第40話 ゴブリンコレクター
ゴブリンを誘い出すため俺は布の袋の中からにおい袋を取り出すと首にかけその口を開けた。
壁を背にして通路上でしばらく待つ。
するとゴブリンがわらわらと現れだした。
俺はついさっきベアさんから買ったばかりの鋼の剣でゴブリンたちを斬り倒していく。
さすがにさっきまで使用していた錆びた剣と比べると斬れ味が格段にいい。余計な力は不要だった。
スキル、ゴブリンコレクターを取得するため俺は千体を目標にゴブリンを次々と血祭りにあげていった。
一時間の制限時間前に一旦地下一階層へと足を踏み入れ、再び地下二階層へと戻るを繰り返し百体、二百体と順調に数を稼いでいく。
そしておよそ半日が過ぎた頃、
【ゴブリンコレクターを取得しました】
目の前に文字が浮かび上がった。
「ククリやったぞ! ゴブリンコレクターだ、ゲットしたぞ!」
「やったー! やりましたね、マツイさん! これでゴブリンと名のつくモンスターに対して三倍のダメージが与えられますよっ!」
自分のことのように喜んでくれるククリと手を合わせる。
俺はステータス画面を確認してみた。
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マツイ:レベル23
生命力:58/58
魔力:23/23
攻撃力:30
防御力:27
素早さ:26
スキル:魔眼、スライムコレクター、ゴブリンコレクター
魔法:バトルマッチ、ヒール、バトルアイス、キュア
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ホブゴブリンの経験値は雀の涙ほどしかなかったがゴブリンはそれなりに経験値が高いらしく、千体倒した俺のレベルは13から23にまで跳ね上がっていた。
さらに新しい魔法を二つも習得していたのだ。
俺はにおい袋の口を閉じると今度は布の袋を開けて中を確認する。
千体もゴブリンを倒せば自然とドロップアイテムも多数獲得できる。
俺はその内、売値の高いアイテムと実用性の高いアイテムを入れられるだけ布の袋の中にしまい込んでいた。
「だいぶ強くなりましたねマツイさん」
「そうだな。アイテムも持ちきれないくらい拾ったしな」
ベアさんがいればすぐにでも売り払いたいところだがベアさんはとっくに別の階層に行ってしまっている。
ちなみに一度ダンジョンを出て入りなおしたからかそれとも出血多量で勝手に息絶えたのかわからないが俺が右腕を斬り落としたゴブリンには遭遇することはなかった。
「このまま地下三階層まで行きますか?」
「そうだなぁ……地下三階層のモンスターは強いのか?」
「ゴブリンよりは強いですけど今のマツイさんなら問題なく勝てますよ」
とククリは言う。
俺の現在の装備品は攻撃力+10の鋼の剣と防御力+10のくさりかたびらと防御力+2の天使の靴とゴブリンから手に入れた防御力+1の皮の帽子。
所持アイテムは攻撃力+10の鋼の弓と薬草九つと魔力草七つとにおい袋と黒曜の玉とワーム草。
黒曜の玉とワーム草はそれぞれ相手を混乱させる効果と混乱を治す効果があるらしい。
売ればそこそこの値段だと言うので一応とっておいた。
「じゃあ地下三階層に行く前に魔法の試し撃ちだけしておいてもいいか?」
「そうですね、いきなり実戦で使うのは心配ですからね」
新しく覚えた魔法バトルアイスとキュア。
ククリの説明ではバトルアイスは攻撃魔法でキュアは解毒魔法ということだったが……。
俺はまずバトルアイスを試すことにした。
壁に向かって手を出し、
「バトルアイス!」
呪文を唱える。
手のひらからハンドボール大の氷の塊が出てきてゴトンと石畳の上に落ちた。
「……なんだこれ?」
俺は地面に落ちた氷の塊に目をやるが、見たところなんの変哲もないただの氷だ。
「バトルアイスです」
ククリが平然と言う。
「これのどこが攻撃魔法なんだよっ。氷が地面に落ちただけじゃないかっ」
「そんなこと言われたってそういう魔法なんですから」
なんなんだ一体。
バトルマッチにしろバトルアイスにしろてんで使い物にならない。
「おい、ちょっと待てっ。今ので魔力が15も減ってるぞ」
ステータスを見ると23/23だった魔力が8/23になっていた。
「はい。バトルアイスの消費魔力は15ですから」
「全然使えないのにっ?」
「使えるか使えないかは結局マツイさん次第ですよ」
とククリはいいことを言ったみたいな顔をして満足げにうなずいている。
「なんだよそれ」
二度と使わないぞ、こんな燃費の悪いしょうもない魔法。
「では次はキュアですね。キュアは解毒魔法なので今使っても意味はないんですけどね」
ぱたぱたと羽を動かし俺の目の前を飛ぶククリ。
「ものは試しだ、ついでだから使っておくよ」
万が一毒を受けた時キュアが使えないんじゃ困るからな。
「キュア!」
俺は唱えた。
……。
……。
何も起こらない。
「……ククリ、これってもう発動したのか?」
てっきりヒールの時みたいにオレンジ色の光に包まれたりするのかと思っていたのだが。
「マツイさん、マツイさん」
「なんだ?」
「キュアの消費魔力は10です」
「は? じゃあ使えないじゃないか。今の俺の魔力は8だぞ」
さっきしょうもない魔法を使ったせいで。
「いいですか? ですからこういう時にこそ魔力草を食べればいいんですよ、マツイさん」
人差し指をぴんと突き立て物分かりの悪い子どもに優しく勉強を教えるようなテンションでククリが言った。
「魔力草は食べることで少しだけ魔力を回復できますからね」
「……わかってたんなら早く教えてくれればよかっただろ」
自信満々に「キュア!」と唱えて何も起こらない時の恥ずかしさったらないぞ。
「さあさあ、この魔力草を早く食べてください」
ククリは俺が肩にかけている布の袋から魔力草を一枚取り出すと俺の口に押し付けてくる。
「ちゃんと食べるから押し付けるなっ……」
もぐもぐ……不味い。
渋くて苦くて不味い魔力草を飲み込むと、
「これで魔力は回復したはずですからキュアを使ってみてください」
ククリが促す。
俺は言われるがまま、
「キュア!」
と唱えた。
その瞬間全身が暖かなピンク色の光に包まれる。
「おおー」
心が落ち着く光だった。
しばらくすると光は消えた。
「今のがキュアです。わかりましたか?」
「……ああ。悪くないな」
ヒールと同様光に包まれている間いい気持ちがした。
「では心の準備も出来たことですしそろそろ初体験の地下三階層に向かいますか」
「ああ、そうしよう」
俺は鋼の剣を握る手にぐっと力を込めると力強く返事をした。
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