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40 託された想い

【視点切替】エリシャ ◀ ミオリ

「アリオスという名前は卒業生名簿にいくつか載っているけど、どれも特筆するところのある生徒じゃない」


 第三区郭安息地点(セーフポイント)の壁に据え付けられた銀の通信機(コップ)から、響く声の主はユーリイ・パラディオン──第三王子にしてエリシャ(わたし)婚約者(フィアンセ)、そしてこのダンジョン探索の起案者でもある策士(キレもの)だ。


 ちなみに、能ある鷹的に爪を隠しすぎたせいか、当の婚約者(エリシャ)からは嫌われている。

 衿沙(おねえさん)としては、けっこう可愛いと思うんだけど。


「それよりも、卒業生名簿に載ってないこっちが気になる。アリオス・フレイザー、長い学園の歴史上でも最高ランクの秀才にして、最強クラスの戦士でもあったという、文武両道の極みみたいな(やつ)だ」


 第二区郭からの連絡時に実兄(ラファエル)より依頼された調査を、彼は見事にこなしてくれていた。

 第三区郭道中には魔物(ザコ)もほとんどおらず、ボスも存在しなかったため、けっこうな短時間攻略だったはずだが。


 ちなみに、ボス不在(そのへん)については先行する影狐(カゲコ)達からの報告の共有で、再配置(リポップ)が間に合わないから、ということがわかっていた。

 道中(ザコ)についても同様なのだろう。

 つまり迷宮の魔物は、常に際限なく湧きつづけられるわけではないということ。


「このアリオスくん、記録では卒業直前に自主退学したことになっているんだが、それほどの俊英にも関わらず以降の足跡が王国のどこにも見当たらない。──それが約三十年前、事故が起きて迷宮が封印されたという時期と重なる」


 ──なるほど、話がつながってきた。


「そして今、迷宮の主を自称する存在(もの)が彼と同じ名前を名乗っている、というわけだね」

「ああ。繋がりがないとは、考えずらいな。……それと兄貴、こちらからもひとつ確認しておきたいことがあるんだが」


 ラファエルの総括(まとめ)を肯定して一息つくと、彼はこちらに問いかけてきた。

 ここまでの流暢さとは打って変わって、ところどころ口ごもりながら。


「……その、そっちにあいつ……エリシャが居たりなんてことは、ないよな?」


 さすがはユーリイ(キレもの)、鋭い。


「仮面をつけた忍者っぽい女生徒と、見たことのない美少年が同行したって、魔学専攻の女生徒(せんぱい)が目にハート浮かべながら言ってるんだが、それって……」


 苦笑を浮かべた私の視線を、穏やかな微笑みで返しつつ、ラファエルは弟に答える。


「まさか、いるわけないじゃないですか。きみが婚約者( あのこ )を大好きなのはわかりますが、心配しすぎですよ。いま僕と一緒にいるのは、とても頼れる戦士の少年です」


 第二区郭を踏破する間に、私はラファエルに全てを話していた。

 彼は何の疑問も挟まずそれを受け入れて、出来る限りの協力を約束してくれた。

 あ、さすがに転生とかゲームとかの話は省いてある。

 そのへんに後ろめたさはあったけど、しかたないよね……。


 ちなみに、私がエリシャであることは、魔術士としての魔力感知能力によって初対面の時点でだいたいわかっていたという。なんか恥ずかしい。

 それって魔術士相手ならバレバレということ? と焦ったけど、先日校内ですれ違った際に私の魔力が急成長していたことに驚いて、気に留めていたらしい。

 そもそもラファエルほど高い精度の魔力解析ができる魔術士は限られているということなので、まずは一安心だ。


「…………そうか。兄貴がそう言うなら、そう思っておくべきなんだろうな。……あとは、ボスの再配置(リポップ)間隔についてだが」


 すこしの沈黙の後、ユーリイはいろいろ飲み込むように、次の話題に移った。

 彼専属の忍びであるジン君が迷宮に単身潜入し、追加調査してくれているらしい。


 そして様々な情報と事実と推察から、私たちは新たな方針を決めた。

 すなわち、ボスの再配置(リポップ)前に私が単身で最深部まで駆け抜ける、というものだ。

 魔力の配分さえ誤らなければ、紐状素体(ワイヤードスーツ)の補助とエリシャ( わたし )の体力で充分に可能だというのが、ラファエルの見立てだった。

 また、彼の魔杖(マジョウ)には魔力を他者に譲渡する特殊な術の魔紋も刻まれている。

 これを使って残りの魔力を私に託し、彼自身は安息地点(セーフポイント)に待機する、というわけだ。


 その決断に至ったのは、影狐からの伝言にあったアリオスの「ミノタウロスには絶対に勝てない」という言葉があったから。

 アリオスが()()というのなら、それなりの根拠あっての言葉だろう。

 そしてラファエルが心配しているのは、先行パーティを率いるリヒトが「退く」という選択肢を()()()()()()()タイプだから。


 ──かくして。


 ラファエルの「お願いします」という一言と微笑に送り出された私は、影狐の付けてくれた目印を頼りに迷宮を駆け抜け、最深部まで辿り着いたのだ。


 先行パーティの面々の「リヒトを助けて」という声を背に受け、途中ですれちがった影狐に心の中で(ねぎら)いの言葉をかけながら、()()()()()()()という言葉を全力で肯定したくなる瘴牛鬼(そいつ)の威容を見上げる。


 うん、さすがに巨大(でか)すぎて、客観(オタク)視点の余裕もない。

 そもそもこれは等身ヒーローではなく、相応に超巨大(ウルトラ)な存在が対峙すべき怪獣(しろもの)だろう。

 けれど、(すく)みそうな足を止めるわけにはいかない。

 左手に握った仄かな温もりを──ラファエルから託された小さく白い魔力塊(メラるん)を胸の真んなかに押し当てる。


 瞬間、凝縮された膨大な魔力が、彼の信頼(おもい)と共に全身に流れ込んできた。

 私は信頼(それ)に、応えなくちゃいけないから。


 「纏装(てんそう)──!」


 右腕を掲げて叫んだ。

 天より(せま)る隕石の如き巨拳に晒されたマリカと、ラファエルの実兄たるリヒト(ミハイル)を守るため──


「レイジョーガー!」


 ──託された魔力(おもい)を黒き魔鎧(マガイ)に変えて!

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