第72話 秘密の話
リビングにて。
パジャマ姿の珠理奈ちゃんが俺を見ながら口を開いた。
「……つまりあの階段の先には写し鏡の門という大きな鏡があってそれを通り抜けることが出来るんですね」
「そう」
「……通り抜けた場所がトウキョウダンジョンという地下迷宮なんですね」
「そうそう」
「……そのトウキョウダンジョンというところにはモンスターとか不思議なアイテムが出てくるんですね」
「その通り。いやあ、わかってくれたみたいでよかったよ。だからね、このことは黙っていてほしいんだ。こんなこと世間に知られたら――」
「……わたしのこと子どもだと思ってバカにしているんですか?」
「え、いや、バカになんてしてないってば」
「……わたしのこと信用できませんか?」
「いやいやいや、信用してるからこうやって話してるんだって」
珠理奈ちゃんは口を真一文字に結び俺をにらみつけている。
と思ったらお尻のポケットからスマホを取り出した。
「……秀喜おじさんが庭で何かしているってお母さんに報告します」
「わー、駄目駄目っ、初子姉ちゃんは絶対駄目っ!」
「……だったら本当のことを話してください」
「だから話してるんだってばっ」
やはり予想通りすんなりとは信じてもらえないようだ。
「ちょっと待ってて、証拠を持ってくるから」
そう言い置くと俺は自分の部屋から天使の靴を持って戻る。
「ほらこれ、ダンジョンで拾ってきたアイテムだよ。天使の靴っていうんだ」
「……翼がついているだけですよね」
「履いてみればわかるから」
「……」
「いいから履いてみなよ」
珠理奈ちゃんに天使の靴を履くように促すと珠理奈ちゃんはしぶしぶそれを履いてみせた。
ふわっ。
「……えっ、えっ、きゃっ」
うまくバランスが取れず俺の腕にもたれかかる珠理奈ちゃん。
「その靴宙に浮いてるでしょ。そんな靴今の科学技術で作れると思う? 子どもじゃないならわかるだろ?」
「……ぅ~」
返す言葉がないのか「ぅ~」とうなり声を上げる。
よかった。
これが早紀姉ちゃんみたいなネジが抜けてるタイプの人間だったら話が通じないところだった。
「……わ、わかりました。信じられないですけど一応信じます」
「そっか。ありがとう」
俺から手を放し靴を脱ぐ珠理奈ちゃん。
パジャマの袖を整えながら、
「……モンスターが出るんですよね。危険じゃないんですか?」
俺を見上げてきた。
「ああ、問題ないよ」
危ない場面は何度かあったが心配させないようにそう答えておく。
「中で上がったレベルはそのままだし、ダンジョンには案内人もいるから」
「……案内人? その人って女性ですか?」
「うん、まあそうかな」
ククリは精霊だけど一応性別は女だよな。
「……ふーん。お母さんに黙っていてほしいですか?」
「そりゃもちろん。というか初子姉ちゃんだけじゃなくてみんなに秘密にしておいてほしいんだけど」
今の時代どこから話が広がり出すかわからない。
そうなったらダンジョン探索どころではなくなってしまう。
すると珠理奈ちゃんは俺が下手に出たのをいいことに、
「……じゃあ今度ダンジョンに行った時わたしに何かお土産持って帰ってきてください」
妙なことを言い出した。
「え、お土産?」
「……はい。そうすれば秀喜おじさんとわたし二人だけの秘密にしておきます」
「お土産かぁ……」
俺は珠理奈ちゃんを盗み見る。
この子は初子姉ちゃんに似て賢い子だからダンジョン内のアイテムを誰かに見せびらかしたりするようなことはしないとは思うが……。
「うーん……」
「……嫌ならお母さんに電話します」
「あー、わかったよ。なんか持って帰ってくるよっ」
「……秀喜おじさん、ありがとうございます」
俺が返すと珠理奈ちゃんは満足そうに頭を下げた。
丁寧な言葉とは裏腹にその顔には初子姉ちゃんそっくりの意地悪そうな笑みを浮かべていた。
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