おめでとう
オルガンテと私が住んでいるのは大きなやしきみたいな建物だ。でも普通のやしきとずいぶん違う。
住んでる人も、仕組みも、家具やお金も。
オルガンテみたいなBランク以上の強い冒険者とその関係者しか住めない、だった気がする。それから私みたいに一緒に住んでる人が少しだけ。
みんな強いけど優しい。忙しいらしくてなかなか会えない人がほとんどだけど会えばちゃんとお話ししてくれたりする。
あのやしきは五階建てで、一階はみんなのスペースになっている。テレビが置いてあるリビングみたいな部屋とかみんなでご飯を食べれる部屋とか。
二階は私とオルガンテみたいな一緒に住んでる人の部屋がある。結構部屋が余ってて荷物置きになってたり本が沢山ある部屋がある。
三階はBランクの人達の部屋がある。私がいくのは部屋にいる人に用事があるくらいで、あんまり行ったことのない階だ。
四階はAランクの人のお部屋。人数は少ないけどその分お部屋が広くなっててそこまで余ってないらしい。
五階はSランクの人たちが住んでる。部屋は3つあるけど私は入ったことない。3人Sランクの人がいるけどみんな忙しくて誰かいる方が珍しい。
こんな感じで階ごとに住んでる人が分かれてる。
住んでるのは強い人たちだからとっても有名で、のこのこ強盗が入ってくることはない。「入ってきたとしたらよっぽどの無知だ」って住んでる人たちが言ってた。
家具は全部高いらしい。長持ちするらしいけど住んでる人が住んでる人だから時々壊れてる。
みんなお金持ちでお金は自分で管理してるけど、水道代とか電気代とかみんなで食べるご飯のお金とかは必要だから一階の部屋にお金がいっぱいある。
オルガンテは私と暮らす前は他の人達みたいに旅をしてたらしいけど私が来てからは図書館で働いてる。アパートに人が多い時は時々外に行くけどせいぜい一泊くらい。
私はみんなと違って弱いし、本当ならこんなところにいちゃいけないかもしれないから少しでも役に立とうと普段は一階のお掃除をしたり郵便物を分けたり、水道代とか電気代の計算をしてる。
それが終わったら教会に出かけてお勉強をする。
分からないことはみんなに聞けば大体教えてくれるけどみんな忙しいからね。
夕方になる前に教会を出てご飯を買って帰る。
それが、普段の私の生活。
オルガンテが今日みたいにお休みの日は午前中は私と一緒にアパートで働いてお昼の間はお出かけしたり本を読んで過ごしたりする。
今日は一緒にお昼ご飯を食べた。そのあといつも通り帰るのかと思ったけど、オルガンテはギルドによろう、と言ったのでついて行った。
ギルドには男の人の方が多い。一人でいる時はたまにおじさんに変なことを言われるけどすぐに周りに人がその人を注意する。みんなオルガンテが怖いみたい。
前にその人達にオルガンテが怖いの?って聞いたら尊敬してて嫌われるのが怖い、とか単純に強いから怖い、とか色々言ってた。
私はオルガンテがカウンターでお姉さんとお話ししている時は暇だからギルドにある本を読んで待っていた。ギルドの本には薬草の見分け方とかモンスターの種類とかあって勉強になる。
読んでるとすぐにオルガンテが戻ってきた。今度こそ帰るかと思ったら図書館にいこう、と言われた。別に嫌じゃなかったからうんって答えた。
「あれ、オルガンテさん、今日はお休みですよね?」って図書館のお姉さんに言うとオルガンテは「今日は客として来たんだ」ってちょっと笑いながら言った。
オルガンテについて行っていろんな本を見た。家にある本もギルドにある本も見たこともない本もある。お休みの日に時々くるけどそれでも全く知らない本がいっぱいあって読んでるうちに夕方になってた。
「流石に帰ろうか」
オルガンテはそう言ってまた手を握ってくれた。
今日は結構楽しかった。普段の日も嫌いじゃないけどオルガンテがいて、しかもこうやって過ごせるなんて。私は、オルガンテのことが大好き。
あれ?やしきは普段はいない人が多いはずなのにいっぱい部屋の電気がついてる。偶然みんながいるのかな?
オルガンテがドアに手をかける。そしてガチャリ、と音が鳴り、光がさす。
「「チェカ!!8歳の誕生日おめでとうっ!!」」
パーンッ!パパンッ!
…みんながクラッカーを鳴らして私を出迎えてくれた。
「そっか…今日私の…誕生日…」
「おいおい、もしかして忘れていたのか?」
オルガンテがにっと笑い、私に手を伸ばす。
「8歳の誕生日おめでとう、チェカ」
「…ありがとうオルガンテ、みんな」
私はオルガンテの手をつかんでやしきの中に入って行った。