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49 四鎧将降臨

零星(レイジョォォ) 煌閃(ビィィィム)ッ!」


 額の紫水晶(サードアイ)から(ほとばし)る、私の身長と変わらぬ(ふとさ)光束(ビーム)が、魔鎧兵(レギオン)たちを呑み込んでいく。


 一体も逃さぬよう舞台上から見下ろす()()を巡らせ、会場中央を庭園の端まで掃討する。それは少なからず参列者たちも巻き込みながら、やがて細く収束して消えた。


「なんてことを!」


 声を荒げるリヒトの背を、よく見なさいと言いたげにマリカがぽんぽんと叩く。


 光を浴びた参列者たちは、驚き慌ててはいたが、無傷でそこに立っていた。

 ただ魔鎧兵(レギオン)たちだけが、まとっていた紅い装甲の大半を消し飛ばされ、紅い粒子の残滓をまといながら呆然と立ち尽くしている。

 ど真ん中で直撃を喰らった数人は、ほぼ下着姿だった。


 原型(オリシナル)より(・・)近い、上位魔紋による下位魔紋への干渉。


 これを突き詰め、魔鎧を自壊させる魔力照射(ビーム)としてお父様が作り上げた対魔鎧兵(レギオン)の切り札こそ、この「零星煌閃(レイジョービーム)」である。

 実際に魔鎧に対して使うのは初めてだったが、さきほどの魔力を込めた乱打(パンチ)の結果と、お父様への信頼から、効果があることは確信できていた。

 ただし、使用するには調整した魔力を事前に紫水晶(サードアイ)に充填する必要があるため、再充填しない限り、放てるのは一発だけだ。だからこそ、使うなら一網打尽を狙う必要があったのだ。


 丸腰で棒立ちの帝国兵に近衛騎士たちが素早く駆け寄り、手際よく取り押えていく。今日の会場警備の指揮統括はユーリイのはず。あとでたくさん褒めてあげなくては。


「マリカ、()()()()()?」


 そこで私は彼女に、とても漠然(ふわっ)とした問いかけをする。この襲撃に最速で気付いたのも彼女だった。聖女としての天啓じみた危機察知は、現状をどう見るのか。


「──まだ。これからが、本番っぽい」


 やっぱりそうか、と私はひとつ頷く。

 エリシャ( わたし )魔鎧兵(レギオン)に蹂躙される運命は、たった今ねじふせた。そしてここからが本番──「修正力」との戦いになるのだろう。


 半年前、私は「修正力」を前に、魔黒手甲(マガントレット)の強奪を防ぐことが出来なかった。だが、今日こそは守る。私はエリシャ( わたし )を守り切ってみせる。


 ──決意を固めて見上げた空に、待っていたかのように黒穴がひとつ開いた。


 そこから会場の中央に降り立ったのは、通常の魔鎧兵(レギオン)より鮮やかな真紅の装甲だった。その額には一角獣(ユニコーン)の如き一本角が屹立している。私は、その真紅(いろ)に見覚えがあった。


「ふぅ、やれやれ。まさか先行試整品(そんなもの)を隠していたとは。クラウスどのも、なかなかに食えない男ですね」


 そいつは大袈裟に肩をすくめながら、芝居がかった調子でのたまう。

 

「とは言え完成した試整壱型(プロトワン)改め、この華麗なる魔鎧将グレギオンの前に、そんな邪悪な外見(ルックス)では(やられ)役の運命しかなさそうですが」


 やはりあいつ──エリシャ( わたし )の破滅の元凶たる、変態魔学者(マッドマジニスト)ジブリールに違いない。


 試整壱型(プロトワン)試整零型(レイジョーガー)は、兄弟のようなもの。使用者限定を解除していないぶんこちらの方が原型魔紋(オリシナル)に近いけれど、干渉効果は期待しないほうがいいとお父様から助言を受けている。

 不完全だった装甲を補うような追加装甲と、魔鎧将(グレギオン)とかいう仰々しい名から、きっとそれなりの強化改造も施されていることだろう。──まあ、そのネーミングは嫌いじゃないけど。


 とにかく量産型(レギオン)とは別物と考えるべき。決して油断ならぬ相手だ。


「それにしても、避難が早すぎますね。もっとこう阿鼻叫喚の大虐殺を期待していたのに、あれだけの人数を一体どこへ隠したんです?」


 完全無視(だんまり)を決め込んだ私からの回答を諦めて、ぐるりと会場を見渡した彼は、その後方、庭園の端に目を停めた。

 そこでは、ちょうど逃げ遅れた数人がメラるんに先導されて、()()()()()()()に消えていくところだった。


「ほう、これは……あの地下迷宮(ダンジョン)を避難場所にしたか……」


 声のトーンが、急に変わった。おそらく、一瞬で私が瘴牛鬼(ミノタウロス)を倒したことまで理解し、警戒レベルを引き上げたのだろう。その明晰さも、やはり侮れない。


「いやあ、過剰戦力かと思いましたが、やはり全投入で正解だったようですね」

「──まだ来る。あと四か、五」


 ジブリールの言葉を受け、上空を見て呟くマリカ。それを追うように、続けざま開いた黒穴から、真紅の魔鎧が地響きを上げ降着していく。


試整弐型(プロトツー)参型(スリー)四型(フォー)伍型(ファイブ)


 自分を囲んでゆく彼らを、ジブリールは誇らしげにカウントしていった。

 額には番号(ナンバリング)と同じ本数で大小の角が生え、武装も異なっている。


 それぞれ、鋸刃(ギザギザ)の大剣を携える戦鬼型(ベルセルク)、巨大な戦槌(ハンマー)を引きずる重装型(ファランクス)、大鎌を担ぐ死神型(デス)、両腕が異様に巨大な獣人型(コング)──といったところか。

 私の思考に追随して、視界の中の彼らにも名札(タグ)が付与されていく。


「見たまえ、彼らこそグレギオン四鎧将(シガイショウ)! 恐れ入ったかな!」


 フハハハと言い放ち高笑いをはじめた彼を、私は冷めた目で見つめながら。


「聞いてリヒト先輩、いいえ──」


 そう呼びかける。(リヒト)が未だ私──レイジョーガーに猜疑心を抱いていることはわかっている。しかしここからはきっと、彼の力が必要になる。


「──ミハイル王子」

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