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フィッツィの帰還

 クリーム色のクルクルとした髪。赤と朱色に輝く目。何よりも、私を見た途端にパッと笑う顔。記憶の中のチェカは、いつも同じだ。ーーその後ろに立つ男も。水に浮く油のようにやや七色に輝く濃紺の髪と、蒼い瞳。チェカに対しては朗らかなのに、私と話す時はぶっきらぼうで無表情。チェカとは正反対の容姿と性格。それが彼、オルガンテだ。


 私がこの屋敷に入居する時の担当はハイルさんだった。彼女は今も私に対して親切だし、ガイアスさんは普通に接している。ただ、不在の屋敷の主人とやらに代わって管理人になっているオルガンテとの関係は、年々怪しいものになっていた。


「ーーさて、今年はどうなるのかなっと」


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


 ガチャーーン!!


「たっだいまぁ!!」


 本格的な夏のある日、玄関のドアが開く音と懐かしい声を聞いた。急いで下に降りる。ああ、やっぱり。


「フィッツィお姉ちゃん!!」


「えへへー、チェカ、元気にしてた?」


 ぎゅっと抱きつけばそのまま私をぐるぐると回してくれた。


「あれ、髪の毛の色変わってる」


「んふふ、そう、毛先染めたの!」


 私とは違って綺麗な金髪の先っちょは水色やピンクだ。


「髪だけじゃなくて、ファッションも最新だよーー!!最近王都では大きめの上着を着て肌を出すのが流行ってるんだよね!あと、タレ目風で目を大きく見せるの!」


「へー、今年はいつまでいるの?」


「今回の夏休みは降星祭の10日前まで。それまで遊べるよー。…あ!チェカってもう8歳?冒険者になった?」


「うん、なったよ」


 いっつも持ってる冒険者カードを見せる。まだGランクで穴が一個だけ空いた紙のカードだけど。


「おー!今度依頼について行っちゃおうかな!普段は誰とやってるの?やっぱりあの人?」


「ううん、オルガンテじゃなくて…」


 ガチャン!


「よお!チェカ!ギルド行こうぜ!!」


セドが乱暴にドアを開けた。


「……こんにちは、チェカ」


 その乱暴に空いたドアをパタンと閉じながらサラハちゃんも入ってきた。


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


 太陽はほぼ沈み、屋上は気持ちいい涼しさになってきた。星について、覚えてる限り話した。


「…じゃあ、また会えたらね」


「うん?」


「ロドさんが荷物まとめてた。明日くらいには出て行くんでしょ?」


「おう、そもそも俺たち客だったしな」


「最初の依頼がセドと一緒でよかった」


「サンキュ。また一緒に依頼しような」


「…うん」


「俺前衛の練習頑張るぜ!」


「私も…私もいろんなことができるようになりたいな。しばらくはサラハちゃんと一緒になるとすると光栄ばっかりになっちゃうし」


 私がそう言うと、セドは文字通り頭に?を浮かべた。


「いや、俺抜きで依頼するのかよ」


「?」


 今度は私が?を浮かべる番だ。


「ああ、俺屋敷は出て行くけど近所に住むことになったぜ」


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


 …と言うことがあり、今私はセドとサラハちゃんと少しずつ依頼をこなしている。戦う依頼なんてないけどしっかりナイフの練習もしてる。


「なるほどね。でもつまんなくなーい?」


「まぁつまんねーけど仕方ねーだろ」


 セドはムシャムシャとおやつを食べながら答えた。こいつ…もう客ですらないのにいっつもおやつをあさっていく…。


「いや〜、これには抜け穴があるんだよ」


「「?」」 「…」


「じゃあ、確認も含めてランクシステムについて簡単に説明しちゃうよっ!」


 フィッツィお姉ちゃんは本棚の近くのミニボードを取り出した。


「まず、チェカたちGランクだけでパーティを組むともちろんGランクになるよ。でもパーティを組むのにランク制限はないんだよね〜」


「…まぁ、俺も親父と一緒にやってたしな」


「私も格上のランクの雑用をよくやってたわ」


「で、私、Bランクと組んだらパーティはGランクと判断されないんだ」


 「流石にBランクにはなんないけどね〜」と付け足すフィッツィお姉ちゃんを横目に考える。もっとワクワクするような依頼を受けられる。でも、いいのかな。


「まっ、私もそんな難しくて危険な依頼に子供を3人も連れて行ったりしないわ。でも私こっちにあんまり知り合いいないし、混ぜてよ。パーティーリーダーは誰なの?」


 お互いに目を合わせる。


「…もしかして決まってない?」


「まぁ、チェカじゃねぇか?」


「私もチェカだと思うわ」


「え、私!?私、リーダーシップなんてないよ!」


「でも私とセドは別に仲がいいわけじゃないし、あなたが中衛をやるならちょうどいいじゃない」


「…じゃあ、とりあえず、ね。私はサラハちゃんの方が経験があると思っていいと思ったんだ。だから代わりに副リーダーってことにしよ」


 じっと私たちの会話を聞いていたフィッツィお姉ちゃんは口を開いた。


「あなたたちのギルドカード見せてくれない?」


 私たちはおとなしくカードを渡した。


「チェカとセドくんがGの一つ、サラハちゃんが二つね」


 そういえばこの穴なんなんだろう。初めての依頼達成で穴が空いたけど…。


「いまいくつ依頼を達成したの?」


「ええと…私は三つ。で、全部薬草採取」


「俺は5個くらいかなぁ?」


「私はいくつかわからないわね。もう一年位冒険者をやってるし」


「ふんふん、どんな依頼?」


「難しい依頼は受けたことがないわ。薬草採取はもうたくさんしたし、ウサギとか鳥を狩る依頼も結構やったわね。猪は数回。魔獣は狩ったことないわ」


「おっけーおっけー!じゃあルドピーを狩に行こう!」


「「「ルドピー!?」」ってなんだ?」


 セドが疑問の声を上げる。


「図鑑で見たことある。兎の魔物だったよ。流石に難しい、というか、私たち何もできないんじゃ…」


「ただのウサギとほぼ同じよ!ただちょっと魔力を使ってるだけ」


 ちょうどリビングの本棚に魔物図鑑があったから持ってきて机の上に広げる。


 ルドピー。大きさは普通のうさぎよりちょっと大きいくらいで、力が強くて、土の魔法をちょっと使えるらしい。


「って言っても、そこまで凶暴じゃないわ。次の魔法は大抵地中に逃げ込むために使われるし、せいぜい土をふかふかにして歩きにくくなるくらい」


「うーん、普通のウサギも走って追いつけないよ」


「俺のナイフも流石に難しそう…」


「私の弓かしら?」


 私たちが思い思いのことを言うと、フィッツィお姉ちゃんはにやり、と笑った。


「あいつらはたかがちょっと魔法を使えるくらいで慢心してるわ。板と罠を使ってね。あと靴にちょっと工夫を施すの」


 ボードを使ってルドピーの狩の説明を始めた。いつのまにかルドピー狩は決定されていた…。

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