第61話 高木さんからの申し出
「え……ゴジラくん!? な、何やってるのこんなところで? お、お客さん?」
「い、いやそれは。た、高木さんこそ何してるの?」
突然の高木さんにしどろもどろになりながらもなんとか平静を装いポチを連れてカウンターに近付いていく。
「え……わ、わたしはここで働いているんだけど」
「でもこの前宅配業者で働いてるって言ってなかったっけ?」と言おうとして俺は思いとどまった。
少しばつが悪そうにしている高木さんを前にそのセリフはなんとなく言わない方がいいような気がしたからだ。
だが高木さんの方から話し出した。
「……わたし今仕事掛け持ちしているんだよね。へへ~、ちょっと訳ありで」
「へー、そ、そうなんだ」
「ゴジラくんは? 今日も仕事休み?」
「あ、あー、俺は……フレキシブルなんだよ」
最近テレビで耳にした単語を答えてみる。
もちろん大嘘だ。
「そうなんだ~。で今日はお客さんとして来てくれたの?」
「あ、あーそうだよ。この犬ポチっていうんだ」
「へ~可愛いね。よろしくねポチ」
「わんっ」
「あはっ、いい子~」
高木さんが笑顔を見せた。ナイスポチ!
すると高木さんは防犯カメラを気にしながら小さく手招きをする。
「ん?」
それを受けて俺はカウンターに近付いた。
高木さんがカウンターから身を乗り出し俺の耳に顔を寄せてくる。
そして、
「ここ預けないほうがいいよ」
こそっとささやいた。
続けて、
「わたしもうすぐ上がりだからちょっと外で待っててくれないかな?」
言うとカウンターの中に身を引っ込める。
俺がその言葉に戸惑っていると「お願いっ」と可愛く口元で両手を合わせる高木さん。
気になる女性にそこまでされて断れる男がいるだろうか、いや、いない。
俺は一つうなずくとポチを連れ建物の外に出たのだった。
「くぅん?」
ポチが見上げてくる。
「ちょっと待ってような、ポチ」
「くぅん」
得も知れぬ期待に胸を高鳴らせ高木さんを外で待つこと三十分。
さすがに思っていたより長いなぁと途方に暮れていると、
「ごめんなさいゴジラくんっ。ちょっと時間がかかっちゃって……」
高木さんが建物の裏手から回ってきた。
「いや、全然大丈夫」
「ほんとごめんねっ。ポチもごめんね」
言いながら高木さんはポチの頭を優しく撫でる。うらやましいぞポチ。
「そ、それで話があるんでしょ」
俺は高木さんに話を促した。
「うん、裏に駐輪場があるからそっちで話してもいい?」
「いいけど」
駐輪場に移動すると高木さんは自分の自転車の前で口を開いた。
「ここのペットホテル、前にペットの管理がずさんだったことがあって営業停止処分を受けたことがあるみたいなの。ゴジラくんには言っておいたほうがいいと思って」
「へーそうだったんだ……うん、ありがとう。聞いといてよかったよ」
「それなのに一泊二万円もとるんだよ」
と高木さん。
「え、二万も!?」
すごい高いじゃないか。相場の四倍くらいするぞ。
とここで高木さんが急に押し黙ってしまう。
……どうしたんだろう?
俺変な返しでもしたかな?
俺もつい黙ってしまい二人の間を沈黙が流れる。
「……」
「……」
「わんわんっ!」
静寂を破ったのはポチだった。
それを合図にしたかのように高木さんが言葉を発した。
「……ゴジラくん出張? それとも旅行とか行くの?」
「え?」
「ほらペットホテル使う人って大概そうだから」
「あー、俺は半分仕事の半分旅行みたいな感じかな……」
ダンジョンに潜るとは言えるはずもない。
「どれくらい行くの?」
「それが決めてないんだよ」
ダンジョンに出るモンスターとアイテム次第ってところかな。
「ふ~ん、散歩とご飯くらいならわたしポチの面倒みてもいいけど」
「えっ、本当っ?」
「うん」
好きな人にペットの面倒をみてもらう。それは願ってもないことだが……。
こんな幸運あるのだろうか?
「……ただその代わりね……」
高木さんは言いにくそうに言葉を紡ぐ。
俺を見上げながら、
「……一日五千円でどうかな?」
うーん……邪推だが、もしかしたら高木さんは俺よりお金に困っているのかもしれない。
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