表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/71

16 ふたたびの朝

 朝の気配に目覚めた私は、見慣れた1DKのアパートのシングルベッド……ではなくて、豪奢(ゴージャス)なお部屋の天蓋つきベッドに、一人で寝ていた。


 ──夢オチじゃ、なかった。


 私は安堵(ほっと)していた。

 衿沙(わたし)はとっくにエリシャ( わたし )と運命を共にする覚悟ができている。

 だから途中下車したいとは思わないし、最後まで見届けたいという気持ちの方が強い。

 そのことを、改めて自覚できた。


 一年間に渡って放送される日曜朝の特撮も、中弛みしようが推しが退場しようが最後まで付き合うのが、私の特撮オタクとしての矜持(プライド)だもの。


 ああでもそう言えば、そろそろ中盤で油の乗ってきたあれや、まだはじまったばかりの新鮮なそれや、あとあれの劇場版もあるし……。

 うん、エリシャの無事を見届けた後、現世(むこう)に戻って特撮(そっち)もぜんぶ見届けられたら言うことなしなのだけど、それはさすがにご都合主義だろうか。


「エリシャ様っ!? お目覚めになられたのですね!」

「あ、ミオリ。ええと、おはよう」


 そんなことを考えながら目覚めたので、ベッド傍らの椅子に思いつめた表情で腰掛けていたミオリに少しばつの悪さを覚えつつ、朝の挨拶をする。

 覆いかぶさらんばかりの勢いで私の顔を覗き込んできた彼女は、至近距離で目が合った瞬間「ししし失礼いたしました」と高速でベッドから遠ざかっていく。


「ごめんなさい、心配かけたみたい」

「はい、あ、そんなことはないのでどうか謝らないでください、いえもちろんご心配はいたしておりましたが、でもそれは私が自分勝手にしていたことで……」

「そうだ、ミオリの紅茶が飲みたいな」

「──っ! はいっ! お待ちください、いますぐに!」


 そそくさ部屋を出ていく彼女はすごく嬉しそうで、私まで嬉しい気持ちになっていた。


 もちろん、忘れてはいない。

 魔黒手甲(マガントレット)研究資料(データ)も奪われて、破滅に向かう運命はなにも変えられていない。

 なんなら加速させた可能性さえある。悠長に構えていられる状況ではないのだ。

 けれど、きっと息抜きも必要だと私は思うの。


「エリシャ、入ってもいいかな」


 ──と、ミオリと入れ替わるように、入口のドアから父・クラウスの声が聞こえた。


 ダンケルハイト家現当主、クラウス・ダンケルハイト侯爵。

 白髪混じり(ロマンスグレイ)に金縁の丸メガネが上品で、顔立ちに知性と人の好さが(にじ)み出るなかなかの好紳士(イケオジ)だ。

 わりと好みかもしれない……と、そういう思考をしようとするとたちまち私の中のエリシャ( わたし )がものすごい勢いでブレーキをかけてくる。

 まあ、そりゃそうだよね。


「もちろんですお父様。どうぞお入りくださ──ッ、痛たた」


 答えながら上体を起こした私は、全身を襲うすさまじい痛みに顔をしかめながら、いまだ両手に握ったままだった紫水晶(オマモリ)と謎の魔具(マグ)をベッドの上に取り落としていた。


「だっ大丈夫かい!?」


 血相を変えて飛び込んできた父は、ベッドの上に転がる紫水晶(アメジスト)を目にするや、その場で崩れ落ちるように床に跪いてしまうのだった。


「ああ、本当に僕はなんて愚かなことをしてしまったんだ。エリーゼに──きみの母さんに何て謝ればいいのか!」


 そこから洪水のように溢れ出したお父様の謝罪の言葉は、何を言っても止まる気配がなく。


「それはそうとお父様、これが何かおわかりですか!?」


 このままでは溺れてしまうと、藁にもすがる気持ちで私は紫水晶(アメジスト)の横から例の謎魔具を拾い上げ、憔悴し切った顔の前に突きつける。


「こ、これは……」


 見開かれた彼の目の奥に、光が宿った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ