第3話 全裸
「うわっ、なんだ!?」
ついさっきまでジャージの上下に剣道着を着て木刀と懐中電灯を持っていたはずなのに鏡を通り抜けたと思ったら持ち物はすべてなくなっていて俺は全裸になっていた。
誰も見ていない、というかそもそも暗くて何も見えないのだが俺はとっさに大事な部分を手で隠す。
「どうなってんだっ」
「どうなってんだっ」という声が反響して聞こえた。どうやらここは狭い空間のようだ。
素足に伝わってくるごつごつとしたそれでいて冷たい感触からして俺は石畳の上にいるのかもしれない。
俺は片手で大事な部分を隠したままもう一方の手で宙を探ってみる。その姿はさながら変態チックな座頭市のよう。
慎重に慎重に少しずつすり足で前に進んでいくと何かかたいものに手が触れた。
「……ん?」
手触りでなんとなくだが、
「石、で出来た壁か……?」
そう判断する。
俺はそのまま壁に沿ってゆっくりと進んだ。
五分近くかけて石で囲まれた空間を一周した結果、おそらくだがここは俺の部屋と同じくらいの六畳ほどの石造りの部屋だということがわかった。
その頃には目も暗さに慣れてきてうっすらとだが部屋の中が見えるようになっていた。
部屋の中央には俺が通り抜けてきたと思われる大きな鏡が設置されていて手を近付けるとすごい引力でまたも鏡の中に吸い込まれそうになった。
俺の勘が正しければこの鏡に手をかざせばもと来た階段に戻れるはず。
それならばこの鏡からさっさと家に戻って熱い風呂に入り頭をすっきりさせたいところだがそうもいかない。ポチを捜さなくてはな。
鏡に映った貧相な体から目をそらし俺は部屋の中を見回した。
すると部屋は密室ではなく茶室にある小窓のような出入り口が部屋の隅に開いていることに気付く。
もしかしてポチはあそこからさらに先に行ってしまったのだろうか?
「……仕方ない」
俺にとっては家族同然のポチを見捨てるわけにもいかず、少ない勇気を振り絞って俺はその出入口をはいはいの体勢でくぐった。
全裸ではいはい……はたから見たらあまりに情けない姿だろうが誰も見ていないのだ。構うものか。
短い距離をはいはいで進むと開けた場所に出た。
高さ、横幅ともに四、五メートルくらいの石造りの通路で遠くまで続いている。
「おーい! ポチー!」
膝についた小石を払いながら立ち上がり呼んでみるがむなしく声が響くだけ。
どこにいるんだよ、ポチ。
俺がため息交じりにふぅ~と息を吐いたその時だった。
前方から明るい光を放ちながら何かが飛んできた。
「……ん? なんだあれ」
サッカーボール大の光はどんどん俺の方に近付いてくる。
距離が近付くにつれて光は明るさを増し暗闇にすっかり慣れ切っていた俺はまぶしすぎて目をそらしてしまう。
その光は俺の目の前でぴたっと止まると話しかけてきた。
「はじめまして、二番目の探索者さん」