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野犬を倒す必要性

「…どうしよう」


「なに、チェカ、さっそく冒険者の壁にぶち当たったの?」


 ナイフを習い始めてから数日後、私が教会にいつもみたいに行って(セドは勝手についてきた)本を開いたままぼーっとしてるとサラハちゃんが声をかけてきた。サラハちゃんは私より先に冒険者になったから、アドバイスがもらえるかも。


「うん、この前初めて依頼を受けたんだけど、野犬が出たからオルガンテが自分で依頼を終わらせるのを許してくれないんだ。だから野犬が倒せるならいいかな、て思ってナイフの練習をしてるけど、なかなか上手くいかなくて…」


「そりゃあたった数日で出来るようになったら私たち狩人の立つ瀬がなくなるし、人間はもっと楽に暮らしてるわよ」


「サラハちゃんも倒せないの?」


「うーん…一人で倒すなら不意打ちとかじゃないと無理ね。偶然会ったら厳しい」


「じゃあ、サラハちゃんも野犬が出たら狩とか依頼に行かないの?」


「いや、行くわ」


 サラハちゃんは隣の椅子に座って私をじっと見つめた。


「野犬を倒す必要なんてないじゃない」


「…?」


「つまり、自分の身を自分で守れたらいいのよ。手段はなんでもいいわ。野犬が嫌がる匂いを服につけておくとか、野犬は木に登れないから素早く木に登れるようにしとくとか」


 衝撃だった。貰ったナイフで野犬を倒すことばっかり考えてたけど、そうだ。私がしたかったのは、「初めての依頼を、自分で終わらせること」なんだ。


「…ありがとう。そういえば、サラハちゃんは一人で依頼を受けてるの?」


「まさか!私は確かに親がいないけど親戚が全くいないわけじゃないわ。その人たちが一緒に来てくれる時は一緒に狩りをするし、ダメな時はギルドで適当に人を探す」


「へー」


「まぁ、こんな小娘に本格的な依頼は来ないわ。雑用か、駆け出しのパーティーか、それ以外で向こうから声かけてくるのは危ないわ。で、チェカはどうする予定なの?私みたいに知り合いと時々いく、みたいな感じなのか、がっつり固定パーティーを組むの?」


「まだ分からない、かな」


 オルガンテは私がいなかったころ、世界中を旅しながら仕事をしていたらしい。もしオルガンテがまたそんな生活に戻りたいなら、なるべく頼らないほうがいいかもしれない。セドもきっともうすぐこの街を出ていっちゃうんだろな。


「結局ナイフも頑張らなくちゃ」


「頑張って。そのうち私が弓教えてあげるよ」


 サラハちゃんは移動しながら狩りをして暮らす一族の出身で、みんな弓が上手らしい。


「俺にも教えてくれよ!!」


「ぅわっ!」


 急にセドが机の下から飛び出してきた。


「俺、色んなもの使えるようになりてぇんだ!」


「でも、あんたナイフ習ってるんでしょ?」


「それがなんだよ」


「いや…あんた性格からして前衛になるのかと…」


「ん〜そうだな!前衛で敵をばっさばっさ倒すんだ!」


「じゃあ弓はやめときなさいよ。前衛も後衛もそつなくこなす人は確かにいるけど、あんたはそっちが優先でしょ」


 私は後衛になりそうだなぁ…強くはなりたいけど、私がムキムキになって(?)剣を振り回してる姿を想像できない。それに、みんなの役に立つのが好きだから。


 私がそう考えてるうちにも、サラハちゃんとセドはちょっとした言い争いをしている。


「だからぁ!ナイフはどのポジションも使えなきゃいけないでしょ!あんたも本格的な前衛するならそのうちナイフ以外の武器、長剣なりなんなり持つわよ。これで納得した?」


「なぁ、チェカはどう思うよ!最初くらい自分にあう武器見つけてもいいだろ?」


「…?ごめん、考えてる間何言ってたか聞いてなかった」


 二人は同時に「はぁ…」とため息をついて手をおでこに当てたり、やれやれと首を振ったりした。


「そうだ。今の依頼が終わったらこの3人で依頼を受けてみたいな」


「おっ!いいな、それ。俺前衛!」


「やっぱり前衛じゃない。もちろん私は後衛になるけど…チェカはどうする?今決めなくてもいいわよ。どうせ私たちが受ける依頼は戦ったりしないから」


「やるなら後衛がいいかなぁ」


 3人でそうこう話しているとガチャリと扉が開いて、ちょっとふくよかなシスターの服を着た人が入ってきた。


「チェカ、サラハちゃん、あと…セドくんだったかしら?そろそろ掃除の時間なのよ」


 この教会のシスターの一人、マティさんだ。私が5歳の時からよくお世話になってる。


「あ、はい。手伝います」


 こっそり机の下にまた潜ろうとしたセドを捕まえながらそう言った私を見てマティさんはちょっと笑いながら「ありがとう」と言った。


「離せよぉ!俺は掃除するくらいなら一日中ナイフを振ってられるぜ!」


 セドはまだ机のしがみついてる。


「もー!掃除したら屋敷の人たちに案内を頼んであげるから!」


「ほんとか!!」


 急にご機嫌になると、「ホウキはどこだ!?」とか言いながら部屋を出て行った。うーん、部屋の隅にある雑巾で机を拭いて欲しかったんだけどな。


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


 教会から帰って、ナイフの練習をした後。

サラハちゃんの倒す必要がないって考えは分かった。野犬が嫌がる匂いと、木に登れるようにする、だっけ。匂いの方はすぐできそう。木登りは練習が必要。あの野犬が出た森は結構木が高くて登りにくそうだし…。他の人に教えてもらうだけじゃなくて、自分で何か考えなくちゃ。


 あっ、それとセドに約束しちゃったし、案内してくれそうな人に話さなくちゃ。そういえば、私もここに5年住んでるけど行ったことない場所がたくさんあるなぁ。


 オルガンテはこの屋敷の持ち主の人から頼まれて長い間管理をしてるらしいし、全部知ってるのかな。

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