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46 仮面舞踏会【前篇】

 聖騎士任命式典。


 王国に(わざわい)が降りかかるとき、これを払うため顕現するという「聖女」。

 それは建国三英雄のひとり、聖女ミレイアの生まれ変わりとされる。


 前回の顕現は百年ほど前、辺境で魔物(マモノ)が異常発生し王都を目指した大侵攻(インベイジョン)のときだ。


 聖女は強力な聖魔紋の使い手にして、人格(こころ)でも人々を照らすとされている。

 しかしその力は元来、護りと癒しに特化したもの。その中で唯一にして最強の「攻撃」の力が、聖女ミレイアが聖騎士パラディオンに授けた逸話で知られる「絶聖(ゼッセイ)の加護」だ。


 百年前の大侵攻(インベイジョン)も、一騎当千のその加護(ちから)を与えられた青年が元凶である大瘴獣(ベヒーモス)を討つことで終息したと伝えられている。


 ただし、加護(それ)は誰でも授かることができるものではない。聖女と心が通じ合っていなくては──要するに「愛し合っていなくてはならない」と、まあ実際の、厳密な法則性は誰にもわからないのだけど、基本そういうことになっている。


 で、有事に備えてその加護を受ける「聖騎士」を選んでおくのがまさに、いま王国を挙げて執り行われている聖騎士任命式典なのである。たしかに、いざという時そんな惚れた腫れたの話をやってる場合ではないから、理屈はわかる。


 つまりだ。聖女は公衆の面前で、聖騎士になってほしい人の名前を宣言(こくはく)させられる。相手がそれを承諾すれば、晴れて当代の聖騎士が誕生する、というわけだ。

 よく考えると罰ゲームみたいな儀式だけど、マリカ本人は楽しみにしていたようだから、まあ、いいのかな。


 で、現実(あちら)の世界から見た「ゲーム」としてもそれが最終イベントになるはず。あまり想定していなかったけど、もしかして断られたりすることもあるのだろうか。そうなったら最悪のバッドエンドになってしまうのかも知れない。


 ──色々と複雑ではあるけれど、今は主人公(マリカ)を応援するしかない。


 かくいう私は、王城の大庭園に設置されたいくつものテーブルセットのひとつに、いつもと同じ紫の、ただしいつもより豪奢な典礼用のドレスを身にまとい腰かけていた。──これ()、お母様から受け継いだもの。


 抜けるような晴天の下、白砂利の敷き詰められた会場前方に(しつら)えられたのは、さらに純白の舞台(ステージ)

 その上に、空と同じ(いろ)の法衣に身を包んだマリカの姿があった。栗色の髪を今日はいつもの二つ結びではなく、まっすぐ(ストレート)に流して背の半ばでひと房にまとめている。


 なんだか本物の聖女っぽい、そう本人に言ったら大笑いしていた。ほんとに、いい子。だから、彼女にも幸せになってほしい。誰を「聖騎士」に選ぶとしても。

 

「──さあ、聖女マリカよ。騎士の名を」


 彼女の傍らで、長い白髭をたくわえた高位神官が促す。

 舞台下からは、数人の候補者たちが横並びでマリカを見上げていた。

 白い礼服が似合い過ぎるほど似合うリヒトは、もちろん最有力候補。その傍らにはラファエルの姿も見えた。さすがにユーリイはいないが、端の方には黒いジンくんの姿もある。

 ここにジブリールも並ぶ可能性があったということに、漏れそうになる苦笑を私は必死に噛み殺した。


 マリカは、そのひとりひとりに順に、丁寧に目を合わせていく。リヒトのときだけ少し時間が長かったように感じられたのは、エリシャ( わたし )の思い込みだろうか。


 最後に彼女は、空を見上げる。もう、心は決まっているはず。しかし、彼女はなかなか口を開かなかった。視線を上に向けたまま、すこし首をかしげる。

 釣られて候補者も列席者もみなが見上げた青空。悠然と飛ぶ一羽の鳥の傍らに、黒い()が浮かんでいた。

 

 ──来た。


 黒点はなめらかに拡がって、黒円になる。そして、真昼の青空に口を開けた、そこだけ夜空に繋がるかのような黒い穴の向こう側から。


「……あれは、何かしら?」


 誰かの疑問に応えるように、紅い何かが産み落とされて会場のど真ん中に落下した。

 響く破壊音と悲鳴のなかテーブルの残骸の上に立つのは、血のような紅色の鎧姿。


 ジブリールの試整壱型(プロトワン)は、ところどころ魔紋がむき出しだったが、これは全身が紅の装甲と素体(スーツ)で覆われている。間違いない、私がこの世界に来る直前、アニメで見たスマートな帝国兵の魔鎧、そのものだ。


 お父様いわく、設計段階でジブリールは量産型(マスプロ)をこう呼んでいたという。


 ──魔鎧兵(レギオン)

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