第59話 百万円超え
一万円札の束を持った全裸の俺は写し鏡の門のある部屋へと狭い通路をはいはいで進む。
部屋に出ると、
「なあ、ククリ。また一緒に俺ん家行くか?」
ククリに訊ねた。
前回は楽しそうにしていたから今日もついてくるだろうと思って訊ねたのだがククリの答えは意外にもノーだった。
「どうしてだ? 遠慮しなくてもいいんだぞ。それともうちはあんまり楽しくなかったか?」
「いいえ違うんです、すごく楽しかったですっ」
ククリはぶんぶんと首を横に振る。
「だったらなんで……」
「……実はこのトウキョウダンジョンには地上にはない魔素という目に見えないエネルギーのようなものが満ち溢れているんです」
ククリは俺の目を見て真剣に話し始めた。
「まそ?」
「はい。人間には特に影響はないのですが、精霊にとっては魔素は命の源のようなもので魔素がないと精霊は生きてはいけないんです」
「ふーん……」
「なのであまりちょくちょく地上には出られないんですよ」
と残念そうにククリは言う。
「そっか……それじゃ仕方ないな」
あまりよくわからないけど。
「でもでも、そのうちまたマツイさんのうちに絶対行かせてもらいますからね」
「ああ、その時はまたオムライス作ってくれ」
「はいっ」
ククリの笑顔に少しだけ寂しさを覚えつつ俺は写し鏡の門の前に立った。
「じゃあ俺は一旦帰るからなククリ。一日したら戻ってくるよ」
「はーい。いってらっしゃい」
手を振るククリを背に俺は写し鏡の門を通り抜けた。
◇ ◇ ◇
石階段を上がり、
「あー、まぶしい」
朝日に照らされながら家路につく俺。
玄関を開けるとポチが玄関マットの上で行儀よくお座りしていた。
「なんだポチ、待っててくれたのか?」
「わんっ」
まるで俺が帰ってくる時間をわかっていたかのようにポチは出迎えてくれた。
足元にすり寄ってきて顔をこすりつけてくるポチ。
「可愛いなぁポチはまったく」
俺はあごの下をわしゃわしゃと撫でてやる。
「なんか服着てくるからちょっと待っててくれよ。そしたら朝ご飯にしような」
二階に上がり自室に入ると適当に服をあさった。
そして俺は机の引き出しを開け前回のダンジョン探索の時のお金を確認した。
九万二千七百六十円ある。
そこに今回稼いだお金、百七万五千六百三十円を入れた。
「ふぅ……大体百十七万くらいか」
俺がこれまで働いてこなかった分を取り返すには正直全然足りないが確実に稼げてはいる。
「まだまだこれからだ……やるぞっ!」
俺は気合いを入れるとポチの待つ一階へと下りていった。
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