ルドピー狩の準備
「オルガンテ」
「何だ?チェカ」
最近オルガンテは屋敷にいない時間が増えた…気がする。私もお昼からいないし、朝ごはんと夜ご飯、そのあとくらいしか会ってない。だから、寝る前の時間で一応言っておかなくちゃ。
「今度、フィッツィお姉ちゃんとルドピーを狩に行っていい?」
オルガンテは大きく眉毛を動かした。
「ルドピー?兎とはいえ、魔物じゃないか」
「フィッツィお姉ちゃんと一緒にやれば私たちGランクでも受けられるって」
「だが…」
オルガンテは迷ったように言葉を切ると少しの間黙った。
「チェカ、約束は覚えているな」
約束、ええっと、
「危なくなったらこの笛を吹く、だっけ」
いつも首からかけている白い笛を取り出して見せると、オルガンテは満足げにうなずいた。
「よし、しっかり持っているな。それからロドにも知らせて一緒についてきてもらえ。ロドはフィッツィのことを何も知らないし、一緒にいた方が安心だろう」
「うん、分かった」
オルガンテから許可をもらった翌日、セドの家に向かう。結局、セドとロドさんはギルドからまぁまぁ近くの貸し屋に住み始めた。つまり屋敷からも歩いていける。
木製のドアをノックする。
コンコン
「セド、ロドさん?」
しばらく待った後、取ってつけの悪いドアがガラガラと音を立てて開いた。
「おう、チェカちゃんじゃねぇか。ちょっと待ってな、おーい、セド!」
ロドさんの後ろにはセドも見える。
「あ、いや、ロドさんにも関係ある話です」
「?」
私はフィッツィというBランクの人が帰ってきたこと、ルドピーをセドたちと狩に行くこと、ロドさんも一緒に来て欲しいことを伝えた。
「なるほど、ルドピーか。俺もDランクだからな、結構狩ったことがあるぜ。役に立てるかもしれねぇ。あと、セドがそのフィッツィ、って人に迷惑かけないか見張るとするか」
「はあっ!?」
セドは不満そうな声を上げた。
「ルドピーをお前らが狩るなら罠を使った待ち伏せだろ。板かなんかが必要だな。それから靴の方か」
「フィッツィお姉ちゃんも同じこと言ってました」
「まぁ、それ以外だと力技になりそうだからな。Bランクの人ならそんな罠なくても狩れると思うが…」
そういえば、私は全然屋敷の人がどんな闘いをするのか知らない。フィッツィお姉ちゃんは…ガイアスさんみたいな闘いはしなさそう。でもハイルさんみたいに魔法を使うイメージもないなぁ。
そもそも、私は全然みんなのこと知らない。フィッツィお姉ちゃんは仲がいい、はずだけどお姉ちゃんは王都の学園に通ってるらしくて、一年に数ヶ月しか会わないし…。
「親父、新しい靴を買うってことか?」
「いや、普段の靴を使う」
「?」
ロドさんは押し入れの中からゴソゴソと謎のものを持ってきた。ベルトに棘がついているみたいなものだ。棘でうさぎを狩るのかな、でもどうやって?手につける?例えば…
「メリケンサック?」
私がそう言うと、ロドさんは微妙な顔をして、「よくそんなもん知ってるな…」と呟いた。
「304のソン・リーさんがそんなの持ってて名前を教えてくれました。他にも312のグックさんとか…」
「グック?ソンって人は屋敷でよく料理してたでかくて黒い人だよな」
そっか、セドはグックさんに会ったことないんだ。
「グックといえば、Bランクの傭兵だな」
「そうです。だから屋敷にいない時が長くて」
セドはそのメリケンサック?を手に取ってしげしげと見つめた。
「で、これなんだよ」
「ああ、それは靴につけるんだよ。ルドピー狩だけじゃなく氷の上を歩く時も使えるぞ」
そう言ってロドさんは今はいてる靴にそれをつけて見せた。きっちりベルトをしめればトゲがついた靴の完成だ。
「これを履けばふかふかの土も動きやすくなるんだ。基本的には待ち伏せの狩だが、あのクソ兎、こっちに突進してくることがあるからな」
「蹴られたらいたいし」とブツブツ言いながら次に大きな布を取り出した。布、というか地味なマットだ。
「板がねぇからこれでいいか。これを下に敷いておけばあいつらは土に潜れねぇ。んで、その狩はいつ行くんだ?」
「今週末です」
フィッツィお姉ちゃんは「各自で靴と縄と板を持って朝10時に集合!他は私が準備しとくから!」と言って部屋に行ってしまったので、あんまり詳しいことはわからない。
フィッツィお姉ちゃん、前はもうちょっと丁寧で他の人のことを気にかけてくれてた気がするけど、最近は…なんだか、自分中心になってるというか…。
まだ週末まで数日ある。縄は、最初に買ったロープがあるから大丈夫。板と靴はどうしようかな。そういえば、この前倉庫に入った時に板はあった気がする。というか、狩に必要なものはだいたい屋敷にありそう…。いつも借りるのも良くないけど、これからどれくらい使うかわからないし、屋敷に帰ったら聞いてみよう。
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その夜、夢を見た。
数年前の、フィッツィお姉ちゃんと一緒に遊んでた時の夢だ。一緒に草の花の冠を作ってた。
昔私は、くすんでボサボサした自分の髪が嫌いだった。
「いいなぁ、フィッツィお姉ちゃんやサラサラでツヤツヤで、綺麗な金色。キレイ」
私がそういうと、フィッツィお姉ちゃんははにかむように笑った。
「私の髪もそんなに良いものじゃないのよ。髪が短い時は分からないけど、毛先が茶色くもなってくるし…。ストレートすぎて髪型のアレンジが効かないの。それに」
フィッツィお姉ちゃんはこっちを向いてふわりと笑った。
「私はチェカの髪、好きよ。ふわふわで優しい色をしているもの」
「うーん…でも、髪がふわふわってより、ビョンビョンしてるもん」
自分の視界に入ってくるほど跳ねてる髪。目にも入るし…。
「じゃあ、これあげる」
フィッツィお姉ちゃんは自分の髪をとめてた紺色のヘアピンを取って私に差し出した。
「え、お姉ちゃんのだよ?」
「いーのいーの!どうせ普通のヘアピンだし、ほら、私これでもBランク冒険者よ。これくらい大丈夫!」
そう言って半ば無理やり私にヘアピンを握らせた。
フィッツィお姉ちゃんはもうとっくに忘れたかもしれない、思い出。
あのヘアピンは、まだ引き出しの中にしまってある。




