第29話 あれから一週間
「マツイさんやりましたねっ」
ホブゴブリンを倒した俺のもとにククリが笑顔を浮かべ飛んでくる。
「ああ」
宝箱と階段が現れ部屋を塞いでいた石壁が開く。
すると通路には右腕を失ったゴブリンの姿が。
「!」
ボウガンを手にしたゴブリンはククリめがけてボウガンの矢を放つ。
「ククリ危ないっ!」
俺が叫ぶがその矢はびゅんと風切り音をたてククリの背中から突き刺さり腹を貫通した。
「かはっ……!」
血を吐いて石畳の上に倒れるククリ。
「ククリっ! ククリっ! ククリーーっっ!!」
どすん。
「……はっ!?」
手を伸ばしながらきょろきょろと周りを見回す。
気付けば自分の部屋の床の上、毛布と一緒にベッドの横に転がっていた。
俺はまた悪夢を見てうなされていたようだ。
「はぁ……夢か……」
トウキョウダンジョンに潜るのをやめてから一週間、俺は未だにゴブリンに殺されそうになった恐怖心を拭い去れないでいた。
目を閉じると目の前に迫ったボウガンの矢が嫌でも思い浮かぶのだ。
その恐怖心は俺の夢にまで影響を及ぼしていた。
「ククリ……」
そして気がかりなのはやはりククリのこと。
ダンジョンに一人残してきたククリは果たして無事なのか。
その心配は日増しに強くなるばかり。
そんなにククリのことが心配なら早くダンジョンに行くべきなのだが一度芽生えてしまった恐怖心はなかなか振り払えない。
俺は何度か写し鏡の門の前までは行ったのだがそこから先へは二の足を踏んでしまっていた。
食事もろくにとらずネットもテレビもつけずただ毎日決まった時間にポチのエサをやるだけのアンドロイドと化していた俺は一階に下りポチの朝ご飯の用意をすると今日も今日とて寝巻きのスウェット姿のままソファにだらんと腰かけ、無為な時間を過ごそうとしていた。
朝ご飯を食べきったポチが散歩に行きたそうに俺の服の袖にかみついて引っ張るが、
「……悪いなポチ、そんな気分じゃないんだ」
俺はポチの頭を二、三度撫でるだけ。
そんな俺に向かってポチは「くぅん」と寂しそうに鳴くと俺の隣で丸くなった。
そのまま二時間が経過した頃、
ピンポーン!
「お届け物でーす!」
はつらつとした女性の声が玄関から聞こえてきた。
面倒だな……あとでいいか。
一瞬そう思ったが、
「代引きですー!」
なんとなく聞き覚えのある声につられて俺はスウェット姿のまま玄関に足を運んでいた。
そしてドアを開けると、
「あっ、やっぱりゴジラくんだっ」
そこにいたのは宅配会社の制服を着た高木さんだった。
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