24 騎士の名は
特撮オタクは考察好きが多い。あくまで体感だけれど。
これは平成にTV放送を開始した特撮番組、とりわけ日曜朝枠で放送される作品群が、その一年間に渡る大河性ゆえか、シナリオ上に謎を残して視聴者の興味を持続させる作りをしてきたことに起因する──と、私は考察している。
そんなわけで私も、考察大好き系特撮オタクである。
たとえばもともとの人生では、一昨日の地下室に私とミオリは介入しておらず、魔黒手甲はあっさり帝国の手に渡っていたと考えられる。
それを変えようとする行動に対して、ジブリールの試整壱型にアズライルの擬神化という二段構えの対策がなされた。
このことから、どうやら決められた筋書きを覆そうとすれば、それに応じた抵抗力が発生するようだ。
タイムスリップものの作品に登場する「修正力」というものだろう。
今の私は、あの式典時の襲撃に対抗する魔鎧をすでに手にしている。
であれば、以降は基本的に運命に逆らわず、イレギュラーな「修正力」を発生させて状況を必要以上に悪化させることのないよう、無難に運命の日を迎え撃つ準備を整えるべきなのだろう。
……なのだろう……。
しかし、魔物に襲われている村を、救うための力を持ちながら見過ごすことなどできるわけがない。
結果として聖女とメイン攻略対象の出会いを妨害することになるとしても、譲れない。それが、私が推しから学んだ正義だ。
眼前で剣の切っ先を突きつけるリヒト・グランツ。
年齢はエリシャの三つ上、十八歳になるはず。
王立学園の先輩に当たり、その成績は群を抜いての主席である。
そこで私がふと思い出した、なにげない奈津美との会話。
「このリヒトくんがメインの攻略対象なんだけどね、実は身分を隠し騎士として民を守っている王国の第一王子、ミハイル・パラディオンさまなわけ! ちなみに、私の推しね!」
「へえー、そうなんだねー」
おそらくけっこうなネタばらしを堂々としてくるのは、どうせ私が遊ぶ気がないと思っていたからなんだろうな……。
しかし瞬間、その記憶に私、というか私の中のエリシャが、激しく驚愕する。それはもうめちゃくちゃに、動揺していた。
「──ミハイル王子っ!?」
そして堪え切れず、その名を口からこぼしてしまう。
だが、それも無理からずや。
あれはエリシャがはじめて王城を訪れた日。
両親とはぐれてしまい、入り組んだ薄暗い廊下のつきあたりで泣きじゃくる幼い彼女を見つけてくれた、優しくて儚げな男の子。
彼は泣き止まない彼女の手を引いて、根気よく慰めの言葉をかけながら、謁見の間まで連れていってくれたのだった。
『だいじょうぶ、ぼくがきみの騎士になって、お守りするからね』
……そう。どうやら第一王子ミハイルは、エリシャの幼いころの、仄かな初恋の相手だったらしい。
それが、実は面識のある先輩だった。
その衝撃たるやジブリールの年齢問題の比ではないだろう。
「貴公──何故その名を?」
しかし事態はこちらの事情を酌んでくれるはずもなく、さらに面倒な方向へ、転がりはじめていた。




