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雨の日の出会い

詫びぬれば 今はた同じ 難波なる

みをつくしても 逢はんとぞ思う

ーーーーーーーーーーーー


耳に入ってきた、思いの外近くで響いた雷鳴に驚いて本から目を離す。枝の隙間から見える、重い曇天。初夏の空は変わりやすい。


大粒の雨が地面を濡らし始めた。しまった、大学を出るときに傘を忘れてきた。

今日に限って図書館に立ち寄ってしまったので、鞄が雨に濡れたらまずい。


「もしよかったら、駅までご一緒しませんか?」

遠慮がちに申し出る声に顔を上げると、同じ年ぐらいの女性が立っていた。

突然の提案に驚き、一瞬言葉が詰まったが、僕はその女性の厚意に甘えることにした。


彼女は同じ大学に通う、僕の一個下で3年生だった。名前は「水原透子(とうこ)」。

僕は彼女のことを知らなかったが、彼女は僕の将棋サークルのファンで、僕のことを知っていた。


頭上に広がる雲の中で雷が光った。彼女の方を見ると、僕が濡れないように、傘を傾けてくれている。僕の方が背が高いから、細い腕が辛そうだ。

「傘、僕が持ちますよ。気付かなくてすみません」

「いえ、大丈夫です。私、」

そう言いかけて、彼女は僕をチラッと見てすぐに目線を落とした。

「どうかしましたか?」

「いえ、あの、私…。高梨さんと一緒に歩いてるだけで嬉しいので、なので、このままで充分です」

心なしか彼女の耳が赤く染まっていて、なんだか心臓の音まで聞こえてきそうなくらい緊張が伝わってきた。

「それなら、僕が傘を持ちます。声をかけてくれて、嬉しかったです。助かりました」

彼女に少し見栄を張りたくなった。

「…ありがとうございます」

「僕の方こそ」


1つの傘に男女が二人。周りから、僕らは恋人にでも見えるのだろうか。

傘に当たる雨音は外の世界から僕らを守っているような気がして、ここに二人だけの世界があるみたいだ。


「高梨さん、将棋の本を読んでいたんですか?」

雨音に負けないようにか、大きめの声で彼女は問いかけた。

「いえ、人工知能に関する本を」

「本当に?私、AIビジネスを専攻してるんですよ!」

彼女は目を輝かせながら最新の将棋ソフトについて語ってくれた。僕自身も先日、師匠からAI将棋が自分の戦術の見直しに役立つと聞いていたので、彼女の話は興味深かった。

「ご迷惑でなければ、連絡先を交換しませんか?高梨さんの将棋の研究に役立てるかも」

「是非、お願いします」

連絡先を交換して、嬉しそうにホームの階段を降りていく彼女の姿を見送り、僕も改札に向かった。

電車に乗り込むと、既に水原さんからおすすめのAI将棋ソフトと本のURLが送られてきた。

『今日は、ありがとうございました。興味があれば、試してみてください。水原』


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