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07 魔学者ジブリール

「ジブリール卿のことです」


 ミオリの口から出たのは、父の客人である若い魔学者の名だった。

 一年ほど前から時おり屋敷に顔を出すようになった、二十代半ばと思われるその青年は、今日も朝から訪問予定だったはず。

 今ごろ二人して地下の書斎兼魔学研究室にこもり侃々諤々(ああだこうだ)を繰り広げていることだろう。


 長い赤髪に赤い服を着た、魔学者らしからぬ派手な外見の彼は、そう言えばゲームの公式サイトで攻略対象のひとりとして(真ん中より下あたりに)載っていたような気がする。 

 ──ちなみに、まったく好みではない。


「あの方の話し方には、微かに帝国訛りがあるのです」


 私の目をまっすぐに見据えて、彼女は言った。


「そしてあの方からは、血の匂いがします。あの目は、自分以外を人間と思っていない──人殺しの目です」


 そこで、私は思い出していた。

 アニメで語られた、エリシャ(わたし)の父親による秘法の帝国への漏洩が「魔鎧マガイ」の元凶になったという衝撃的な情報。

 そしてエリシャ(わたし)の記憶によれば父とその男、ジブリールが共同研究しているのは、ダンケルハイト家に代々伝わる秘宝──神遺物(レリック)なのだ。


 どこかで、カチリと歯車が噛み合う音が聞こえた──気がした。


「私……お父様のところに、行かなくちゃ」


 もしかしたら今ここが、私の人生(シナリオ)を破滅ルートから離脱させる分岐点かも知れない。


「お供いたします!」

 

 間髪入れずにミオリが言ってくれる。


「ありがとう、すごく心強い」

「侍女として……あ、姉としても、い、いも、妹を守るのは、とと当然ですから!」

「ええ、頼りにしています」

 

 思い詰めたような表情の彼女に、私は微笑みを返した。

 しかし、そこでふとひとつ疑問が浮かぶ。

 彼女はいつの間に「帝国訛り」や「血の匂い」を嗅ぎ分ける女スパイじみた能力を身に付けたのだろう。


 この世界の侍女って、そういうもの……というわけでも、なかったはずだけど。

 そんの私の疑念を察したのだろう。彼女は少し目をそらしながら、種明かしをしてくれた。


「あの、私がお暇をいただいていた三年間──我が父からは、侍女の修行とお伝えしたと思うのですが、ほんとうは、エリシャ様を影からお守りできるよう、アイゼン流の(シノビ)の技を継承する修行をしていたのです」

「えっ……? えーと、つまり……ミオリって、忍者なの?」

「そういうことになります」


 この世界でも、東方の島国に「忍者」が存在しているらしい。

 父のクラウスが東方文化を好んでいる影響もあり、そのへんは書物から得た知識でエリシャ(わたし)も知っていた。


 つまり、これから運命に対峙する私にとって、めちゃくちゃ頼りになるお姉ちゃんができたということになりそうだ。

 おそらくそれは、ゲームのエリシャ(わたし)が得ることのできなかった、最高の「味方」だろう。


「あ! その前にエリシャ様、お着替えを……」


 ──うん。ほんとうに頼りになる。

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