第79話 地下六階層
快眠枕の効果は絶大だった。
たった十分の睡眠で一日分の疲れがとれ眠気も完全に吹き飛んだのだ。
それだけではなくすっからかんだった魔力も全回復した。
ククリが言うように八時間寝たのと同じ睡眠効果が出たようだった。
俺は万全の状態で自身初となる地下六階層へと下りていく。
◇ ◇ ◇
地下六階層。
「この階層にはバットというモンスターが出ますけどこれまでのモンスターに比べると見劣りすると思います」
ククリが言う。
「見劣りするってどういうことだ?」
「実際に遭えばわかりますよ」
「ふーん……」
俺は特にそれ以上は訊かなかった。
というのも目の前に宝箱が三つも並んでいたからだ。
小走りで近付くと魔眼の透視能力で中を確認。
一つの中には飛び出す剣山のような仕掛けがあり、あとの二つの中にはそれぞれ先端に布の巻かれた棒と草が入っていた。
俺は罠以外の宝箱の二つを開け中からたいまつと目薬草を取り出す。
「これ、たいまつか……初めて見た」
「このダンジョンでは意外と重要アイテムなんですけどね、今まで出なかったのが不思議なくらいです。まあマツイさんは魔眼持ちなので必要はないですね」
「そうだな」
魔眼の暗視能力のおかげで俺にはダンジョンの中は明かりがついたようにはっきりと見えている。
「そっちの目薬草は食べれば二十四時間どんな暗いところでもばっちりなんですけどそれもやっぱりマツイさんには必要ないですね」
とククリ。
「売るといくらなんだ?」
「たいまつが千円で目薬草が三百円です」
「なんか微妙だな……」
と言いつつ俺は皮の袋の隙間にたいまつと目薬草を滑り込ませた。
ベアさんに会えたらさっさと売ってしまおう。
まさかこの階層のアイテムはこれだけじゃないよなと一抹の不安を抱えつつ俺は部屋を抜け出た。
細長い通路を歩いていくと前から『キー! キー!』と甲高い鳴き声が響いてくる。
こっちに近付いてきているのだろう、その鳴き声は次第に大きくなっていく。
「マツイさん、バットですよっ」
ククリが声を発するより早く俺はその姿をとらえていた。
黒くて小さいモンスターがこっちに向かって飛んできている。
俺は鉄の槍を前に構えてモンスターが襲ってくるのを撃退しようとしていた。
のだが……。
「……あれ?」
バットは俺など見えていないかのように俺の頭上をそのまま通過していってしまった。
「さっきのがバット?」
「はい。正真正銘バットです」
訊くとククリが軽くうなずく。
バットの見た目はコウモリに近かった。というよりほとんどコウモリだった。
「襲ってこなかったけど……?」
「いえ、ちゃんと攻撃してきてましたよ」
とククリは言う。
「どこが? 素通りしていったぞあいつ」
「いいですか。バットは超音波で相手の視神経を攻撃するんです。そして目が見えなくなった相手に体当たりをするというのがバットの戦い方なんです」
ククリは続ける。
「ですがマツイさんは知っての通り魔眼を持っていますから超音波攻撃は効きません。だから何もされなかったように感じたんですよ」
「なるほど、そうだったのか」
「魔眼や目薬草があればバットなんてスライムと大して変わりませんよ」
ククリの言う通り魔眼持ちの俺にとってこの地下六階層は地下一階層となんら変わらなかった。
バットはただ俺の頭上を飛び回るだけで体当たりすらしてこようとはしない。
そんなバットを俺は槍で一刀両断にしていく。
的が小さく意外とすばしっこかったので初めこそなかなか攻撃が当たらなかったが、におい袋を使い大量にバットを呼び寄せるとあとは適当に槍を振るだけでわんさと倒れていった。
大量のバットが頭上を舞うというのはほんの少しだけおぞましい光景ではあったがそれくらいはスキル獲得のため我慢した。
結局フロアには宝箱は最初にみつけた三つだけしかなく、バットの経験値も体の小ささに比例して雨粒ほどしかなかったのでスキル、バットコレクターを手にした時にはレベルは45から46に一つ上がっていただけだった。
そしてドロップアイテム九つが戦利品として手に入ったが、内四つがたいまつで五つが目薬草と、たいまつと目薬草の入れ食い状態だった。
さすがに皮の袋に全部は入りきらないのでたいまつは諦めたが。
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