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忍び寄る森の異変

「と、いうことで」


 私、オルガンテ、セド、ロドさんはギルドにいた。


「セドは私と一緒にヴァッケ草を取る。あ、これ半分あげる。野犬が嫌いな匂いだから持っとくだけでいいよ」


 ほぼ粉みたいになった乾いた薬草が入っている袋を一つセドに渡す。さぁ、準備はバッチリ。


「そういえばオルガンテとロドさんはどうするの?」


 前回はロドさんとオルガンテは森に入らないところで待ってたけど…。なんだかオルガンテは一緒に来ない気がする。だって自由気ままな人だし、なにより昨日あの笛をくれたから。


「そうだな。ロド、悪いが2人について行ってくれないか。つきっきりじゃなくていいから近くにいてほしい」


「そりゃまぁ、全然問題ないっすけど、オルガンテさんはどうするんで?」


「ちょっと森の奥に行ってくる」


 オルガンテはそう言ってちょっと手を上げるとギルドから出て行った。


「じゃあ、俺たちもぼちぼち行くか!俺もこの日のために練習以外時間以外もチェカに内緒でナイフの練習してたんだぜ!」


「秘密の特訓なら私だって!」


 セドは先を争うようにギルドから飛び出したので、私もあわてて追いかけた。


(もう!さっき一緒にいてって言ったばっかりなのに!)


 後ろから、「悪いなぁ」とロドさんの声が聞こえてきた。きっといつもみたくちょっと苦笑いを浮かべてるんだろう。


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


サクリ、サクリ。


 草木が生い茂る森を悠然と歩く者がいた。その足を踏み出すたびに、ピアスやローブの飾りがチャリ、と小さな音を立てる。


 青みを帯びた烏の濡れ羽色の長髪に、夏も近いというのに黒く長い暑そうなローブ。オルガンテである。


(…やはり森がざわついている。あれははぐれ野犬ではないな)


 地面に目を凝らせば、犬のような足跡が幾つか残っている。オルガンテが手をかざせば一つの美しい魔法陣がさっと展開された。一つ、また一つと足跡が微かに発光する。


 足跡を追っていけば森と森の境界に辿り着いた。ここから先はただの森では無い。「レイガの森」と呼ばれる、牙狼の生息地だ。牙狼は知能ある魔物だ。その見た目は野犬を大きくし、全身を黒い毛で覆われたものだ。薬草をとっているGやFランクの冒険者では到底対処出来ない。


「野犬と牙狼の縄張りが混じっている?いや、これは…牙狼が野犬の縄張りに入ってきている。野犬はその影響で森の外縁部まで出没しているのか」


 ギルドに野犬が出たことを報告した際、オルガンテは調査を依頼されていた。ただのはぐれ野犬なら時々出没するが、もし森に異変が起こっていてはいけない。可能性は低いが、それこそがギルドの意義の一つであった。


「…?」


 牙狼の足跡は野犬のそれよりも大きい。だが、それよりも一回り大きい足跡。


「牙狼のボスか?」


 牙狼の群れにはボスがおり、群れはそのボスの意思決定に従って行動する。


(一度ギルドに戻り報告するか。この依頼はあくまでついでだから、別のやつに正式に調査の依頼した方がいい)


 オルガンテは再び森の境界を跨ぎ、チェカたちのいる広場に向かった。


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


「チェカァ〜、これも入れてくれ〜」


 セドは両手にいっぱいのヴァッケ草を抱えてる。


「もう、そんなことしてると転んじゃうよ。それに野犬が来たらどうするの!」


「つっても全然いねーぜ」


 ドサドサ。ヴァッケ草はカゴいっぱいになった。


「どうせなら、野犬と戦ってみたかったぜ!」


 セドはそう言いながらうんと背を伸ばした。私もしゃがみながらヴァッケ草を集めてたから体を伸ばしたい気分だ。


「出ないだけいいと思うけどね。それにもしかするとこの匂いのおかげかも」


 結局野犬は出なかったけど、最初の目的の依頼は達成できた。


「おーい、これも入れてくれ」


 セドが来た方向からロドさんがいっぱいのヴァッケ草を持ってきた。


「はあっ!?そんなのどこに生えてたんだよ!?俺全部採ったはずだぜ!?」


「冒険者やってる歴がちげーんだよ」


 カゴはいっぱいどころか山盛りになった。


「お、なんだか丁度良い時に戻って来たみたいだな」


「「オルガンテ」さん」


 オルガンテはカバンから大きな布を取り出すとカゴの近くに広げた。


「さて、昼飯にしようか」


 今日のお昼ご飯はケルシャだ。ご飯の上に具を乗せて味付けをして、お湯をかけた私のお気に入りの料理。とは言っても、具はなんでもいいんだけど。


「今日はせっかくだし鳥肉、乾酪、あとちょっと葉野菜を使うか」


 オルガンテが続けて取り出したのはおなべ、ちゃわん、そして具材。


「あれ、この鳥の干し肉って…」


 この前から、キッチンの奥、いっぱい野菜とかお肉とかがある部屋に干してあったやつだ。


「この前獲ったリトの干し肉だ。これは絶対美味いぞ」


 オルガンテはニヤリと笑うと、味付け用の粉をかけて水を注いだ。オルガンテは魔法で鍋に火をつけた。


「魔法って便利なんだなぁ。毎日かたいパンとかばっかだったのに…。親父は魔法使えねぇの?」


「俺は機会も才能もなかったからなぁ。元々俺の親父と一緒に時々狩りをしてたから、罠だとか剣で生活していけたし、周りに魔法使いなんていなかったさ」


「魔法使いって珍しいんですか?」


 ロドさんはきょとんとするとガッハッハと笑い始めた。


「そりゃあそうだよな!チェカちゃんの周りにはすごい魔法使いがいっぱいだよな!」


 ひとしきり笑った後、ロドさんは私に向き直った。


「冒険者ならそこそこ見かけるけど、それ以外ならほぼ見ねぇな。そもそも素質がなきゃ魔法は使えねぇ」


「へぇ〜。親父には才能がなかったのか」


「あぁ。お前が生まれる前に一回魔力量がなんだかとか調べてもらったんだけどな」


 オルガンテは全員分のケルシャを分けて配り終わると口を開いた。


「その結果って、覚えているか?魔法使いになれないということは、魔法が使えないということではないんだ」


 …???どういうことだろう。セドもそう思ったのか、オルガンテにこう聞いた。


「魔法使いってそもそも何なんだ?」

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