頼だね。野犬と牙狼の生息地域がどれくらいズレてるか、できたら原因も。戦闘は避けていいってさ」


「野犬…そういえば、オルガンテも森がおかしいから近づくなって言ってた」


 野犬は森から出てないみたいだから私たちは薬草採取が出来てるけど、普段森で依頼をしてる人たちは森に行かないことにした人もいて、なんだか文句を言ってた。


「チェカ、久しぶりにおんぶしよっか。私が走ったほうが早い」


 フィッツィお姉ちゃんがしゃがんだので、その背中に乗る。ああ、久しぶりだなぁ。目線が高くて少し怖い。前はこんなふうに思わなかった気がする。


「しっかり捕まっててね」


 足を踏み出した瞬間、景色がすごい速さで進んだ。


「ぎゃーー!速い速い!」


「あははははっ!いいでしょっ!この風が当たる感じサイコー!」


 広場を通り、雑木林を抜け、見たことのない森が広がる。光が届かない、涼しい森だ。前野犬に会ったところよりずっと奥。


「ここら辺からかなー。おろすね」


 フィッツィお姉ちゃんがしゃがんでくれたので地面に足をつける。


「うわー、本当に牙狼の匂いがする。前はそんなことなかったのに…。とりあえずレイガの森から3キロ離れてても牙狼がいるんだね。狼系は縄張り意識が強いからこんなことないのに…」


 私もすんすん嗅いでみたけどなにも分からない…。


「レイガの森に入るしかないか。行けば何かわかるっしょ」


「さらに奥?」


「うん、野犬が広場近くに出た原因が森に牙狼が来ていたみたいに、牙狼が出てきた原因もレイガの森にあると思うんだよねー」


 フィッツィお姉ちゃんは私に答えながら、首のチョーカーを外した。頭の上の方がぼんやりとひかり、やがて三角になった。光はパッとはじけて、そこにあったのは髪と同じ色をした耳だった。ピコピコと動かして、音を聞いてるみたい。


「あー、やっぱり臭いだけじゃなくて本体もいるねー。やっぱり慎重に行くしかないかぁ。チェカ、私から離れないでね。遠くでも匂いで気づかれるかも」


「ほ、本当に大丈夫なんだよね…」


「風下にいれば大丈夫だし、いざとなったら私がおぶって全速力で逃げるよ」


 フィッツィお姉ちゃんはポーチから時計を取り出した。


「今何時?オルガンテに心配かける前に帰れる?」


「もー、大丈夫だって!まだ2時半だよ!レイガの森に行くのに1時間もかからないし、調査の時間に往復の時間を足してもあの人が屋敷に帰ってくる6、7時までには帰れる。それにちょっと遅れても私と買い物したって言い訳すればオールオッケー!」


 にっと笑ったフィッツィお姉ちゃんの手を取り、レイガの森に向き直った。

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