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08 神遺物《レリック》

 長い階段を、地下に向かって一歩ずつ降りてゆく。

 壁に据え付けられた魔力灯( ランプ )の蒼白い光が、着なれた紫のドレスの足元を照らしてくれる。


 この世界で魔法と呼ばれるものは、呪文を詠唱して超自然現象を起こすような魔法らしい魔法とは少しだけ違う。

 万物に宿るエネルギーである魔力を「魔紋(マモン)」と呼ばれる特殊な紋様に「流す」ことで何らかの「現象」に変換する、というものだ。


「エリシャ様、足元どうかお気をつけください」


 たとえばいま私たち二人が降りゆく地下への階段横に、等間隔に並ぶ魔力灯(ランプ)

 これには「発光」の魔紋が刻まれた小さな魔紋片(チップ)が内蔵されていて、表面に指先で触れると、人体に流れる魔力をわずかに取り込んで光に変換し、数分間は輝き続ける。


「うん、だいじょうぶ。ありがとう」


 このような魔紋を応用した便利な道具は「魔具(マグ)」と呼ばれ、一般家庭に普及して人々の暮らしを豊かにしている。

 そう、大雑把に言ってしまえば「電化製品みたいなもの」だ。


「……! こんなことで感謝のお言葉がいただけるなんて……!」

「ねえ、ミオリ。ありがとうのたびに感激していたら、きりがなくてよ?」


 古の魔法文明は、この魔紋を自在に創造して操り、神に等しい御業を振るっていたという。しかしそれら文明は千年以上前、巨大な災禍に見舞われ滅亡した。

 人の欲が神の怒りに触れたのだ、とも伝えられているが、記録のほとんどが(うしな)われており、何ひとつ定かではない。


「うっ、申し訳ございません」

「ええと、責めてるわけではないの。ただ、疲れないかなって」


 今、この世界で使われている魔紋はすべて「神遺物(レリック)」と呼ばれる魔法文明当時の魔具からその魔紋の一部を複写し、再現したものばかりだ。


「そのようなお心遣いまで! いたみいります!」

「う……うん」


 そういった魔紋を研究・再現するのが「魔学」と呼ばれる学問であり、エリシャ(わたし)の父は王国でも最高位の魔学者だった。


 ちなみにエリシャ(わたし)は、王都の王立学園に通う学生という身分になる。

 弛まぬ努力の成果で成績は上位。

 ただ、魔学の授業における魔法の実践だけは少し……けっこう、苦手としていた。


 ──それは同級生たちと比べて、私の放出できる魔力量が圧倒的に乏しかったから。


 日常生活においては、現行のほとんどの魔具は魔力灯(ランプ)のように微量の魔力で済むように作られているので、困ることはない。

 とは言え、王国における貴族はそれぞれが家の由来となる神遺物(レリック)を有しており、その起動には多大な魔力量を要する。


 以前は起動(それ)が当主の条件とされていた時代もあったが、替え玉やら不正魔薬(ドーピング)やら様々な問題が発生し、今ではその辺は形式化している。

 だが、当主が起動に成功すれば社交界でも一目置かれる存在となるのは確かだ。


 そのため貴族間では魔力の高さをステータスとする風潮も根強い。

 また、一定以上の強い魔力は他者にも伝わるため、その者の威光(オーラ)魅力(カリスマ)の一端と捉えられることも多かった。


「……魔黒手甲(マガントレット)……」


 思考を逸らすように、私は口にした。

 それが、ダンケルハイト家に代々伝わる神遺物(レリック)の名。

 建国三英雄のひとり、魔戦士ダンケルハイトの鎧の一部といわれる伝説の魔具だ。


 階段の最後の一段を降りた私たちの目前、現れた黒い両開きの扉の向こう。

 父の書斎兼魔学研究室に、それは保管されている。


「お待ちを──」


 ノックしようとする私を手で制し、ミオリは扉に耳をあててしばし沈黙する。

 それから小声で「ご無礼をお許しください」と言いつつゆっくりノブに手を掛け、まるで魔法のように完璧な無音で、人ひとり通れるだけの広さに扉を開けた。


 その向こう、立ち並ぶ資料棚で視界が遮られた部屋の奥から話し声が聞こえてくる。


「──本当に素晴らしい研究成果です。この資料(データ)さえあれば、もうすぐだ」


 どこか芝居がかった、よく通る美声。

 真っ赤な衣装を纏った派手好きな美青年の姿が目に浮かぶ。

 ジブリール卿だ。


「最強の魔法武装たる纏魔鎧装(てんまがいそう)──『魔鎧(マガイ)』の完成が!」


 彼は誇らしげに、そう言い放つのだった。 

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