ナイフ練習
次の日、私とセドはみんなが「倉庫」って呼んでる建物の前にいた。今日からオルガンテにナイフの使い方を教えてもらうんだ。オルガンテからもらったナイフを構える。セドも自分のナイフを持ってるみたいだ。
「いいか、まずはナイフの重さに慣れることからだ。とりあえず試しに振ってみろ」
しっかりと持ち手をつかんで、思いっきり振る。
ヒュンッ
「…どう?」
「そうだな…上から下には振らないほうがいい。それだと最初の攻撃が外れた時に次の攻撃へ繋ぎにくい」
「俺は!?どう、どう!?」
「肘の角度をもう少し…あとは脇を締めて…そうだ。2人とも、そのまま素振りしてろよ」
そう言ってオルガンテは倉庫の中に入っていった。
ヒュンッ ヒュンッ
「にしても、俺ラッキーだなぁ」
ヒュンッ ヒュンッ
「何が?」
ヒュンッ ヒュンッ
「あの人、すごい人なんだろ?そんな人に教えてもらえるなんて」
ヒュンッ …
そっか、今まで、オルガンテに何かを教えてもらうことは普通のことだと思ってた。けど、そうじゃないんだ。
「私、恵まれてるのかな…」
ヒュンッ
セドは振るのをやめて、私の方を見た。
「分かんねーぜ?これから何があるのか。もしかすると俺が大金持ちになるかもしんねぇ!」
「セドは私にいろんなこと気がつかせてくれるね」
「おっ!褒めてる?俺のこと褒めてる!?いや〜そんなお礼より屋敷を案内して欲しいなぁ〜?」
「おい、何サボってんだ」
「うげっ!いやぁなんでも」
「ごめんなさい」
戻ってきたオルガンテはかかしみたいなのをかかえてる。ヨレヨレの布と、木で作られてる。
「ナイフは振れても、攻撃が当たった後が大切だ。思ったより力を入れないと持ってかれるぞ。あとは、ナイフが突き刺さって抜けなくなったり、な。だからこいつに攻撃してみろ」
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…疲れた。まだそんなに時間は経ってないのに、もう腕を上げたくない。チラ、と隣を見るとセドはまだナイフを振ってる。
「おーい、セド、ここにいたのか。もう夕方だぞ」
「親父!」
「ロドさん。あれ、そんなに時間たってたんだ…」
「そんだけ集中してたんだろ。チェカ。お疲れ様」
「うん…でもオルガンテ、私才能ないかも…」
「最初から出来るやつなんていないさ。少しづつ出来るように努力すればいい。さて、2人とも。この金で夕飯の材料を適当に買ってきてくれないか」
「おう!もちろんだぜ!肉肉!」
「あっ、待ってセド…!」
お金を受け取ってすぐに走り出したセドを追いかけて、私も屋敷の外に出ていった。
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「…オルガンテさんも、最初は出来なかったんですかい?」
「勿論だとも。赤ん坊がナイフを振れたら驚きだ」
「それは…少し意地悪ですね」
「?」
ロドはオルガンテの方を向くと、少し言いにくそうにしながらも言葉を口にした。
「確かに最初は誰も出来ない。けど、出来るようになるスピードは違うじゃないですか」
「…ふふ」
突然小さく笑ったオルガンテにロドは眉を顰めた。
「いや、自分でも子供騙しだと思ってな。俺も最初は出来なかった。誰だって最初は守ってもらうべき存在だ。ロドもそうだったろう?」
「まぁ、そっすね。親父は狩で稼いで食事を取ってきてくれましたし、家では大体お袋が一緒でした」
「俺も同じだった。だが俺の親は強かった。チェカに同じようになれというのも酷だとわかっている。加えて、俺には俺なんかより、俺の親よりも強い師とも言える存在がいたからな」
「うぉ…もう想像もできない強さっすね」
きっと昔のSランク冒険者なのだろう、とロドは思い、そこに至れるものがどれだけいるか、と想像した。
「この屋敷にいる人たちは、努力だけでなく才能も凄いんだろうなぁ」
「それに関してはそうだ。だが子供騙しもやる気を出させるために使うのは悪くないだろう?何もあいつらみたいに強くなれって言ってるんじゃない。めげずに努力すればいいのさ」
オルガンテはそう言うと、使用した的を持ち上げて倉庫に向かった、が、途中でロドの方を振り返った。
「ああ、そうだ。例の件、どうなっている?」
「落ち着くことにしました。あいつも最初はコロコロ環境が変わるより基礎をみっちり叩き込まなきゃいけねぇんで。見つかり次第、現状復帰で出ます」
「了解した。ありがとう」
オルガンテは軽く手を上げて挨拶すると倉庫の中に消えていった。