白笛
「オルガンテ、お話があります」
「おう、なんだ」
朝ごはんの前にボタンを閉めて準備しているオルガンテに声をかける。
「えっと、お願いがいくつかあって…」
話が長くなることを察してオルガンテはぼふっとベッドに座った。
「まず、私も依頼に連れて行って欲しいです。オルガンテたちは野犬が出るから危ない、って言ってたからいくつか対策を用意しました」
本棚から薬草の本を取り出してあのページを探す。
「えっと、まず野犬が嫌がる匂い!これを身につけて会う可能性を減らす」
「なるほど。だが万が一にも遭遇したらどうするんだい?」
「うん。その時は野犬を追い払いたいから、野犬が嫌がる匂いの元を野犬に向かってかける!」
「ははは、野犬が尻尾を巻きそうだが…逆に怒る可能性は考えなかったのか?」
「その答えは二つ目のお願いと関係してるんだけど…使っていいがんじょうな棒ってある?」
「まぁ、あると思うが何に使うんだ?」
「多分、私はナイフで野犬を追い払えない。セドの方がよっぽど上手に扱える。だから、リーチがあって、ナイフと違って向きとかない棒の方がいいと思ったの。それに…」
頭の中に浮かぶのはセドのまぶしい笑顔。
「セドも一緒に行くなら、前衛はゆずるの」
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(なるほど。悪くない選択だ)
野犬にしっかりと対策が取れているならば当初の問題は解決された。オルガンテが最も懸念していたのは、オルガンテたちと一緒に依頼に行くことで、野犬という危険性がある中で、自分たちの力によるものではなく危険性を退け、誤った達成感を得てしまうことであった。このような経験は油断に繋がりやすい。
正直子供が二人くらい増えたところで余裕で守り切れる。まして相手は魔物ですらないただの野犬だ。素人の村人でもなんとか対処できるレベルだ。
そして、チェカの選んだ道は悪くないどころかかなり良い。棒は切り付けるより労力がかからず、追い払うだけなら十分で、どこでも簡単に調達できる。実際、多くの魔法使いはどうしても近接戦をしなければならない時に杖を用いるものが多い。
「俺と一つ約束をしてくれ。そしたら依頼に一緒に行こう」
「約束?なに?」
オルガンテは良く使い古された旅行鞄から純白の笛を取り出すと、チェカに投げて寄越した。
「わっ」
チェカが慌てて手を伸ばすと、笛はカシャリと硬質な軽い音を立てた。
「この依頼に限ったことじゃない。依頼遂行中ではない時もーー」
笛はキラキラと七色に輝く。
「ーー危ない時はこの笛を吹け。どんな時も、何処にいても、俺がすぐに助けに行く」
「…うん。約束する」
チェカがぎゅっと笛を握り締め頷いたのを確認すると、オルガンテは「よし」と息を吐いた。
「ロドには俺から話しておこう。セドにはチェカから話しておいてくれ」
「うん。あと、これはセドにバレないようにしてほしいお願いなんだけど…」
「うん?」