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48 閃光、ほとばしる

「──仮面舞踏会(マスカレイド)開宴(はじまり)よ」


 私の宣言を聞き、さらに後ずさる魔鎧兵(レギオン)たち。

 きっと彼らは、今日の任務を容易いものだと思っていたことだろう。対抗手段のない最強の魔鎧の力で、祭りに浮かれた王城を奇襲し、蹂躙し、制圧する。

 そのはずだったのに。


「……ッ……怯むなっ!」


 絞り出すように、兵長が檄を飛ばした。


「ジブリール殿の言葉を思い出せ、我らが魔鎧兵(レギオン)は最強だ! それを贋物(ニセモノ)に思い知らせるッ!」


 同時に四方の魔鎧兵(レギオン)から攻撃予測線(レッドライン)が入り乱れて殺到する。その表示速度と正確性は、明らかに以前より増していた。

 なぜならそれらを統括する額の紫水晶(サードアイ)が、()()()()()()()()()()()()()へと換装されているから。


「──あら、こちらのほうが神遺物(ホンモノ)に近くてよ?」


 両サイドから挟撃する紅い拳を、それぞれの手首を掴んで止める。私の黒く鋭い魔爪が、紅い装甲に喰い込む。


 二人の魔鎧兵(とのがた)の腕を掴んでそのまま、私は宮廷舞踏(ダンス)を舞うようにくるりと(まわ)った。


 そして、前後から迫っていた残り二体がその廻転(ターン)に巻き込まれた瞬間に、両腕を離すのだ。結果、二体ずつの魔鎧兵(レギオン)が手足をおかしな方向にねじ曲げながら絡み合って、左右に吹っ飛び地面を転がることになる。


「な……!?」


 眼前で四人の部下を瞬時に無力化され、呆然とする兵長。彼が状況を理解し切る前に、間合いを詰めて紅い鉄仮面が覆う頭部を右手で鷲掴みにした私は。


「くっ、離せバケモノッ!」


 両手で必死にそれを引き剥がそうとする兵長の、ご立派な金ラインが走る胸部装甲に──


「ダメでしょう、令嬢(レディ)にバケモノだなんて」


 ──込めた魔力の紫光を纏う、左拳の乱打を叩き込む!


(わたくし)の名はレイジョーガー、黒き魔鎧の魔戦士(ダークヒーロー)


 ボコボコに凹んだ胸部装甲が、その周辺から薄赤い光の粒子になって消滅していく。魔鎧が機能を失ったことで戦意喪失した兵長から、紅い兜を引き剥がし、顕わになった青年の怯え切った表情に、私は告げる。


「どうぞお見知りおき、くださいませ」


 あとは近衛騎士に任せればいいだろう。周囲の状況を把握すべく、私は額の第三の目(サードアイ)に意識を集中する。

 そこに新たに埋め込まれているのは、私が五歳の誕生日から肌身離さず身に着けてきたお母様の形見──魔力制約器(リミッター)だった紫水晶。お父様の手で魔紋を書き換え、魔力制御器(プロセッサー)に作り変えた「オマモリ」だ。


 ──()()()()()()()()()()()()()への換装、とはつまりそういうこと。


 そして視界に浮かぶ様々な情報。敵味方の数と位置関係、行動予測が半透明の3Dモデルとして投影される。パニックにまで到ってはいないが、参列者たちの避難はあまり上手く運んではいないようだ。


 マリカとリヒトは舞台上、その奥には王妃様もいる。

 マリカは()()()()()だから言うまでもないが、王子も王妃も同様に、民を差し置いて避難するようなことはしないだろう。パラディウム王国にも高貴さの義務ノブレス・オブリージュが根付いているから。


 ならば、侯爵令嬢(わたし)の行くべき場所はひとつ。


 身を屈め、両手を地面に着けた私は、クラウチングスタートのように大地を蹴る。ただしダッシュではなく、上空への跳躍──の頂点から、両肩紫炎噴射(ショルダージェット)による高速落下で、舞台上に三点着地を決めていた。


「貴公は──!」


 魔鎧兵(レギオン)と同様に上空から着地した、なおかつ一度こっぴどくやられた相手である私に、リヒトが当然の敵意と聖剣の切っ先とを向けてくる。


「待ってたよ、エリオットくん」


 対するマリカは(リヒト)の背後から身を乗り出し、来るのが当然と言わんばかりだ。その動きのせいで、リヒトは下手にこちらを攻撃することもできない。──聖女様に感謝。


 そして、会場に背を向けた恰好で屈んでいた私は、ゆらりと立ち上がりながら振り向いた。

 参列者は約百人と聞いている。対して第一陣の魔鎧兵(レギオン)は、兵長用一体と通常型四体からなる五体編成の五部隊、計二十五人。──うち五体は、たったいま私が瞬殺した。


「落ち着くのです、パラディウムの民よ」


 鋭い牙並ぶ(あぎと)が意匠された口部(マスク)に、搭載した魔紋式拡声装置(スピーカー)から会場全体へと私の声が響き渡る。 


「そして、よく聞きなさい」


 魔力で増幅した音声には当然、魔力が乗る。

 この半年でさらに磨き上げた魔力に伴って、強まった威光(オーラ)求心力(カリスマ)を両翼に、エリシャ(わたし)雄弁(ことば)はここにいる全員の心に届くだろう。


 私は、右手に掴んできた魔鎧兵(レギオン)の兜を、高々と頭上に掲げた。所々から紅い光の粒子を血のように(こぼ)すそれを、まるで獲ってきた生首(くび)のように。


 その姿は、さぞや恐ろしく、忌まわしく映ることだろう。

 それでいい。ダークヒーローが大好きな私は、よく知っている。

 向けられる畏怖が大きければ大きいほど、深ければ深いほど──


「魔戦士ダンケルハイトの御名のもと──王国に仇なす者どもは、このレイジョーガーが討ち砕く!」


 ──味方になった時、最強に心強いということを。


 そして私は魔鎧兵(レギオン)(くび)に、魔力を込めた黒爪を喰い込ませ、ぐしゃりと握り潰した。粒子化が一気に進み、それは紅い花が散るように、舞台上で霧散していた。

 低い歓声が、ざわめきのように会場を包む。


「だから落ち着いて、この子たちの誘導に従いなさい」


 集まる視線のなか、たったいま敵を砕いた手で指し示した先には、いつの間にかふわふわと白く光る球体がいくつか浮かんでいる。

 その真下、舞台の前方で魔杖を掲げるラファエルが生み出した、メラるんたちだ。しかも彼らは事前に会場中のテーブル下に潜んでいて、このタイミングでラファエルの命を受け、一斉に活動を開始したのだ。参列者たちを、避難場所に導くために。


 そして、これで魔鎧兵(かれら)は私を最優先の排除目標にせざるを得ないだろう。案の定、全員の行動予測がこの舞台上に向かっていた。最初に吹っ飛ばした四体のうち二体も復活し、その動きに同調している。

 

「ダンケルハイト、だと……どういう、ことだ?」


 混乱しながらも、リヒトは剣の切っ先をゆっくりと降ろす。マリカはその背後(うしろ)で、微笑んでいるように見えた。

 彼女たちには騙していたことを謝らなければいけないだろう。でも、それは後の話だ。運命に打ち勝つことが出来たら、その後で土下座でもなんでもしよう。

 

 だから今は、舞台前方に集結しつつある二十体超の魔鎧兵(レギオン)たちを倒さねばならない。

 私は再び額の紫水晶(サードアイ)に意識を集中し、魔力制御器(プロセッサー)機能(モード)を、情報収集(サーチ)から殲滅(デストロイ)に切り替えていた。

 そして両手を左右からそれぞれ、額に指先そえるように構える。


零星──(レイジョォォォ)


 さあ! 一網打尽にしてあげる!


──煌閃(ビィィィム)ッ!」


 紫水晶(サードアイ)(はげ)しく輝き、そこから紫光(ひかり)の束が(ほとばし)っていた。

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