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06 最高の侍女

「エリシャ様ッ? どどどこか痛むのですか!?」


 涙を見て食い気味にカットインしてくる侍女さん。

 今までずっとエリシャ(わたし)のわがままに振り回されてきたのに、こんなにも案じてくれる彼女の名はミオリ・アイゼンというようだ。

 東方にルーツを持つ彼女の一族は、代々ダンケルハイト家に仕えてきた。


 すらりと背が高く、丈の長いスカートに白いエプロンを着用したいわゆるクラシカルメイド姿で、シルバーブロンドの髪をポニーテールにまとめている。

 顔立ちもきりりと凛々しくて、エリシャに負けず劣らずの美人さん。戦隊モノならピンクよりブルーになって欲しいタイプだ(つたわれ!)


 そんな彼女はエリシャ(わたし)より三つ年上で、物心ついた頃からずっとお世話係兼遊び相手として姉妹のように育てられてきた。

 五年前に母親が亡くなるまで、ずっとそうだった。そして母親を亡くした直後も、誰より傍に寄り添ってくれたのは彼女だった。


 しかし、それから間もなく彼女はエリシャ(わたし)の前から姿を消す。


 当時ダンケルハイト家の執事だったミオリの父からは、本人(ミオリ)たっての希望で侍女としての「修行」を受けているのだと伝えられた。

 そうして三年後、つまり今から二年前、完璧な侍女としてのスキルを身に付けて、彼女は帰ってきてくれた。


 そのときエリシャ(わたし)は心の底から嬉しかった。

 なのに、三年間ですっかり着込んでしまった心の鎧、自分と家名とを守るための壁が邪魔をして、それを素直に伝えることは出来なくなっていた。


「いいえ、どこも痛くはないの。ただ、嬉しくて」


 けれど、今の私ならちゃんと、本心を言える。


「いつも私のことを一番に考えてくれて、ほんとうにありがとう。ミオリのこと、最高の侍女だと思っています」


 それを聞いたミオリの切れ長の両目が、いっぱいに見開かれた。


「いままで言えなかったけど、私、あなたが戻ってきてくれてとても嬉しかった。ずっとお姉ちゃんみたいに思っていたから。だから、上手く伝えられない代わりにワガママ言って、甘えていたの」


 その両目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。


「私も……私もです! 私もエリシャ様のこと、ずっとずっと、だいす……た、大切に、妹みたいに想っていました!」


 か、かわいい。凛々しい美人が涙を流して顔をくしゃくしゃにしてこんなことを言ってきたら、同性と言えどキュンとしてしまう。


「ですが、私なぞが馴れ馴れしくしては、きっとエリシャ様のためにならない。私は身の回りのお世話さえできればじゅうぶん幸せでした。それ以上は、きっとご迷惑なのだと」

「そんなことない! また、姉妹みたいになりましょう」


 私の心底からの言葉に、彼女はへなへなと力が抜けたようにうずくまってしまい、エプロンに顔を埋め声を殺して泣き始めた。

 まさかの展開に、傍らにしゃがんで背中をさすりながらもらい泣きしそうになる私。……いやちょっと、昨日から涙腺がバカになってる気がしてきた。


「はっ、そうだ!」


 ひとしきり泣いてから、ミオリはやおら顔を上げた。


「ひとつ……差し出がましいことかと黙っていたのですが、やはりお伝えしておきたいことが……」


 彼女は、真剣な表情で私を見つめながら、言葉を続ける。


「ジブリール卿のことです」


 それこそが、私の運命(シナリオ)の鍵を握る男の名だった。

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