表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/71

28 緊急事態

 エリシャが敢えて悪役令嬢を演じていた、ということは理解した。


 そうだとして、今の私は同じことをするべきだろうか。

 だって、自分だけを悪者に──犠牲にするなんて、結局あの悲劇的結末(バッドエンド)となにも変わらないじゃないか。

 

 ──ねえ、エリシャ。私達(ふたり)でもっと良いやり方を、探そう?


 私は自分の中にそう語りかけて、それから口を開いた。


「……そうね……すこし、やり方を変えてみようと思っていたの」

「ふうん? それは、どんなふうに」

「まだ考えてるところ。ただ、ひとつお願いがあって」


 (いぶか)しげに問いを返すユーリイの目を、まっすぐに見つめ。


「あなたにも、手伝ってほしい」


 そう訴えかけた。これは、賭けだった。


 ここまでのやりとりで、どうやら(ユーリイ)がエリシャを大好きだということはだいたいわかった。

 エリシャとしてはあまり認めたくないようだが、衿沙(おねえ)さんの目は誤魔化せないぞ。だからこそ、彼はエリシャの変化を敏感に感じ取って、別人とまで言い切ったのだろう。


「……えっ……」


 意表を突かれて固まる彼。まさかエリシャが──誰のことも信じない孤高の彼女が、自分に頼ってくるなどありえないと思っていたことだろう。


 彼はそのことを、別人だからと受け取るのか、それとも。


「……俺に、なにをしろって言うんだ? いや、まだ君をエリシャと認めたわけじゃない……けどまあ、話ぐらいは聞いておいても、いいだろう……」


 急に眼を泳がせながら、言い訳じみた言葉をもごもごと口にする。──そう、別人と受け取るか、それとも大好きなひとに頼られた嬉しさが勝るか、という賭け。


 結果は少なくとも、私の大敗けはなさそうだ。


「だから、それはもう少し考えさせて。けどあなたが協力してくれるなら、きっとうまくできると思うの」


 言って、ふわりと微笑んで見せる。それは心の底から、エリシャと衿沙の総意だった。

 第三王子であり、頭も切れる彼が味方になってくれるなら、これほど心強いことはない。


「……ああ……わかったよ。まだきみを、エリシャと認めたわけじゃないが」


 すこし私の微笑(かお)に見惚れてから、彼は言った。そしてふと思い出したように手をぽんと叩き、言葉を続ける。


「それともうひとつ。きみのお父様の話だ」


 言われてみれば、もともとそれで呼び出されたのだった。

 一難去ってまた一難か……と私が内心で頭を抱えかけたとき、唐突に、教室の外から何やら喧騒(ざわめき)が聞こえはじめる。

 数人が廊下を走っていく足音がして、私は驚いてそちらに目を向けた。

 それは本来、厳格な校則のもと絶対に禁じられている行為である。


 どうやら、何らかの非常事態が起きているようだ。


『エリシャ様。外から聞こえる声を拾ったのですが』


 姿なきミオリの囁き声が、耳元にそう告げる。


 つい先日、彼女のこういった遠聞・遠話は「風話(かざはな)」という忍術だと教えてもらったばかりだ。

 で、そもそも忍術とは何かと言えば、忍道具と呼ばれる専用の魔具(マグ)とその使用技術をまとめて体系化したもの──と、ここまでは話してくれたのだが、それ以上は門外不出とのこと。


『学園内に複数の魔物(マモノ)が出現したようです』


「──なんですって?!」


 想像以上のありえない話に、私は思わず声に出して聞き返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ