第93話 キマイラ
記念すべき地下十階層に到達した俺は周りを見渡した。
「部屋の造りはこれまでと大して変わらないな」
地下十階層だからといって取り立てて変わった様子はない。
しいて言えばこれまでよりも天井が少し高いくらいだが気にするほどでもない。
俺は通路へと進んでいく。
前後を確認しながら慎重に歩いていると前方から『シャアァー!』『オオォーン!』と妙な鳴き声が入り混じって聞こえてきた。
目を凝らすと何かが近付いてきているのが見えた。
「マツイさん、キマイラですっ。気をつけてくださいっ」
「お、おう!」
俺は白夜の剣を構えると態勢を低くする。
キマイラはものすごいスピードで宙を飛んできた。
そしてそのまま俺の頭上を過ぎ去っていく。
振り返るとキマイラは旋回し今度は俺めがけて向かってきた。
俺はここでようやくキマイラを正面にとらえた。
キマイラはライオンと蛇とおそらくヤギの三つ首を持ったモンスターだった。
『オオォーン!』
「ぐっ!」
ライオンの顔がかみつこうと大きな口を開けて襲い掛かってくる。
俺はそれを剣で受けた。
重い突進力。これまでのフロアボスクラスの威圧感と迫力がある。
ライオンの顔を受けていると蛇の顔が口を開け俺の右腕に食らいついた。
「ぐあっ!」
俺はたまらず右腕を引きキマイラを前蹴りで蹴り飛ばす。
急激に気分が悪くなった。
多分蛇の顔は毒を持っているのだろう。
「キュア……!」
俺は解毒魔法で体調を整えると再び向かってくるキマイラを思いきり斬りつけた。
『シャアァー……!』
蛇の顔に剣が刺さりそのままの勢いで振り抜くと蛇の首が石畳の上に落ちた。
びくんびくんと斬り落とした首が動いている。
二首になったキマイラだが倒れることはなく俺から距離を取った。
そしてヤギの顔が口を開いた。
『メエェ~!』
ヤギが声を発すると今度は強烈な眠気が襲ってきた。
「うっ……なんだこれ……?」
「マツイさんっ、キマイラの催眠攻撃ですっ。寝ちゃ駄目ですよっ!」
「さ、催眠……」
寝たらまずい……。
だがまぶたが重くなり自然と目が閉じてきてしまう……。
『メエェ~!』
「くそっ……ぐあぁっ……!」
俺は自分で自分の左腕を刺すと痛みで眠気を必死にこらえる。
そして一足飛びでキマイラのもとに詰め寄りヤギの首をはねた。
ごろごろと地面に転がる首。
「さ、さあ、残るはお前だけだぞっ」
『オオォーン!』
ライオンの顔だけを残したキマイラが宙へ舞い上がるとダンジョン内を疾走してからUターンして俺に飛び掛かってきた。
「ぐぬっ……」
白夜の剣で受け止める。
「……お前、さっきよりパワーもスピードも落ちてるな」
首が一つになったからかキマイラはパワーダウンしていた。
俺は力を込め押し返すと「おりゃーっ!」ライオンの首ごとキマイラの胴体を一刀両断にしてみせた。
どさっとキマイラだった残骸が地面に落ち泡状になって消滅していく。
「はあぁっ……はあっ……」
「やったマツイさん、キマイラを倒しましたよー!」
ククリが笑顔で飛んでくる。
「はあっ、しんどい……」
まるでフロアボスを相手にしているかのような戦いだった。
「あっ、マツイさん首元が光ってますっ」
首の後ろにはレベルが刻まれている。
つまりレベルが上がったということか。
「……キマイラって経験値が高いのか?」
「はいそれはもうフロアボス並みに高いです」
「そうか」
まあそれぐらい高くないと割に合わないからな。
「……にしても蛇のやつはあれ毒持ってるだろ」
「はい」
「それからヤギみたいなやつは眠らせようとしてきたぞ」
「はい、催眠攻撃です」
「俺さ、そういう情報は事前に教えといてほしいって言わなかったか?」
「う~、言ったかもです」
「言ったよ。頼むよマジでっ。俺さっき眠ってたら殺されてたかもしれないんだぞ」
「すいません、忘れてました。えへへ」
照れたように上目遣いで俺を見てくるククリ。
……一番の敵はククリかもしれない。
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