第27話 ホブゴブリン
曲がりくねった通路を抜けると大きな部屋が見えた。
中を覗き込むとホブゴブリンの姿も確認できる。
「さあ、早く行きましょう」
「わ、わかってるから押すなって」
ククリが俺の背中をぐいぐい押してくる。
「もう、本当に一時間経っちゃいますよ。ほら勇気を出してっ」
「あっおい……」
意外と力の強いククリに押され俺は部屋の中へと足を踏み入れた。
その瞬間ホブゴブリンが俺を視界にとらえ背後の通路が石の壁で塞がれた。
『ギギギッ』
血走った目で俺をにらみつけてくるホブゴブリン。
「私は離れて応援していますから頑張ってくださいっ」
ククリが俺から距離を取ったところから声を飛ばしてくる。
他人事だと思って……。
それにしても、
「でかいな……」
さっきまで子どもサイズのゴブリンを相手にしていたせいか俺と同程度の背丈があるホブゴブリンは余計に強そうに見える。
『ギギギッ』
俺を見据え一歩一歩近付いてくるホブゴブリン。
しかも、
「おい、ククリっ。あいつ武器持ってるぞっ」
そうなのだ。ホブゴブリンは突起物が無数に突き出た金棒のような武器を手にしていた。
「大丈夫です! マツイさんの刀の方がちょっと長いですから!」
ククリは言うが、
「あんなので殴られたらひとたまりもないぞ……」
見るからに凶器という感じのフォルムにさすがに膝が震える。
『ギギギッ!』
「!」
何がきっかけだったのか突然ホブゴブリンが俺めがけて駆け出した。
地獄の鬼が持っていそうな金棒を振り上げ向かってくる。
口を大きく開けよだれをまき散らしながら走ってくる姿はまた別の恐怖を感じる。
ドゴッ!
ホブゴブリンの振り下ろした金棒が石畳を砕く。
俺はとっさに後ろに飛びのいてこれを避けていた。
『ギギギッ』
ホブゴブリンは金棒を持ち上げなおも俺に一撃浴びせようと踏み込んでくる。
「くっ……」
俺はホブゴブリンの振り回す金棒を避けるのに必死だった。
刀で防ぎたいところだがあの重量感のある金棒を細い刀身で受け止められるかが心配だ。
下手すりゃ折れて使い物にならなくなる。
「マツイさんっ、反撃反撃っ!」
ククリの声が耳に届く。
「あの金棒が邪魔なんだよっ。どうにかならないかっ」
俺は金棒から目をそらさずにククリに訊ねた。
「魔法を使ってみてください!」
ククリが声を上げる。
魔法?
魔法ったって俺は指先からちっちゃな火を出すバトルマッチと回復魔法のヒールしか覚えていない。
「俺には、攻撃魔法なんてないぞっ」
ホブゴブリンの攻撃を避けながら返す。
「ホブゴブリンは火が苦手なんです! バトルマッチが役に立つはずです!」
「ほんとかよっ。バトルマッチなんて――あっちぃっ!」
俺がバトルマッチと口にしたと同時に右手の人差し指から火が燃え上がった。
刀を握り締めていたため親指に火が当たってしまった。
反射的に刀を落としてしまう。
まずい! と思ったが、
『ギギギッ!?』
ホブゴブリンは攻撃の手を止めわなわなとその場に立ち尽くしていた。
明らかに俺の指から出ている火を見て動揺している。
「だから言ったでしょう? さあ今がチャンスです、思いきりバサッといっちゃってください!」
「お、おう」
俺は右手をホブゴブリンに突き出しながら左手で刀を拾うとそのままホブゴブリンに斬りかかった。
ザシュ。
利き手ではなかったので力こそ入りきらなかったが頭部への攻撃は成功した。
『ギギギッ……!?』
妖刀ひとがしらの効果でホブゴブリンは苦しみもだえ、うずくまりながら倒れる。
俺は人差し指から出ていた火を吹き消すと泡状になって霧散していくホブゴブリンに目をやった。
するとホブゴブリンのいた場所に宝箱が出現し、ゴゴゴゴゴ……と通路を阻んでいた石の壁がなくなって階下への階段が現れた。
「マツイさんやりましたねっ」
ククリが笑顔で飛んでくる。
「ああ、ククリのおかげだな」
「えへへ、そんなことないですよ~。それより宝箱開けてみましょうよ」
「そうだな」
俺は宝箱に目をやった。
フロアボスを倒すと必ず現れるという宝箱。中には何が入っているのだろう。
「フロアボスの宝箱は罠はないですから安心して開けていいですよ」
ククリが言うので透視能力は使わず宝箱をガチャっと開けるとそこには、
「おっ! 魔石だ!」
青く光る魔石が入っていた。
「やったぞ!」
俺は感情表現があまり得意ではないがこの時ばかりは素直に嬉しさを表現できた。
なぜなら魔石は一個十万円でベアさんに買い取ってもらえるからだ。それにモンスターに投げれば即死効果もある優れもの。
俺は喜び勇んで宝箱の中の魔石を掴み取った。
とその時だった。
「マツイさん危ないっ!」
ククリが叫んだ。
ククリの声でとっさに振り向いた俺の目の前三十センチのところにボウガンの矢が迫っていた。
そしてその後方には俺が右腕を斬り落としたゴブリンが片腕でボウガンを放っている姿がスローモーションのようにはっきりと見えた。
避けられない、死ぬ!
俺が死を覚悟した瞬間――
空間がぐにゃりとねじ曲がった。
ボウガンの矢もゴブリンもククリも部屋全体がねじ曲がって俺は強烈な吐き気とめまいに襲われる。
そして……。
……。
……。
……。
どれくらい気を失っていただろうか、気付くと俺は写し鏡の門の前に全裸で倒れていた。
一時間というフロアの制限時間を超えたためダンジョン外に強制退出させられたと理解できたのはそれからしばらく経ってからだった。
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