依頼達成
「まず、前提条件の確認から行こう。この世は魔力で溢れていて、風呂や冷蔵庫のような身近なものからギルドカード作成のような技術まで、魔力により動いている。大切なのが、人類は魔人に限らず誰でも魔力を持っているということだ」
「誰でも魔法が使える可能性があるってこと?オルガンテ」
「チェカの言う通り、誰にでも可能性はある。だから素質がないと言われている人も簡単な魔法くらいなら使えると思うぞ」
「つまり…魔法を使う奴ら全員が魔法使いではない、と?」
「そうだとも。えーと、ガイアスって分かるか?」
時々屋敷にいるSランクの冒険者だ。ひまなときは私と遊んでくれる。外にいる時はいっつも大きな剣を持ってるから魔法使いじゃないと思ってたけど…。
「そりゃあ知ってますよ。人間では最強って言われてるSランク、剣士の方っすよね」
「おっ!俺でも聞いたことあるぞ!最強剣士だって!」
オルガンテはパクりと一口食べたあと、ニヤリと笑った。
「あいつだって使えるぞ。魔法」
「「「えぇ!?」」ってなんでチェカまで驚いてんだよ!」
「知らなかったもん!」
あんなにムキムキゴツゴツの体で大きな剣持ってるから、魔法使えなさそうなのに!
「あいつは武器強化、身体強化、加速とか基本的な魔法を有効的に使えている。だが魔法で相手をどうこうする訳ではないだろう?」
「つまり魔法を使って相手を攻撃するのが魔法使いだってことっすか?」
「うーむ…明確な基準がある訳ではないから説明が難しいな。仲間の支援をする魔法使いや、精神魔法を使う奴だっているし…ああ、ハイルがよく使う魔法だって攻撃もしないし相手を拘束する訳でもないじゃないか」
ハイルさんもSランク冒険者。いないときは長い間いないし、いるときはお昼もゴロゴロしてたり。
「ハイル…黎明の導きのハイルさんですか?」
「ああ、あいつの代表的な魔法…」
「確か…未来が分かるんでしたっけ」
「確実な未来ではない。正確には起こりうる事態を予見できる魔法だな」
ロドさんとオルガンテが2人で魔法について話し始めてしまったせいか、セドはケルシャをかき込むと立ち上がり、「ナイフの練習でもしてくるぜ」と立ち上がったから、私も「待って」と言ってカーシャを食べようとしたら「ゆっくり食べなさい」ってオルガンテに怒られちゃった。
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「はい、じゃんけんぽーん」
「あいこでしょっ」
チョキとグー。
「はあああああぁぁぁ!?何でこんな時に負けんだよ俺っ!!」
「ふふふ、運は良い方なんだ」
勝った私が依頼書を持ってカウンターにいく。
「はい。何か御用ですか」
ギルドの人は冒険者なら誰に対しても同じように対応してくれる。あ、でも暴れてる人とかオルガンテみたいな高位ランク冒険者にはそれぞれちょっと態度が違うかも。
「依頼の達成に来ましたっ」
「はい、依頼の達成報告ですね」
思わず顔が赤くなる。初めての依頼達成報告なのに、言い間違えるなんて…。
「それでは確認します。品物をこちらに」
ちょっと手を伸ばしてカゴをカウンターの上にのせる。
「それでは番号が呼ばれるまでお待ちください」
カゴは奥にスッと引き込まれて、代わりに木の札を渡された。46番だ。札を持ってオルガンテたちが待っているテーブルに戻る。
「いけたか?」
オルガンテは私に気がつくと私の分の椅子を引いた。
「うん」
「今日はそんなに混んでねぇですし、5分もかかんねぇな」
「いつもはどれくらいかかるの?」
「依頼によってまちまちだな。前に俺がハイルやガイアスと行ったSランクは数ヶ月待たされた」
「おおぅ…長いっすね」
「まぁ、普段俺の本職の方はせいぜい数週間ってことだな。何しろ専門家がじっくりと見るから…何も悪いことはしていなくてもあの時間は気が気でない」
「気が気でないってなーに?」
「落ち着かないってことだ」
そうこうしているうちにお茶を持ったセドが戻ってきた。私とオルガンテは同時にお礼を言った。
「「ありがとう」」
「おー、おありがt…!!!なんで熱いのなんだよ!!」
オルガンテと私のは冷たいけど、ロドさんのだけ熱いやつだったみたい。この季節に熱いお茶は嫌だな。
「まったくお前ってやつはいつも……」
「46番の方!」
ロドがセドをくどくど叱ってるうちに番号が呼ばれた。2人を無視してカウンターに向かう。
「依頼の達成を確認しました。依頼達成者のうちチェカさんはギルドカードを提出してください」
「はい…」
?なんだろう。ギルドカードを渡すと、お姉さんは横にある重そうな機会にカードを入れた。
ガシャン
「お待たせいたしました。ギルドカードの更新をしたので確認して下さい」
カードを受け取ると、左端に小さな穴が空いている。
「うぅ…親父のやつあんなに怒んなくっても…って、分かってたけどチェカも俺と同じか…。それ、最初に依頼を達成した時にあく穴だぜ」
セドが首から下げているカードには同じような小さな穴が空いている。
「これでチェカも冒険者の仲間入りだ」
そう言って私の方に置かれたオルガンテの手は、手袋をしているはずなのに暖かく感じた。
この時、本当の意味で私は冒険者としての一歩を踏み出した。